『黒鳥の湖』/宇佐美まこと ◯

黒鳥の湖 (祥伝社文庫) [ 宇佐美まこと ] - 楽天ブックス 悪い因果が絡み合いすぎてて、どっと疲れました・・・。イヤミスという感じではなく、少しずつ崩れていく主人公の「幸せの土台の脆さ」がこれでもかと畳み掛けてくる展開が、息苦しかったですねぇ。言ってしまえば、因果応報。安易に走ったが故の、不幸。宇佐美まことさんの作品は今まで読んだことがなかったのですが、なかなかにズッシリ来るものがありましたね。『黒鳥の湖』というタイトルから想像していた、「白鳥の群れの中の唯一の黒鳥の疎外感」ではなく「誰もが黒鳥であった」という物語に、げっそりしてしまいました。 伯父から引き継いだ財産を元に起業して規模拡大し、大手企業へと成長させた、財前彰太。美しい妻と一人娘、社長を務める会社は人材に恵まれ成長している。順風満帆なはずの彼の心をざわつかせるのは、巷を騒がせている「肌身フェチの殺人者」の犯行。調査事務所に勤務していた時代に、とある老人の依頼で探していた誘拐犯の犯行が、それにそっくりなのだ。そして、彰太にはその老人の執念を利用して、自分の伯父を誘拐犯に仕立て上げ殺させた、という誰にも言えない過去があった。あのときの本当の犯人が、時を経てまた同じ犯罪を犯しているのではないか・・・。 18年前の伯父の殺人に関して、たまたま犯人が捕まらなかったから良かったものの、素人の老人が殺人を犯したら簡単に捕まりそうだと思うんですが、そんな雑な計画に賭けるのは、あまりにリスクが高いんじゃないでしょうかね・・・。その点に関して…

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『望月の烏』/阿部智里 ◯

望月の烏 [ 阿部 智里 ] - 楽天ブックス 阿部智里さんの〈八咫烏世界〉シリーズの第2部4冊目となる本作、『望月の烏』。このシリーズの一番最初も〈后選び〉だったな・・・、再び后選びが描かれるのかと思うと、複雑な気持ちになりますね。シリーズ第1作『烏に単は似合わない』の時代とは、隔世の感があります。きらびやかに競い合いながら、それぞれに成長していく〈后候補〉の姫君たちの個性の美しさ・強さにとても心惹かれた物語でしたが、本作では同じ后選びながら、メインは若き金烏・凪彦の成長と挫折、落女・澄生と博陸候・雪斎(雪哉)の対立。シリーズを読み続けている読者はもう知っている、〈いずれ必ず起きる山内の崩壊〉に対して、どうしていくことが正解なのか・・・。 真赭の薄と澄尾の娘・澄生は、落女(女としての籍を捨てて官吏となった女性)となり、美貌と対応の絶妙さをもって宮中の官吏たちを魅了している。東西南北の重要貴族家から一人ずつ后候補を集めて、后選びをする〈登殿の儀〉。南家からは蛍(皇后内定)、東家からは山吹(側室内定)、北家からは鶴が音(羽母=乳母内定)、西家からは桂の花(立場なし)が選出され、桜花宮で暮らし始めるのだが・・・。 桜花宮での行事の際、目に止まった澄生を召し出した金烏・凪彦は、彼女から「博陸侯・雪斎から上がってくる報告は、宮烏にとって都合よく捻じ曲げられたものである」と聞き、彼女を通して庶民がどう扱われているかを知ることになる。もちろん、雪斎の息のかかった側近たちからの話も聞き、「金烏としてどうあ…

