『エクサスケールの少女』/さかき漣 〇

あら~?なんか、思ってたのと違うなぁ・・・。人間とAIの未来を描く、という書評に惹かれて読み始めたんですけど、なんか、凄くもったいない感じが・・・。日本からシンギュラリティを起こそうとする最高の頭脳を持つ青年と彼が手にした最高の環境、不可思議な体質の少女、日本古代神話とのかかわり、AIやAGI(汎用人工知能)の発展、人間の欲とそのコントロールなど、一つ一つの題材がいいのに、上手くこなれてないと感じてしまいました。残念。テーマ的には、好きなんですけどねぇ・・・。奥付見たら、著者のさかき漣さん、本作『エクサスケールの少女』が初の単著だそうです。なるほど・・・。 SFのような、リアルにファンタジーぶっ込んだような、激甚災害とテロとシンギュラリティをごた混ぜでご都合に集約した・・・って感じがしてしまったんですよねぇ。う~ん、ちょっと辛口すぎるかな。前半、主人公・青磁の過酷な境遇と、彼が自らの能力を磨いて(引き取ってくれた相手が良かったのもあるけど)そこから脱してAIの研究所の筆頭研究員になるまでを描いた辺りまでは、冗長ながら堅実な展開でした。ただねぇ、激甚災害のあと青磁の恋人・千歳の万能とその理由が明かされ、青磁の妹・萌黄を巡る陰謀が急展開、怒り狂った青磁がとった禁断の技術利用、そして彼の狂気を収めた「悪意の価値システム」の終了、エピローグ。この後半部分が、エピローグへ向けてのご都合主義感満載で、かつ端折りすぎ。もったいない。 千歳に関する説明がもうちょっと深かった方がよかったし、千歳と萌黄になんらか…

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『魔王城でおやすみ(3)』/熊之股鍵次 ◎コミックス

人間界に帰る気全くナシのスヤリス姫、今日も元気に魔王城を徘徊中です。いいのかそれで(笑)。いいんだよね、それで。だって、面白いんですもん。熊之股鍵次さんの〈魔王城でおやすみ〉シリーズ第3巻、『魔王城でおやすみ(3)』ですよ。本作も全力で快眠を求める姫と、それに振り回される愉快でトホホな魔族たちが、面白すぎてニヤニヤしちゃいましたよ。 いやもう、どうして「ただひたすら快眠を求める」というネタでこんなのバリエーションが出てくるのか。作者さん、天才ですなぁ。本作でも、「怠惰の魔具、コ・ターツ」(←人間界でも怠惰の魔具だよねぇ(笑))を復活させてしまったり、蘇生の時にネコスタンプ(魔族)と混じっちゃったり、ハーピィちゃんと一緒に寝てみたり、魔族の闇のミサ(クリスマス?)に潜り込んだり、寝正月で太っちゃったり、エリアボスである女性魔族・ネオ=アルラウネと関わったり・・・。どのエピソードも、おもしろくって、たのしくって、にやにやが止まりません!! だいたい、魔族の皆さん、姫大好き過ぎでしょ(笑)。姫の傍若無人な振る舞いに困らされても、乗り物代わりに乗り回されても、大事な武器や道具を取り上げられた上に魔改造されても、みんな姫のために我慢できちゃうというか、甘やかしちゃうというか。さすが〈王族たる姫〉、なのかもしれませんなぁ。〈愛されスキル〉が全開なんですわ、きっと(笑)。 前作で「体だけを求められた」ハーピィちゃん、今作でも「雲のベット作成」のために、いいように利用されてます。姫も分かっててやってるんだか…

