『シャーロック・ホームズの凱旋』/森見登美彦 ◎

シャーロック・ホームズの凱旋 (単行本) [ 森見登美彦 ] - 楽天ブックス いやはや、森見登美彦さんらしい作品でしたなぁ!!迷走する登場人物たち、パラレルワールドが入れ子細工、ハラハラする展開からの大団円、なんかもうホントに楽しかったです!ヴィクトリア朝京都でワトソンが『シャーロック・ホームズの凱旋』を描いたこの物語、非常に良かったです!! 京都がヴィクトリア朝でシャーロック・ホームズがスランプで、っていう始まり方からして「え、ちょっと待って、なになに、どゆこと??」なのに、何故か自然に京都の町に女王陛下や辻馬車やガス灯が溶け込んで描かれていくのが、すごいですよね(笑)。さすがモリミー。 ヴィクトリア朝京都のシャーロック・ホームズは、「赤毛連盟」事件の失敗で、以前から感じていた躓きが明確になり、スランプに陥ってしまう。それによって、ホームズの活躍を雑誌連載をしていたワトソンも、休載を余儀なくされる。全くスランプから脱出できないホームズの下宿(寺町通221B)に、同じくスランプのモリアーティ教授が越してきて、更に向かいには最近探偵として名声を挙げつつあるアイリーン・アドラーが事務所を構える。ホームズはアイリーンとの対決で気力を取り戻すかと思いきや、なすすべなく洛西ハールストン館の竹林に庵を結んで隠棲しようとしたり、モリアーティ教授の失踪にショックを受けたり、引き受けた事件をすべてアイリーンに丸投げして自分は下働きに徹した末に、引退を宣言。更に、再度ハールストン館の謎に取り組んだ末に、失踪。…

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『書楼弔堂 ~霜夜~』/京極夏彦 ◎

書楼弔堂 霜夜 [ 京極 夏彦 ] - 楽天ブックス 先の年末から、京極夏彦さんの作品を結構読んでいます。職場の休憩室で、〈なんかいつも分厚い本読んでるヘンな人〉が定着してきたワタクシでございますよ(笑)。で、今回は〈書楼弔堂 シリーズ〉の最終巻『書楼弔堂 ~霜夜~』にの世界にどっぷりと浸らせていただきました。確かに分厚かったですけどね、厚さは3.5cm・頁数は511頁、大したことなかった・・・?・・・うん、たぶん感覚が狂ってるな(笑)。 前作『書楼弔堂 ~待宵~』から5年の時を経て。新しき活字書体考案に取り組む青年・甲野が会社の代表・高遠に依頼され、弔堂を訪れようとして道に迷うところから、物語は始まる。坂の途中の茶屋の主人・鶴田は「自分は行ったことがないが行き着ける」と説明し、実際甲野は弔堂に辿り着く。夏目漱石や岡倉天心をはじめとするあの時代の著名人たちと出会い、彼らへの選本を横で聞き、下宿仲間の伯父の形見である錦絵を買い取ってもらったり、自分の郷里での仕事(版画の彫師)に思いを馳せたりしながら、日々を過ごしているのだが、彼には郷里に何かしらのわだかまりがあるようである。 甲野の会社の代表である高遠は、1作目『書楼弔堂 ~破暁~』の案内人・高遠ですねぇ。破暁のラストで姿を消した彼が、さりげなく「印刷造本改良會」なる会社の代表として、〈書物〉に関わる人物として登場。この『~霜夜~』がこのシリーズの最終巻であるという前情報は知っていたのですが、たぶん弔堂での経験に触発されて印刷造本の改良を目指…

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『きみのお金は誰のため ~ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」~』/田内学 △

