『高校入試』/湊かなえ 〇

地方名門公立高校の入試前日、「入試をぶっつぶす」と書かれた紙が、会場となる教室の黒板に貼られているのが発見される。入試当日も、ネットへの試験問題流出、試験会場のリアルタイム実況・・・、対策に奔走する学校側だが、すべては後手に回ってしまう。湊かなえさんらしい映像的展開・・・と言いたいところですが、まず先にドラマ脚本があり、本作『高校入試』はセルフノベライズってことになるのでしょうか(ドラマは見ていません)。登場人物多すぎて、中盤終わるぐらいまで『人物相関図』なくしては読めませんでした・・・(-_-;)。 各文章の頭にそれぞれの名前が書かれて、その人物視点で状況が語られ、その文章の合間にネット投稿の一文が挟まれる。その人物たちなんだけど、受験生たち、保護者たち、学校の先生たち、とにかく人数が多い!名前だけ書かれても誰が誰やらだし、『人物相関図』もそれぞれの性格や背景などは書かれてないからそれを覚えるまでは混乱しまくり。映像なら、わかりやすかったのかもしれませんねぇ。やっとそれらを把握したのは、入試そのものが終わり、採点も終わった後、状況混乱から犯人(主犯共犯の複数)判明のクライマックス・・・。まあ、私の理解力が弱すぎるせいなんだとは思うんですが、もうちょっと読者に優しくてもいいのでは(笑)。 入試当日にこれをやらないで欲しいなぁ・・・というのが、正直な感想ですねぇ。無関係な受験生たちが、ホントいい迷惑なんで。その受験生たちもルールを守らない子が居たり、もめごとを起こしかける子が居たり、関係者以外立…

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『インビジブルレイン』/誉田哲也 〇

誉田哲也さんの〈姫川玲子〉シリーズ第4作。チンピラ惨殺事件を追う姫川たち。上層部からの指示に疑念を持ち、単独捜査を始めた姫川が出会った男の正体。過去の警察の失態を隠蔽したい上層部、上司の進退と真実の公開とそのやり方に苦悩する姫川、『インビジブルレイン』は降り続ける。 チンピラ惨殺事の捜査を続けるうちに、玲子たち捜査一課のメンバーに「今後、捜査線上に〈柳井健斗〉という男の名前が挙がっても、追及してはならない」「この件は合同で捜査している捜査四課(いわゆるマル暴)には内密に」という指示が下る。 独自に〈柳井健斗〉について調べた姫川は、柳井が上司である捜査一課課長・和田がかつて関わった事件の被害者家族であることを知り、そして惨殺されたチンピラがその事件の真犯人だったのではないかという推測に至る。その単独捜査の際、出会った男・牧田(槇田)は実は裏社会の男であり、柳井健斗と相互に取引があった・・・。警察官と裏社会の者、互いの立場を知りつつも惹かれ合ってしまう、姫川と牧田。彼らが迎えた結末は、致し方なかった・・・とは思うのですが、とても残念ですねぇ。そして、すべての真相(かつての事件での冤罪公表も含め)が明らかにされる記者会見。読んでいて、胸が痛くなりました。真実は、明かされねばならない。過去の失態は、清算されねばならない。たとえ、真摯に捜査を執り行う誠実な者であっても。責任を逃れようとする上層部と、刺し違えてでも。 姫川も捜査一課から異動し、姫川班は解体。今後のシリーズでは、所轄での姫川の活躍が描かれ…

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『雲上雲下』/朝井まかて 〇

どこともわからぬ場所で、尾の短い子狐にせがまれて古今東西の物語を語る「草どん」。物語の持つ「力」とその運命、希望の持てる終わりにホッとしました。朝井まかてさんの語る『雲上雲下』すべての世界の物語、〈物語というものの奥深さと力強さ〉を再認識する読書となりました。 怪我をした子狐を助けた山姥も加わり、様々な物語が語られてゆく。龍の子の物語、乙姫と亀と猿、経を上げる猫、田螺息子とその若嫁、山姥になった美しき娘・・・。草どんや山姥が語る物語は、私たちが知っている民話と似ているものもあれば、途中からずいぶんと変化するものもあり、ついつい引き込まれてしまう。語るうちに、草どんや子狐も物語の中に組み込まれていったり。 個人的に好きだったのは、「猫寺」ですね。和尚に可愛がられた猫が、夜な夜な袈裟を着て経を上げ、でもそれを和尚に言及されたら恥じて逃げ出してしまい、後々に恩返しする。袈裟を着て木魚を叩きみゃあみゃあお経をあげてる猫を想像したら、とっても和みました♪ ほのぼのと物語を楽しんでいた私たち読者を現実に引き戻したのは、語られた物語の存在たちを引き連れた子狐の母・玉藻前の、〈物語が語られなくなり、物語の存在が薄れていく。このままでは、物語たちの居場所はなくなってしまう〉という、言葉でした。彼らは草どんに本来の名前「福耳彦命」を教え、〈自らの物語を取り戻し、共に物語だけの安穏な世界へ行こう〉といざなうが・・・。 草どんが思い出した、福耳彦命であった時の天界の記憶では、神々ですら「物語」を聞けばおのが輪郭を…

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『ドS刑事 ~井の中の蛙大海を知らず殺人事件~』/七尾与史 〇

死体愛好癖が極まり死体を見たいからと警官になり、捜査一課強行犯係に所属する刑事・黒井マヤ(父は警視監)。彼女に見初められ静岡県警から引き抜かれたイケメンな相棒・代官山(通称代官様)。少女のような可愛らしさを持つ、東大卒キャリア(ぽんこつ)の浜田。この三人が乗り込んだ豪華客船・リヴァイアサンに爆弾が仕掛けられ、機動隊爆弾処理のエキスパートである春日が登場。有名女優殺害事件を追う三人、爆弾処理チームの緊迫感、もさることながら、相変わらず警視監(警察組織№2)であるマヤの父の娘溺愛ゆえの叱咤激励は、私情入りすぎですよねぇ(笑)。七尾与史さんの〈ドS刑事〉シリーズ6作目ですよ。本作『ドS刑事 ~井の中の蛙大海を知らず殺人事件~』、なんと代官様にライバル(?)登場(笑)。 おや~?、今回は死体の数がずいぶん少なめですねぇ(笑)。いや私、善良なる小市民なんで、グロな死体は得意じゃないんですけど。〈このシリーズで死体が量産されないだなんて(笑)〉って思っちゃうぐらいには、エンタメフィルターかけてこのシリーズ読むようになっちゃってますねぇ(^^;)。 それと、浜田の不死身エピソードが弱かった(笑)。常にマヤの嗜虐にさらされ、生死の境をさまよいつつも、「姫様は僕のこと好き過ぎですよねぇ」とヘラヘラ生還する。・・・という役回りのはずなのに、今回はマヤに怪しい薬を打たれて失神ぐらいしか、危機シーンはありませんでした(いやそれだけでも十分なんですけどね、普通の人なら)。 今作の注目はもちろん、マヤの元カレ(と思っ…

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