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『抱卵』/堀真潮 ◎

スイートなものからダークなものまで、様々な掌編が詰まった一冊。本作『抱卵』でデビューの堀真潮さんは、表題作「抱卵」で第一回「ショートショート大賞」を受賞。24作品、それぞれに違った味わいがあり、楽しめました! まず、一番最初の作品「井戸の住人」で、ぐっと掴まれました。井戸に引きこもってる(笑)幽霊とその家の夫婦と霊媒師のやり取りが、可笑しすぎ。でもきちんとほっこりする終わり方で、面白かったです。 「チョキ1グランプリ」が一番好きですなぁ。少年少女の初々しさが素敵。チョキ(ピース)の美しさを競うコンテスト、という設定が面白いし、代表の少女を温かく応援する地域の人たちも優しくて。好きな人のチョキが、一番素敵に見えるものなんですよね~♪ 「本の一生」も、本好きにはたまらない展開ながら、最後のひねりにはニヤリとしてしまいましたね~。まさかの〈繁殖〉とは(笑)。中盤で「本」がでろでろになった時は、ビクビクしましたけど。 表題作「抱卵」も切なく、幻想的で美しかったです。戦場で死んだ恋人の胸にあった4つの卵。その卵の味と、恋人の思いと、4つ目の卵を抱いて生き続ける女性。そして、彼女に差し伸べられた手と4つ目の卵の結末。スッと胸が晴れるような気持ちになりました。 「瓶の博物館」も面白かったです。私もこういう博物館に、行ってみたいですねぇ。それぞれの瓶に見合った音が聞こえるなんて、素敵ですもの。とっておきのワインの瓶が、高音のアリアで・・・そして、茫然とワイン臭くなって立ち尽くす、というラストも、私的には…

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『ホワイトラビット』/伊坂幸太郎 ◎

伊坂幸太郎さん、いやぁ~面白かった!!仙台で起きた人質立てこもり事件「白兎事件」(←ただしそう呼んでいるのは作中の語り手だけのようである)を描いた『ホワイトラビット』、伊坂さんらしい凝った作りで、テンポが良くて、とても楽しかったですよ! いやはや、伊坂節全開ですね~!「伊坂さんなんだから、時系列のトリックは絶対にある!」と思いつつすっかり騙されて、ネタばらしされるまで全然わかってませんでした。 ちょっと「あれ?」って思うところはあっても、作品内の語り手がちょいちょい「ここで少し時間は戻る」とか「あちらの状況を確認しよう」とか展開の舵を切ってしまうので、ついつい流されて誤魔化されてしまうんですよ(笑)。まあ、その騙され感が爽快なので、後悔はしてません! 1)仙台の住宅街で、人質立てこもり事件が発生。犯人は「折尾という男を連れて来い」と要求。人質はその家の父・母・息子の3人。犯人との対応にあたるのは警察のSIT隊の課長、夏之目。警察は無事折尾らしき男を捕まえ、犯人との交渉を進めていくのだが・・・。2)住宅街のとある家に〈仕事〉で侵入した黒澤は、一緒に仕事をした中村のちょっとしたミスを回収するために近所の別の家に忍び込むが・・・。3)誘拐組織の一員・兎田は、妻・綿子ちゃんを監禁され、「開放して欲しければ、折尾を生きたまま捕まえて連れて来い」と脅迫される。折尾は、組織の金の隠し場所を知っているらしい。 順番はバラバラなのだが、上記3つがメインの事件。視点があちこちに飛び、会話だけで話が進み、時系列が…

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『愛なき世界』/三浦しをん ◎

植物研究に心を傾ける本村、本村に恋をした洋食屋・円服亭従業員の藤丸、本村の所属する松田研究室の面々、藤丸の師匠・円谷・・・あ~、も~、みんな可愛いよ!愛おしいよ!!三浦しをんさん、ホントに大好きですよ。タイトルは『愛なき世界』ですが、愛にあふれる、幸せで胸がいっぱいになる、素晴らしい作品でした! タイトルは、感情のない植物が進化し生きていく世界を『愛なき世界』と言っているけれど、その植物の不思議を知りたい、解明したい、と情熱という愛をもって研究する研究者たち、そしてその研究者を支える人達(家族、大学職員、近所の洋食屋従業員など・・・)の愛が、いっぱいにあふれてましたねぇ。そして、その愛は〈慈愛〉〈情熱〉だけじゃなく〈真摯なトホホ〉もあって、ホントに読んでいて楽しかったです。 実を言うと、植物研究の詳細を微に入り細を穿って描写されると、超絶文系な私は頭がピヨピヨしてきてしまったんですが(笑)、でも研究者の皆さんがどんなに情熱的にそして細心の注意を払って考察・実験を繰り返しているかには、本当に感心しました。たしかに、そこまで心を傾けていたら、〈愛〉は絶対に在りますよね!我が家にも理系な子がいるのですが(分野は全然違う)、こんな風になるのかしら・・・あらまあ、楽しみ(笑)。 最初は藤丸を「ハイ、可愛いおバカさん来ました~♪」っていう感じで見てたんですが、おバカさんというより、優しくて純真で真っ直ぐな、すごく良い子なんですよ。難しい学問のことは分からなくても、真剣に研究の途ことを考えている本村達に、…

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