きみのお金は誰のため ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」 [ 田内 学 ] - 楽天ブックス 時々「お金」についての書籍を読むことにしているのですが、本書『きみのお金は誰のため ~ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」~』も、その流れで〈読みたい本リスト〉入りしていたものです。著者・田内学さんは、元外資系証券マンで「お金」に関する書籍をたくさん記されている方です。本書、O市図書館ですごい順番待ちの末に、やっと私の手元に来ました。難しい経済や社会の話ではなく、中学生の主人公にもわかりやすいように「お金」について教えてくれるので、私のような中途半端な知識の人間でもわかる内容でした。 中学生の優斗は、ひょんなことから大きなお屋敷で「お金の謎」について教えられることになる。「お金自体には価値がない」「お金で解決できる問題はない」「みんなでお金を貯めても意味がない」大きなお屋敷で「お金の向こう研究所」のボス(関西弁でしゃべる、小動物のような初老の男性)のお金についての話を聞くうちに、世間一般で通っている「お金がなければ幸せではない」や「将来のためにお金は貯めるべき」などの欺瞞が暴かれる。何度も屋敷に通ううち、優斗はお金についての見識を新たにすることになるのだが・・・。 ボスの話、なんとなくわかるけど完全には納得できない私は、たぶんお金の奴隷なんですね(笑)。読了してもなお、「それでもお金は欲しい」と思ってますから・・・ダメじゃん。まあ、お金そのものではなく、その向こう側にある〈…

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『本日もいとおかし!枕草子』/小迎裕美子・清少納言 監修:赤間恵都子 ◎

新編 本日もいとをかし!! 枕草子 [ 小迎 裕美子 ] - 楽天ブックス 清少納言って、〈才気煥発・当意即妙〉自慢のいけ好かない才女・・・と思ってたのは、学生時代。今はもう、サバサバ系でパリピな気軽なお姉さん(ただし毒舌あり)だな~と親しみを感じています。そんな清少納言と彼女の作品『枕草子』を小迎裕美子さんの漫画で解説(監修は十文字学園女子大学教授の赤間恵都子先生)、楽しくて2日ほどで読んじゃいましたよ~。タイトルが『本日もいとおかし! 枕草子』で、表紙であかんべぇをする清少納言のドアップ、面白くないわけがありません(笑)。 小迎さんが『枕草子』から取り上げる、様々なトピックス。なんと1000年以上たった今でも、「マジそれな!激しく同意するわ~!」「やってらんないわ~!」「これ私も大好きッ!」と共感の嵐。 離婚した橘則光の「わかめ事件」には、笑っちゃいました。いや・・・エピソードそのものは知ってたんですけどね。小迎さんが描いた漫画で「わかめ送ったにもかかわらず、ニブすぎて全然わからない→和歌嫌いの則光に和歌を送って絶縁」という一連の流れをあの勢いで描かれたら、笑うしかないですよ。ナゴンさんの「そうだったーーこの人のーーこういうーー」のセリフの時の半分魂飛ばしてるかのような表情、そのあとの額に青筋立てて怒ってる様子、もうホント「わかるわ~、ですよね~、マジないわ~」って。 こんなに笑えて共感出来て、ちょっと毒舌に腰が引けつつも「私も‥そう思う・・かも・・うん、思うなぁ」なんて勇気を呼び起こ…

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『密やかな結晶』/小川洋子 〇

密やかな結晶 新装版 (講談社文庫) [ 小川 洋子 ] - 楽天ブックス 少しずつ物事が「消滅」していく島。住人たちはそれを受け入れ、消滅したものに対しての認識や感情も失い、日々を過ごしていく。小川洋子さんの描く、この島の人々が理不尽に失われていくものに対しても静かに受容していく諦観が、もの悲しかったですねぇ。タイトルの『密やかな結晶』とは、消滅した物に対する記憶ではなく、それぞれにある〈核〉のようなものなのかな・・・と読みながら感じていたのですが、文庫版解説の最後に解説者・鄭さんが小川さんご本人から「ほかの誰にも見せる必要のない、ひとかけらの結晶があって、それは誰にも奪えない。」という答えを聞いたというエピソードがあり、なるほどほぼ合ってるのかなと思いました。失われるもの、切り落とされていくものへの郷愁と諦観のバランスが素晴らしかったと思います。 突然消失するけれど、そのものはまだ存在していて、でもそれに対する思い入れは失われているので、それを捨て去ることに躊躇を感じない。私には、その状況が想像できませんでした。一生懸命、想像しようとするのですが、「目の前にあるのに、思い入れを一切失ってしまっている」という状態がわからない。物事に対する執着心は、そんなにない方だと思ってたのですが・・・。島の人々が長い年月をかけて少しずつ色々なものを失って、でもそれを受け入れていくしかない、あるもので生活を続けていくしかない、という閉塞感は、静かに静かに人々を蝕んでいったのでしょう。 消滅に対して記憶を失…

