『銀の猫』/朝井まかて 〇

江戸の庶民の情緒を描けばピカイチの朝井まかてさん。本作『銀の猫』では、介抱人として女中奉公をするお咲の仕事ぶりと日常を丁寧にたどる、ほっとするような物語です。 母親が婚家(今は離縁している)にした借金を返すため、普通の女中奉公よりも給金の良い「介抱人」をしているお咲。江戸の老人介護は、基本「一家の主が担うもの」だということだけれど、手が回らない裕福な家から呼ばれて3日ほどのの泊まり込み介抱をするのが、彼女の仕事である。お咲を雇用しているのは、鳩屋という口入れ屋で、急須仕事(お茶を入れる)がメイン(笑)の主人・五郎蔵としっかり者のお徳が切り回している。家に帰ると、妾奉公もしなくなった母親・佐和がしんねりと嫌味を言い、余計に疲れ果てる気がしてしまうお咲。 仕事に出掛ける先で、老人介抱の現実と向き合い、どうあることが本人にとって幸せか、家族の思いと本人の思いのすれ違いや、自分の考える介抱を押し付ける事なくそれでも誠実にこなしていくお咲の姿に、感心しました。私だったら、いろいろ耐えられない・・・。 そんな鳩屋とお咲のうわさを聞き付けた貸本屋・杵屋が〈介抱指南〉の本を作りたいと言ってくる。取材を受けたり、介抱に同行させたり、「理想の逝き方」を話したり・・・、お咲の介護稼業の合間にそんなエピソードも軽く挟みながら、お咲の日々は積み上げられていく。半身が動かない老隠居の介抱、足腰も元気で頭もしっかりしている女隠居の介抱ではなくお目付け役、幕府の要職についていた武士のまだらな子供返りの相手、奥勤めをしていた…

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『ずぼらな青木さんの冷えとり毎日』/青木美詠子 〇

私、かなりの冷え性でございます。 冬は、靴下なくして眠れない、基本衣類はタートルネック、タイツと靴下とズボンの重ね履きがデフォルト、夏だって、スーパーの食品売り場に行くなら長袖カーディガンが手放せない(棚からの冷気に負ける)。 そんな私が『ずぼらな青木さんの冷えとり毎日』というタイトルを発見したら、読むしかないですよ、ハイ。 ずぼらでもOKなんですね?よろんで~♪って感じでした(笑)。 著者・青木美詠子さんが、「冷え取り」と付き合った10年を書き綴った、実用書。 イラストが沢山、文字数も少なくて、1日で読めちゃいました(笑)。 ゆる~く無理せず、自分にできることを続ける…てのが、極意のようです。 基本は「絹とその他天然素材の靴下を、交互に4枚以上重ね履き」、「足元温めて上半身は薄着」、「半身浴」、「食べ過ぎず、体を温める食材を」って感じでしょうか。 まあ、割と普通というか、最近はよく知られてるようなことが多いですね。 改めて、まとめて読んだって感はあります。 やれそうなことを、ちょっとやってみようかな・・・・と思いました。 つま先立ちとか、食べ過ぎないとか(おいおい)、温める食べ物とか、ヨガもどきとか。 ただねぇ、・・・正直なこと言っちゃっていいですか? この本、私には、難しいことがたくさんあります。 半身浴で1時間お風呂とか無理。夏でも肩までドボンと浸かりたいタイプなんです、私。 チョコやバターを止めるのも、難しいなぁ。 そして、たぶんこの本の一番のメ…

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『玩具修理者』/小林泰三 △

以前小林泰三さんの『ドロシイ殺し』を読んだ時、ラストで「私は手児奈」と囁いて去って行った人物がいました。「手児奈」って言ったら「真間の手児奈」だよね?とうとうビル(井森くん)ったら、日本の伝承物語の世界にも迷い込んじゃうわけ?と思ってたら、別作品に「手児奈」が登場するという情報が。その登場作品が、本作『玩具修理者』に入っている「酔歩する男」です。ちょっとだけ、〈真間の手児奈〉のシチュエーションを借りてはいましたね。 表題作「玩具修理者」の方は、40ページほどの短編。これがまあ、グロイんですよね(笑)。いや、慣れてきました、小林さんの作品ですし。壊れたおもちゃをなんでも無料で直してくれる、不気味な玩具修理者。弟を死なせてしまった私は、その玩具修理者の元へ弟を連れて行き直してもらうが、不具合がある度に修正するために玩具修理者に依頼してきたという。「私」と会話していた男は、玩具などの無機物と生物を分解して再編成して動き出すなんておかしい、あり得ないと私に抗議するが、私は自分の左目を見せて、自分も修理されたのだと叫ぶ。そんな私と男の交わした言葉に、ギャッと驚きました。そういえば、最初の方にかすかに引っかかる部分はあったけど、あまりにグロテスクな展開にすっかり忘れてました。そりゃ、男も必死に聞き出そうとするわけだわ・・・。玩具修理者の風体や言動の気持ち悪さ、修理の過程(生体解剖…筋肉を一本ずつほぐすとかイヤだぁぁ)のグロさ、オチの落ち着かない気持ち悪さ。さすが、第二回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作ですな・…

