『ここはすべての夜明けまえ』/間宮改衣 〇

ここはすべての夜明けまえ [ 間宮 改衣 ] - 楽天ブックス 2123年、という記述から始まる、とある女性の記録。ひらがなが多く読点が少なく、少々つたない話し言葉の文章は、ふわふわと漂いながら何気ない調子で進んでいきます。間宮改衣さんのデビュー作、『ここはすべての夜明けまえ』は、100年まえに〈ゆう合手じゅつ〉なる身体の機械化処置を受けた25歳の女性の記録を、平坦に雄弁に語っていく。 ひらがなを多用し、読点が少なく、ふわふわと漂うような平易な文章で、100年前に〈ゆう合手じゅつ〉なる身体の機械化処置を受けた女性の記録は進んでいきます。彼女の名前は表記されず、地球環境が劣悪化していく中で移り行く家族の物語を語り続ける。彼女の名前だけが空白で記されているのには、どんな意味があったんでしょう。彼女本人の記憶から、自分の名前だけを消去してしまったのか。それとも、彼女に名前を与えないことで、読者に彼女のイメージを固定化させないという意図があったのか。読者の共感(彼女への一体化)あるいは、逆に切り離しを狙ったのか。どれも、アリだな・・・と思えました。私は「  」という空白に、何故か「しろ」というひらがなの名前を当ててました。表紙に真っ白な女性のイラストが描かれてたのに引っ張られたのと、ひらがなを多用したページに空白を多く感じたので。しろさんの物語は、恋人となった甥との穏やかな日常や、汚染された環境を淡々と描いていて、これはディストピアSFだなぁと感じました。 他に、ゆう合手じゅつを受けた人間は、いなか…

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『亡霊の烏』/阿部智里 ◎

亡霊の烏 [ 阿部 智里 ] - 楽天ブックス 阿部智里さんの〈八咫烏世界 シリーズ〉は、華やかな姫君たちの后の地位や一族の野望をかけて華やかに競い合う物語から始まり、ドロドロとした政争、外界からの侵略、外界との関わりの真実とその歪さ、決定してしまっている世界の崩壊、それでもなんとかそれを引き延ばし融合させようという努力、苦渋の独裁、内乱の萌芽・・・と、壮大なドラマが描かれてきました。本書『亡霊の烏』は、その大きな流れに更なるうねりを加える物語となりました。 雪哉・・・。私にとって〈博陸候雪斎〉は今でも、真の金烏・奈月彦に振り回されながらも、より良き山内を作り上げるために奔走する、真摯な青年なのですよ。奈月彦の崩御から様々な分岐を経て、独裁者として君臨しようとも、それでも尚〈雪斎〉ではなく〈雪哉〉であり、真に山内の未来を憂い、悲壮の志を隠して冷徹を装っている・・・と。物語を読み進むにつれ、彼がすべての矢面に立ち最終的な犠牲になることで、なんとか山内の崩壊を減速化し外界との融合を少しでも穏やかな方向へ持って行こうとしているのだろう、という推測は確信に近くなるのですが。山内の人々のギリギリの幸福のために、自らを擲って世界を守ろうとするその孤独が、本当に切ないです。彼が物語を去る瞬間、登場人物たち誰にも顧みられなくても、読者たちはきっと彼の献身に心を動かされることでしょう。少なくとも、私はきっと、泣く。私が「雪哉、よかったね」というラストは、来ないんだろうなと思います。でも「雪哉、頑張ったね、ありが…