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『化物園』/恒川光太郎 〇

化物園 (単行本) [ 恒川 光太郎 ] - 楽天ブックス 〈それ〉は、殺し(捕食)を好む魔物であり、犬・猫・人間、なんにでも化けるし、非常に狡猾であると言われている。「ケシヨウ」という名称が一部では通っているものの、様々な形態で存在しているようである。本作『化物園』で語られるいくつもの物語のあちこちに、〈それ〉らしき存在が見え隠れしているけれど、登場人物たちを直接手にかけるようなことはしていない。恒川光太郎さんが描く、〈見たことがないのに、郷愁を覚える〉世界が繰り広げられていきます。 現代日本のような時代・昭和中期のような時代・江戸時代と思われる時代の日本らしき場所、中世の東南アジアらしき場所、どことも知れぬ隔離された場所、様々な世界が広がっています。「ケシヨウ」が人や動物を喰らうとされる物語もあれば、人を唆すだけの物語もあり、不具の子供を集めて尊ばせる物語、子供たちを外界から隔絶しひたすら音楽を追求させた物語も。 読んでいて、〈それ〉が恐ろしいというよりも、人間が〈それ〉をどうとらえるかで全く違った印象があるな…と思っていたら、最終章で〈それ〉は一つではなくそれぞれ違った存在であり、馴染んだ状況によって性質も嗜好も違う存在になっているということがわかります。自分たちの発生は、〈人の思念〉ではないかとそれは考えているけれど、定かではないことも。 ひそかに、そんな存在と共存してきた「人間」を描いたのが、この物語なのだと思います。ホラー・サスペンス・ファンタジー・・・、様々なジャンルを含んで…

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『塗仏の宴 ~宴の始末~』/京極夏彦 ◎

文庫版 塗仏の宴 宴の始末 (講談社文庫) [ 京極 夏彦 ] - 楽天ブックス 下田署の刑事・村上貫一の後悔から、下巻たる『塗仏の宴 ~宴の始末~』は始まる。そして、前巻『塗仏の宴 ~宴の支度~』から連なる、いくつもの組織集団の抗争と派生する謎、時折挟まれる〈超越者のような存在の独白〉、京極堂一派の情報収集の奔走と京極堂への出場要請、京極堂(と超越者)にだけ見えている『ゲーム』、意を決して事態の憑き物落としに乗り出す京極堂。いやぁ・・・文庫にして1000ページ越えの超大作過ぎて、読むのに2週間かかってしまいましたよ・・・。ええ、いつもの〈読む鈍器〉ですからね、職場の休憩所で「あの人今度は何読んでんのよ・・・」な目線、歯医者の待合室では「すごい本読んでますね~」と受付のお姉さんに半笑いで感心されるという・・・(笑)。あのですねぇ京極夏彦さん、文庫でこの厚みは「ご飯食べながら読む」のに適してません!!本を開いて固定できません!!(笑) 前作『宴の支度』に登場した様々な団体・組織・集団・個人が、「韮山奥の戸人(へびと)村」を目指して動き出す。千葉の刑事・木場修太郎はその過程でいったん姿を消し、拉致された中禅寺敦子(京極堂の妹)を追って探偵・榎木津も姿を消す。木場の相棒・青木、榎木津のの助手・増田、カストリ雑誌の記者・鳥口の下っ端三人衆(笑)が情報収集に駆け回っては京極堂に出場を要請するも、「何ら事件は起きていない」「このゲームに自分が参加すれば事態は事件になる」と、京極堂は動き出そうとしない。そん…

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『塗仏の宴 ~宴の支度~』/京極夏彦 ◎

文庫版 塗仏の宴 宴の支度 (講談社文庫) [ 京極 夏彦 ] - 楽天ブックス とある依頼により、関口が伊豆山中の「存在を消された村」をさがす物語から、『塗仏の宴 ~宴の支度~』は始まる。それぞれに語り手の違う6つの短編が描かれ、合間に「関口が手を下したのかもしれない事件」について、関口が警察に追及されるシーンが差し挟まれていく。京極夏彦さんの〈百鬼夜行 シリーズ〉の6作目は、なんと上下巻構成です。今までのシリーズ登場人物たちがそれぞれの短編で役割を果たし、不可解な事件・怪しげな組織などの謎をあとに残しつつ語られる本作、たぶんこれらの謎を解き明かして憑物を落とす続編『塗仏の宴 ~宴の始末~』。前編だけではわからないことだらけ、続きがとても気になります! 「ぬっぺっぽう」「うわん」「ひょうすべ」「わいら」「しょうけら」「おとろし」と妖怪の名を連ね、それぞれになぞらえた事件が起こって、語り手たちは右往左往する。途中、ちょっとだけ京極堂の語りが入ったりはするけれど、基本的には事件には関わってはいないので、憑物は落ちず、事態は解決に至っていません。これら6つの怪異は、どのような形で収束して、どのような「理(ことわり)」の光を当てられて、〈怪異なんてものは、ない〉と明らかにされるのか。 存在を隠された村、新興宗教、自己啓発団体、謎の占い師、古武術気功団体、漢方薬局の道場、催眠術、薬売り、風水術、神社に祀られている神の相違、様々な薀蓄の種は蒔かれ、芽を出しつつあります。これがどのように絡み合い、一つに…