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『水没ピアノ ~鏡創士がひきもどす犯罪~』/佐藤友哉 〇

偉業で異能な鏡家兄弟を描く、佐藤友哉さんの〈鏡家サーガ〉シリーズ第3弾、『水没ピアノ ~鏡創士がひきもどす犯罪~』。とはいえ、本作では鏡家から出演しているのは、次男・創士のみ。しかも、主人公は別の人物。とはいえ、サブタイトルに名前が入ってくる以上、創士も重要な役目を果たすわけですが・・・。 相変わらず〈暴力と偏狂〉に満ちている、〈鏡家サーガ〉シリーズ。単調な日々に埋没する青年、脱出できない屋敷の中で繰り広げられる家族の惨劇を語る青年の遺書、大好きな少女を守ろうと必死になる少年、3つの物語が並行して語られる。それぞれに、生き辛い日常(スプラッタな屋敷は日常と違うかしらん?)が余すところなく描かれ、読んでいて辛くなる・・・・と言いたいのだけれど、どうにも何処かズレている感じがして、現実感がない。 いつも〈鏡家サーガ〉を読んでると、登場人物たちのクレイジーさに「アンタら全員、オカシイよ!」とツッコミを入れつつも「でも、その〈異常〉を理解できなくもない」と思ってしまう自分に気付いてしまい、疲れてしまうのですが、本作はあまりそういう感覚にはなりませんでした。いや登場人物たちがオカシイ、と思ったのはいつも通りですが。 偉業で異能な鏡兄弟の中で、次男・創士の能力は何なんでしょう。兄弟の二つ名としては「引用病」で、そして大変な美形のようですが。あれだけ「引用」が出来るということは、アタマはかなり良いと思われます。ただねぇ・・・本作で、主人公の男に記憶を取り戻させ、現実と向き合わせたはずなんだけど、結局主人公…

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『暗幕のゲルニカ』/浜田マハ ◎

1年ほど前『楽園のカンヴァス』を読んだ時、とても強烈な印象を受けました。その際、原田マハさんのアート・サスペンスとしてお勧め頂いたのが、本作『暗幕のゲルニカ』です。こちらもまた衝撃的というか、、ピカソの〈ゲルニカ〉に込められた反戦の思いと、〈ゲルニカ〉を守り庇護していった人々の信念が強く描かれた、素晴らしい作品でした! 〈ゲルニカ〉制作当時のピカソの愛人・ドラの物語と、9.11で夫を喪ったのちMoMAで「ピカソ展」を企画するキュレーター・八神瑤子の物語が並行して進み、「〈ゲルニカ〉とは何か」「〈ゲルニカ〉は誰のものか」が突き詰められていきます。ピカソの血を吐くような思いの結晶となった絵画〈ゲルニカ〉。 物語のどこまでがフィクションなのか分からないながら、すべてが真実ではないかと感じさせるリアリティがありました。 MoMAのチーフ・キュレーターが「ティム・ブラウン」でしたねぇ!『楽園のカンヴァス』の17年前パートではまだ一介のキュレーターでしかなかった彼が大出世して、芸術を愛す心はそのままに、度量のある魅力的な上司として主人公・瑤子をそっと支える役目を担っていたのが、とてもうれしかったです! ――イラク攻撃を発表するアメリカ国務長官の後ろにかかっているはずの「〈ゲルニカ〉のタペストリー」には、暗幕が掛けられてていた・・・――そこから端を発する、ピカソの〈ゲルニカ〉を巡る攻防の物語は、幾重にも謎とサスペンスを繰り広げながら、現代と過去を行き来する。 いやもう、ホントに素晴らしい迫力というか力量…

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