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『殉教〈闇の西洋絵画史(10)〉』/山田五郎 ◯

殉教 (アルケミスト双書 闇の西洋絵画史〈10〉) [ 山田 五郎 ] - 楽天ブックス You Tube「山田五郎 オトナの教養講座」で、絵画鑑賞初心者の私にもわかりやすく面白い絵画解説をしている山田五郎さん。本書『殉教〈闇の西洋絵画史(10)〉』は、全10冊からなる〈闇の西洋絵画史〉シリーズの、堂々最後の10冊目です。シリーズ前半の『横死〈闇の西洋絵画史(5)〉』と対になる、本作。〈横死〉は「非業の死」であり、〈殉教〉は「キリスト教における教義のために甘んじて受け入れる死」であるとすると、明確な対であるというよりは対比なのかしら。 キリスト教にあまり思い入れがないため、本書に取り上げられる絵画に関して今ひとつ関心が持てなかったことを、先に告白しておきます・・・。ごめんなさい、五郎さん・・・。でも、西洋美術の理解には、キリスト教の知識があったほうがより深まるので、ざっくりと読み流しつつも「いろんな拷問方法でなくなった聖人は、その方法に関わる出来事の守護聖人になったりするのね」ということを理解したりはしました。 しかし、殉教というテーマのみで、これだけの数の絵画が取り上げられる(多分これは主要なものであって、もっとたくさんあるんだろうと思います)のですから、「殉教図」から「信じるもののためであれば、苦痛にも耐えられる」ことを教えられた人々がたくさんいた、ということなんでしょうね。逆さ十字、火炙り、煮え湯責め、矢衾、斬首、かなりリアルに描かれるそれらの殉教図。結構エグいんですが・・・。 シリ…

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『コロナ漂流録』/海堂尊 ◯

コロナ漂流録 2022銃弾の行方 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ) [ 海堂 尊 ] - 楽天ブックス 海堂尊さんの前作『コロナ黙示録』・『コロナ狂騒録』に続く3部作の最終巻、『コロナ漂流録』。人類を、恐怖のどん底に叩き落した「Covid-19」のパンデミック。2019年の発生から、いくつもの感染拡大の波が人類を襲い、日本でも感染者数は増え続け、ワクチンが開発されれば推奨派と否定派が争い、治療薬を巡っては製薬会社の補助金詐取疑惑まで発生。今作でも、我々のいる現実世界の出来事を物語に落とし込み、キャラのたった登場人物たちが丁々発止とやり合い、2022年6月~2023年1月という短い間の出来事を、濃密に描き出しています。いやあ・・・毎度のことながら、「これ、大丈夫なの??」と心配したくなるぐらい、現実に沿った出来事や人物を批判たっぷりに描いています。 東城大学医学部付属病院。言わずと知れた、我らが〈桜宮サーガ〉シリーズの主要舞台でもあり、主要登場人物・田口センセ(今や教授)の職場でもある、この病院にある学長室(元病院長室)から、物語は始まります。愚痴外来(不定愁訴外来)室と学長室を取り替えっこしようという、高階学長の申し出に付属してきた、田口センセへの新人指導依頼。現れた新人は〈暴走ラッコ〉と命名された洲崎医師。 ・・・うわぁ、ダメだ(笑)。起こった出来事をかいつまんで書こうとしても、とにかくいろいろな事態が発生し、二つ名持ちの登場人物たちが存分に猛威をふるい、フィクションなのに現実で起…

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『マリエ』/千早茜 ◯

マリエ [ 千早 茜 ] - 楽天ブックス 千早茜さんは、曖昧に揺れ動きながらいつしか芯を見出して、そこへ踏み出していく心情を描くのが、ホントに上手いですねぇ。本作『マリエ』でも、アラフォーの主人公・まりえの、離婚~その後の生活~新しい出会いと迷い~そして心に決めた方向へ踏み出していく様子がつぶさに描かれていました。 ただねぇ・・・、まりえは恵まれてると思うんですよ。本人がちゃんと掴んできたものの結果だから、ずるいということではないんですが。責任はついて回るものの役職にも着いていて、都心で余裕を持って一人で生活できるだけの収入があり、7歳年下の男性と出会って微妙な関係を恋人関係にすることのできる魅力(容姿だけじゃないけど)があり、年齢の離れた話し相手がいたり、婚活をはじめる勇気や思い切りがある・・そんな女性だからこそ、こんなふうに〈オトナの女〉な物語になるというか。アラフィフでしがないパート労働者でただのオバハンな私の、ヒガミかもしれませんけど(笑)。 「恋愛がしたい」という夫と2年掛けて離婚を決心して、新たに生活を始めたまりえ。コロナ禍も波がありつつも少しずつ落ち着きを見せ始めたころ知り合った由井くんとは、自宅で小麦粉料理を教える仲だけど、彼は曖昧な行為を見せながらもそれ以上の関係に踏み込んでくる様子もない。別れた夫から「積み立てていたお金を分けるのを忘れていた」と返されたお金を使ってしまおうと「結婚相談所」に登録して、〈作った自分〉で出会いを繰り返し、由井くんと恋人関係になり、結婚相談所…