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『平安ガールフレンズ』/酒井順子 ◎(エッセイ)

平安ガールフレンズ (角川文庫) [ 酒井 順子 ] - 楽天ブックス 平安女流文学の代表格といえば、紫式部の『源氏物語』と清少納言の『枕草子』。彼女らに加えて、藤原道綱母・菅原孝標女・和泉式部を「友達を紹介する」かのようにつづった本作、『平安ガールフレンズ』。酒井順子さんのおかげで、私も彼女たちにより親しみが持てるようになりました。ありがとう! 高校時代に『枕草子』を読み、自慢しいのいけ好かない女と苦手意識を持っていた清少納言に対して評価が変わったのは、そこから数十年ののちに読んだ小説から。そのあと、酒井さんの『枕草子REMIX』で「そうそう!敬愛する定子様のサロンを盛り上げるためだったのよね!」と盛り上がりったものです。そんな清少納言をはじめとして、まじめで内にこもっちゃう紫式部・耐え忍ぶ藤原道綱母・元祖オタク気質な菅原孝標女・恋多き和泉式部の5人の人生を丁寧に紹介。なんとなくは知っていても、それぞれ細かくエピソードが紹介されるたびに「え~、知らなかった!!」「私も似たような感覚ある~」「こんな時代でも、やっぱりそうなのよねぇ」と共感の嵐でした。 知らなかったのは、孝標女が30歳過ぎても結婚もせず、実家ニートをしてたことですねぇ。勧められて宮仕えをしてみても、あまり積極的でない彼女には耐えられず、実家引きこもりにUターン(その後、結婚はしたようですが)。そんなところも、オタク気質なのかなぁなんて、ちょっと笑っちゃいました。なんせ彼女は、少女時代に「物語を読みたくて、等身大の薬師仏を作って…

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『時を歩く ~書き下ろし時間SFアンソロジー~』/東京創元社編集部編 (アンソロジー)〇

時を歩く 書き下ろし時間SFアンソロジー【電子書籍】[ 松崎有理 ] - 楽天Kobo電子書籍ストア 水無月・Rは、超絶文系人間である。そのくせ、書評で科学が進んだ未来の物語に文学的情緒を感じると、SFの「サイエンス」な部分についていけないのに、ついつい手を出してしまうのでございますよ。もてぬ者の憧れ、というものもあるかもしれません(笑)。本作『時を歩く ~書き下ろし時間SFアンソロジー~』も、書評に惹かれて手に取った一冊です。・・・難しかった~(笑)。創元SF短編賞の受賞者である著者たちによる、様々な時間SFを、堪能しました。・・・うん、理解はしきれてないです。 「未来への脱獄」/松崎有理 刑務所で、タイムマシンを作る2人の虜囚。成功?したの?「終景累ヶ辻」/空木春宵 繰り返すタイムリープの中で、少しずつ己を昇華する方向に近づいていく。「時は矢のように」/八島游舷 人間の意識活動の停止という危機に向け、人体の精神と運動能力の加速をすることになるが。「ABC巡礼」/石川宗生 セミ・フィクションの旅行記の聖地巡礼を続ける人々。いくつもの流派が派生し・・・。「ぴぴぴ・ぴっぴぴ」/久永実木彦タイムトラベルが可能になった世界。未来の事故を防ぐために現代から派遣される者がやったことは。「ゴーストキャンディカテゴリー」/高島雄哉VR世界で火星に引越しし、とあるプロジェクトを請け負った者の30億年。「Too Short Notice」/門田充宏 死亡が決定した男。体感時間を引き延ばした最後に彼が願ったこと。…

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