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『強欲な羊』/美輪和音 ◎

強欲な羊 (創元推理文庫) [ 美輪和音 ] - 楽天ブックス 屋敷に住む美しい姉妹の対立を語る「わたくし」。友人の子供と自分の子供が似すぎていることに不信を覚える男。4つの羊にまつわる物語が描かれ、最終章でそれらの関連性が語られる、『強欲な羊』。ぱっと見は、穏やかに草を食み柔らかな毛に覆われて〈平穏そのもの〉を象徴するかのような羊だけれど、「羊の皮を被った狼」の例えもあるし、何よりその横長の瞳孔の不穏さ、集団で迫ってくる不気味さも実はある。美輪和音さんは、初めて読む作家さんですが、別名義で脚本家でもあるんですね。私は見ていないのですが、映画『着信アリ』等で有名な方。 「強欲な羊」それぞれに美しいが、性質の全く違う姉妹の対立。そこにとある要素が加わったら。「背徳の羊」二転三転する子供同士の相似への不信。ラストでさらに判明する事実。「眠れぬ夜の羊」幼馴染を殺したのは、私?夢うつつから覚めた、私の現実。「ストックホルムの羊」塔に幽閉される王子と側仕えの女たち。新たな女が現れ、幻想世界は壊れる。「生贄の羊」公園のトイレに手錠で繋がれた女たちの会話で、前4作品の世界が一つであることが判明する。身代わりの羊を殺さなければ、自分が死んでしまう。ならば、やらなければならない・・・ 「強欲な羊」や「ストックホルムの羊」は、何となく展開は読めました。特に「ストックホルムの羊」は、以前『この闇と光』という作品でほぼ同じような設定を読んだことがあるので、たぶんこれだな‥・と。「強欲な羊」のほうも、なぜ女中の娘でし…

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『川のほとりで羽化するぼくら』/彩瀬まる 〇

川のほとりで羽化するぼくら (角川文庫) [ 彩瀬 まる ] - 楽天ブックス 川のあちら側とこちら側、別の世界のように感じながら〈自分のいる側〉で懸命に生きる者たちが、いつしか〈羽化〉してその境界を乗り越えていき、ひとすじの希望が見えてくる4つの物語。彩瀬まるさんの『川のほとりで羽化するぼくら』は、今の現実世界、とある出来事ののちの世界、ファンタジー世界などが描かれていました。 「わたれない」育児に悩む彰彦は、川の向こう側の育児ブロガーと出会う。「ながれゆく」織女たちと牛飼いたちが、年に一度だけ邂逅できる世界で、そこから抜け出した二人。「ゆれながら」パンデミックで性交が命に係わる行為となり、体外受精をすることが主流になった世界で。「ひかるほし」認知症の夫の横暴に振り回され苦しむタカ、意を決して解決に立ち向かう。 どの物語も、閉塞感に苛まれる主人公が悩み迷い苦しみながら、それでも自らの力でなんとか乗り越えようともがき、やっと手に入れる希望の仄かなあたたかさが、印象的でした。 「ながれゆく」の古い世代の織女たちに与えられた物語から、主人公・浅緋たちの世代の物語、そして新たに織女となった桃の物語の違い(変遷)と、流される橋の上で変容する浅緋とその夫・藍丸の姿、彼らがこれから向かう世界への希望、物語の力強さを感じました。浅緋たちだけでなく、残された織女と牛飼いたちにも、いつか世界への飛翔が訪れるのではないか。そう思えました。 「ひかるほし」は、正直胸が痛くて、読んでいて辛かったです。夫の酷い男…

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『我が友、スミス』/石田夏穂 ◎

我が友、スミス (集英社文庫(日本)) [ 石田 夏穂 ] - 楽天ブックス 面白過ぎて、一気読みしちゃいました!これが石田夏穂さんのデビュー作で、かつ芥川賞候補作だというのだから、恐れ入りますねぇ。以前読んだ『ケチる貴方』では、〈ままならぬ身体との真剣なやり取りがズレていく〉ことが面白かったのですが、本作『我が友、スミス』では、その身体を完全にコントロールして変化させ、競い合うものへと昇華させていく様子が、とても印象的でした。 のちのち、「別種の生き物になりたい」から筋トレを始めたことに気付く主人公・U野。そんな彼女は、地味で目立たない普通の会社員なのだけど、生真面目故にどんどんストイックさに拍車がかかっていく様子は、読んでいて清々しかったですね。同じ女性とは言え、根性の足りない私には絶対に辿れないルートですわ(笑)。 実は、コロナ禍でやめてしまったのですが、事情あって1年弱ほど24時間ジムに週2ぐらいで通っていたことがあります。「家で読書してるのが一番楽しい」超絶インドア派の私なので、もちろん筋肉が身に付くことはないまま終わってしまったのですが(笑)。その時にちょっと覚えた器具の名前や使用方法なんかが出てきて、「なるほどなるほど・・・」と思いはしましたが、ジムに通いなおそうという気にはならなかったですね。筋トレは、脳内追体験で充分(笑)。 鍛え上げた筋肉を披露する、ボディビル大会。筋肉だけでなく、ポージングや衣装・アクセサリー・日焼けさせた身体・手入れの行き届いた皮膚・長い髪など、外見…