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『ペーパー・リリイ』/佐原ひかり ◎

ペーパー・リリイ [ 佐原 ひかり ] - 楽天ブックス 面白かった!!結婚詐欺師のこども・高校生の杏と、その結婚詐欺師に騙された女・キヨエの、ロードノベル。そんな設定からして、面白くないわけがないのですよ。しかも杏は自他ともに認める美少女、キヨエの方はちょっとも野暮ったさがあるものの育ちが良くてお人好し、そんな二人がポンポン言い合いながら旅を続け、途中車を失っても目的地にたどり着くんだから、達成感もありますしね。やってくれますな、佐原ひかりさん!!なかなかに、爽快でしたよ『ペーパー・リリイ』。 表紙イラストの杏とキヨエで、ずっとイメージしながら読んでました。猫っぽいツリ目の二人が手を繋いで、颯爽と駆け抜けながら、いくつものアクシデントに出会う。カッコいい!目的地の〈幻の百合〉が、異界に咲いていたっていうのも、すごく良かったですね。ずっとリアルな旅を続けて来た彼女たちが、ふと現実から逸れてやっと目的にめぐり逢い、そして解散する。そして、家に戻った杏は、詐欺師の叔父・京ちゃんから「キヨエって誰?」と言われるのだ。ひょえぇぇぇ!!!マジか、そこにそんな大逆転(笑)要素があったなんて!エモいとか言ってらんない(笑)。 キヨエこと本名トモコ、騙した額は300万じゃなくて100万、『貰えるもんは貰っとけ』。いやいや、親に大事にされすぎてて野暮ったくて、結婚詐欺師に騙されちゃうようなもっさりした女だと思ってたら、案外としたたかでした(笑)。最後に杏が「いつかどこかで再会したら、トモコと、呼びかける」とい…

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『物語の種』/有川ひろ ◎

コロナ禍の閉塞感でちょっと煮詰まっていた私達に、有川ひろさんからの小粋な贈り物。私達から集まってきた〈物語の種〉から、有川さんが芽吹かせてくれた素敵な〈物語〉たちが、10編。その名のままに本作『物語の種』は、読者である私の中にほっこりと花開いただけでなく、滋味深い果実すら与えてくれました。 いやあ、もうホント、たまりませんなぁ。どの物語も、ほっこりするし、キュンキュンするし、甘酸っぱいし、ニヤニヤしちゃうし、ときめくし、なんか・・・こう、心が内側からあっったかく発光してくるような感じがしましたねぇ。 「SNSの猫」猫派にはたまらん。しかもだんだん甘酸っぱいし!!「レンゲ赤いか黄色いか、丸は誰ぞや」夫婦のぽんぽんと進む会話が楽しい。「胡瓜と白菜、柚子を一添え」孫の漬物の好みを競い合う義父母、嫁のテクニック勝ち(笑)。「我らを救い給いしもの」〈好き〉があれば、耐久力は上がる。「ぷっくりおてて」祖父と孫の夏休み。ガバガバ設定の公式化。「Mr.ブルー」宝塚愛炸裂!一生善きヅカ友・・・!「百万本の赤い薔薇」この夫婦は、素晴らしいなあと思うわ~。「清く正しく美しく」自分の進退こそ、清く正しく美しく。「ゴールデンパイナップル」よさこい!よさこいですよ!元高知県民のワタクシ、ダダ上がり(笑)。「恥ずかしくて見れない」後輩くん、頑張れ(笑)。 どれもが、ホントに楽しく読めました!久しぶりに、有川さんの「甘酢っぺぇ~!!」とのたうちまわれるような物語の数々を、読みましたなぁ。ぽんぽんと飛び交う、勢いと洒落の効い…

