『銀の猫』/朝井まかて 〇
江戸の庶民の情緒を描けばピカイチの朝井まかてさん。本作『銀の猫』では、介抱人として女中奉公をするお咲の仕事ぶりと日常を丁寧にたどる、ほっとするような物語です。
母親が婚家(今は離縁している)にした借金を返すため、普通の女中奉公よりも給金の良い「介抱人」をしているお咲。江戸の老人介護は、基本「一家の主が担うもの」だということだけれど、手が回らない裕福な家から呼ばれて3日ほどのの泊まり込み介抱をするのが、彼女の仕事である。お咲を雇用しているのは、鳩屋という口入れ屋で、急須仕事(お茶を入れる)がメイン(笑)の主人・五郎蔵としっかり者のお徳が切り回している。家に帰ると、妾奉公もしなくなった母親・佐和がしんねりと嫌味を言い、余計に疲れ果てる気がしてしまうお咲。
仕事に出掛ける先で、老人介抱の現実と向き合い、どうあることが本人にとって幸せか、家族の思いと本人の思いのすれ違いや、自分の考える介抱を押し付ける事なくそれでも誠実にこなしていくお咲の姿に、感心しました。私だったら、いろいろ耐えられない・・・。
そんな鳩屋とお咲のうわさを聞き付けた貸本屋・杵屋が〈介抱指南〉の本を作りたいと言ってくる。取材を受けたり、介抱に同行させたり、「理想の逝き方」を話したり・・・、お咲の介護稼業の合間にそんなエピソードも軽く挟みながら、お咲の日々は積み上げられていく。半身が動かない老隠居の介抱、足腰も元気で頭もしっかりしている女隠居の介抱ではなくお目付け役、幕府の要職についていた武士のまだらな子供返りの相手、奥勤めをしていた…