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『わたしを永遠に眠らせて』/神津凛子 〇

わたしを永遠に眠らせて [ 神津 凛子 ] - 楽天ブックス いわゆる、オゾミス(おぞましいミステリー)というやつですね・・・。本作『わたしを永遠に眠らせて』で年越しをしてしまったんですが、かなり読書情緒が不安定になりましたよ。神津凛子さん、初読み作家さんだと思ってたら、以前に『ママ』を読んでました。あれもオゾミスだったな~。私、けっこう「うへぇ・・・」って言いながらもイヤミス読んじゃうタイプなんですが、それでもかなりメンタルに来てしまう物語でしたね~。イヤミスの上をいく、オゾミス・・・ちょっと苦手というか、引きずられそうで怖いですね。 再婚した婚家で虐げられる秋夜と、母の再婚相手に母を人質に取られ虐待される優真、早く救われてほしいのに、どんどん事態は酷い方向に。読んでいて、ホントにキツかったです。私は単純アタマなんで、「どうして逃げないのよ!」「助けてくれそうな人をどうして探さないのよ!」って思ってしまうんですが、それでも彼らが逃げられないぐらい支配されてしまっているのも、わかってしまうんですよねぇ。 秋夜の義母・珠子と義妹・朝香の尋常じゃない人格の酷さ、優真の義父の常軌を逸した残虐さ、彼らが事態や被虐者を支配下に置くやり方は、本当に反吐が出そうでした。でも、こんな人間は表沙汰になっていないだけで、きっと存在する。そう思うと、本当にゾッとします。 児童相談所の人たちが来た時に、優真の母親が勇気を出してくれて、本当に良かった。秋夜のアドバイスと後押しがあったからだけど、それでも行動に出るか…

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水無月・R的・2025年読了作品 ベスト10!

2025年、いろんなことがありました。今年の読了作品は57作品、他の読書ブログさんに比べると少ない作品数ではありますが、私的には充実してましたね。お仕事小説、ファンタジー、ミステリー、怪談系、アクションもの、SF、実用書・・・、ジャンルも気にせずに好きな本を読んできました。楽しくて、切なくて、ワクワクして・・・よい1年でございました。こんなにもたくさんの本を読める日々に、感謝ですね。 さて、そんなワタクシの22025年のベスト10を発表いたしましょう! 〈水無月・R的・2025年読了作品 ベスト10!〉 1位 『成瀬は都を駆け抜ける』 宮島未奈成瀬、今年も堂々の第1位!ホント私、成瀬の友達になりたい!!2位 『塗仏の宴 ~宴の支度~』 『塗仏の宴 ~宴の始末~』 京極夏彦〈百鬼夜行シリーズ〉の更なる広がりを予感させられる。3位 『シャーロック・ホームズの凱旋』 森見登美彦ザッツ、モリミーワールド!ビクトリア朝京都(笑)。4位 『書楼弔堂 ~霜夜~』 京極夏彦シリーズ最終巻。今までの登場人物総登場。書物のこれからの希望が灯る。5位 『777』 伊坂幸太郎とことんツイてない殺し屋・天道虫。これからも頑張れ、そしてどんまいww6位 『八月の御所グラウンド』 万城目学忽然と現れる「彼ら」。何故かはまだ、わからない。今後に注目します。7位 『たぶん私たち一生最強』 小林早代子ルームシェア20年!この友情は本物で篤い!!8位 『世界でいちばん透きとおった物語』 杉井光紙の書籍じゃないと成立しない物語であ…

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『サクッとわかるビジネス教養 新 お金の基本』/杉山敏啓(監修) 〇(実用書)