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『ゆめこ縮緬』/皆川博子 ◯

1998年に初版、「日本屈指の幻想小説集」と評され集英社文庫を経て、更に2019年に角川文庫から出版された本書『ゆめこ縮緬』。8つの物語は、舞台を同じくするもの、登場人物が微妙に重なるものもあるが、それぞれ独立した物語。夢と現の境を滲ませ、登場する者たちの彼岸と此岸も曖昧なこれらの物語たちの中にはひっそりと幽鬼が立っているのではないか・・・。きっとその幽鬼は、柱の陰から路地の曲がり角から半身をのぞかせながら、ひんやりと湿った無表情で、物語の世界をぼんやりと眺めているのではないか・・・そんな妄想が走ってしまいました。皆川博子さんの、そんな少し湿度の高い物語世界を、堪能しました。 〈湿度が高い〉と書きましたが、高温多湿ではないんですよね。どちらかというと、温度は低い感じ。ひんやりと芯から冷えてくるような居心地の悪さ、屋外屋内にかかわらず常に泥濘んでいるような足元、1つボタンをかけちがえたかのような正常に見せかけて仄かな狂気を隠し持っている人々。明らかに指差しあげつらう事はできないけれど、少しずつ狂いが身に侵食してくる、それを許容するものはいずれ冷たい湿気に朽ちていくのかもしれません。 おっと、このまま感想を書き続けると、私の中の「イタいアレ」が全開になりそう(笑)。といいつつ、まだ書きます。事細かに具体的な感想を書くのが難しい気がするので・・・。 大正から昭和初期の、少しだけ上流階級社会の中で一族や家族からちょっと外れた存在として腫れ物のように扱われている人々、っていういだけで、すでに耽美な感じ…

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『怪談小説という名の小説怪談』/澤村伊智 ◯

澤村伊智さんの作品って、〈理不尽が過ぎるホラー〉と〈圧倒的に暴力的な怪異〉が無双しているのに、何故か「なんか私もヤバい状況に陥る可能性はあるよな・・・」と思えてしまう、不気味な感覚をもたらされるんですよね~。7つの短編からなる本作『怪談小説という名の小説怪談』も、それぞれ違った方向性のホラーが語られています。ただ、本作は、すっごく怖い!って感じではなかったですね。夏じゃなくても、問題なく読めました(笑)。 ちなみに、タイトルの「怪談小説」と「小説怪談」についてなんですが、定義としてどう違うのでしょうか・・・?勝手に「怪談小説」は〈怪談を小説化したもの〉、「小説怪談」は〈小説そのものが怪談〉であるもの・・・かなと思いましたが、どうなんでしょう。〈小説そのものが怪談〉というのはつまり、〈怖い話を語ること、それを記録すること自体が、怪談である〉って感じ?う~~ん、私の語彙力がなさすぎて、分類としてわかりにくくてすみません・・・。 7つの物語それぞれ、恐ろしさにバリエーションがありました。一番、澤村さんらしいよな~と思ったのが、「こうとげい」。理不尽が過ぎる(笑)。全く知らずに関わってしまった相手が〈そういう存在〉で、その地域全体で共謀して生贄とされてしまうなんて。なんとか逃げおおせたと思っていたら、ずっとずっと取り憑かれていたとしたら。語り手の男(とその妻)は、これからどうするのでしょうね・・・。 「笛を吹く家」の、なんだか違和感のある語り、だんだん見えてくる「語り手の夫婦が向き合わず諦めてきた事…

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『成瀬は天下を取りにいく』/宮島未奈 ◎

2024年本屋大賞ノミネート作、『成瀬は天下を取りにいく』。我が道を突き進む、芯の通った女子・成瀬。小さい頃から独立独歩、成績もよく、スポーツも嗜み、いろいろなことにチャレンジできる、前向き少女。そんな成瀬を、幼馴染や中学高校が一緒になった子や成瀬を好きになった男の子、関わりを持った大人たちなどの目線から描き、最後に成瀬の主観の章も。面白かったですね~。宮島未奈さん、初めて読む作家さんです。 表紙のイメージだけで「野球の西武ファンの女の子の物語」だと思ってたので、天下を取るってファンクラブや応援団のリーダーになるとかそういうコト?って読み始めたら、章タイトルが「ありがとう西武大津店」で、???ってなりました。そして、幼馴染・島崎の語る成瀬あかりという少女の、筋は通ってるけど周りとは一線を画した存在感に、一気に魅了されましたね~。人間出来てるわ~、成瀬(笑)。頭もいいし、運動も芸術関係も難なくこなし、言動に芯が通っていて、自信に満ちているのが、すごい。 そんな成瀬が、閉店する西武大津店に敬意を表して閉店までの約1ヶ月毎日通ったり、島崎と「ゼゼカラ」という漫才コンビを組んでM-1審査に出たり(一次敗退)、周りを気にしすぎる女子・大貫に同類に見られたくないと思われていたり、高1から東大のオープンキャンパスに行ったり(でも本当の目当ては西武池袋店)、百人一首かるた選手権大会に出て他地方の男子に想いを寄せられたり、「ゼゼカラ」として地域のイベントの司会を努めたり、島崎が東京に行くと知って動揺したり、次々…

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