サクッとわかる ビジネス教養 新 お金の基本 [ 杉山 敏啓 ] - 楽天ブックス フルカラーでイラストを多用し、200ページ弱、ホントに基本の基本が書かれた入門書なので、「今までお金のこと全然知らなかった」という人向けかなと思います。日大経済学部の教授である杉山敏啓さんが監修の本書、『サクッとわかるビジネス教養 新 お金の基本』、ホントに〈サクッとわかる〉だったので、ちょっと笑ってしまいました。でも、きちんと全部を網羅したら、それなりにお金の知識の基礎体力が付きそうです。  「お金の基礎知識」では、一万円札にはなぜ「一万円の価値」があるのか?から始まって、金利・円高円安・キャッシュレス決済・ローン・会社のお金の話。「税金・社会保険・年金」では、なぜ税金を払うのか?から、確定申告・源泉徴収・相続贈与・社会保険・年金の話。「稼ぐ・貯める・増やす方法」では、一生に必要なお金・収入アップ・貯め方・お金の運用の話。「生命保険・損害保険」では、何故保険に入るのか、生保・医療保険・火災保険・自動車保険の話。 うん、まさに〈基本のキ〉ですね。正直、「もう知ってる~」という話がほとんどでしたが、これだけ優しくイラストで直感的にわかりやすく説明されてると、初めて「お金について学びたい」という人にすごく向いてるというのがわかりますね。ただ、初心者には「株の売買」やFXはあまり向いてないと思うので、その辺は参考程度にした方がいいと思います。これらは、きちんと勉強してしっかり理解したうえで手を出すべきなんだけど、理…

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『通夜女』/大山淳子 〇

通夜女 (徳間文庫) [ 大山淳子 ] - 楽天ブックス 就職に失敗し、引きこもりになってしまった小夜子は、弟の結婚式の帰りに道に迷い、他人の通夜に紛れ込んでしまう。通夜の場に居心地の良さを感じた小夜子は、趣味として通夜通いを始め、『通夜女』を自称する老女と知り合う。ファンタジーかホラー系なのかと思いきや、リアル寄りで不思議な物語でした。大山淳子さんは初読みですが、〈猫弁シリーズ〉で書店などでよく見かける作家さんですね。 孫に手厳しいトキばあに躾けられ、型にはまって順調に大学まで進んできたはいいけれど、就職面接で「与えられた仕事を精いっぱいやりたい」と言ったら「話にならない」と言われ、目の前が真っ暗になり引きこもりになってしまった小夜子。微妙にわかる・・・私も結構「カチカチ真面目の優等生タイプ」に近いので。ただ、小夜子よりは神経が図太いので、「ダメだったかー、じゃあ次だ、次!」って思えるので、ここまで折れ切っちゃうことはなく、「もうちょっと頑張れよ~」と感じました。まあ、そんな小夜子だからこそ、物語になるのですが。 見ず知らずの他人の通夜にそっと紛れ込み、お浄めの食事まで食べる通夜女。葬儀場にケーキを売り込みたい、ケーキ会社の営業の若者。通夜女の連れてきた、幼い少年。通夜の場に、サクラとしての〈通夜レディ〉を派遣することを画策する女社長。彼らと知り合い、いくつもの通夜を経て「他人の不幸の場で自分の幸福を安堵」し続けてきた小夜子を、通夜女はある日突然「この女は冷やかしできている!」と告発する。…

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『キノの旅(24) -the Beautiful World-』/時雨沢恵一 ○

キノの旅XXIV the Beautiful World【電子書籍】[ 時雨沢 恵一 ] - 楽天Kobo電子書籍ストア 時雨沢恵一さんの「キノの旅」シリーズ、24冊目。私たち人間の様々な面をデフォルメした国々をめぐる、旅人たち(一部定住派)。彼らはそれぞれなりの感じ方で国々を体験し、そこでの事象を断罪しない。パースエイダー(銃器)有段者・キノと喋るモトラド(自動2輪車)・エルメス。妙齢美人な師匠とハンサムな弟子。亡国の王子・シズ様と喋る犬・陸と無口な少女・ティー。旅を続けるその3組と、定住派で写真家のフォトと喋るモトラド・ソウ。本作は、5年ぶりのシリーズ再開となりました。彼らの旅を読めることは、本当に幸せですね。ただ・・・XXIVはもう、解読できません(笑)。覚えようともしてません(笑)。『キノの旅 (24) -the Beautiful World-』。 口絵イラストノベル「綺麗になれる国」すみません、人間洗濯機は大阪万博で展示されてましたよ(笑)。口絵イラストノベル「射撃場の国」車はいいのに、弾丸は駄目は道理に合わない?いや・・・どうだろう。プロローグ「力を与えられた国・b」エピローグの少しあと。何故、シズ様は斬ったのか。第一話「運ばれる話」二つの国の間は、貨物列車でしか移動できない。第二話「温度差のある国」温度対策のために、地下に移動した国の現在は。第三話「試される話」レンジャー選抜試験の本当の試験項目は。第四話「若い国」政治家が若い国のは、本当に素晴らしい?第五話「冗談が通じない国」…

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