『キノの旅(22) -the Beautiful World-』/時雨沢恵一 〇

時雨沢恵一さんの「キノの旅」シリーズ22冊目。パースエイダー(銃器)有段者・キノと喋るモトラド(自動2輪車)・エルメスの、淡々と続く印象的な旅。彼らの出会う国や地域や人々は、現実の私たちの世界のとある部分をデフォルメしたものだったりすることも多い。様々な状況にあって尚、彼らは全てを受け入れ、受け流し、旅を続けていく。『キノの旅 (22) -the Beautiful World-』。 口絵プロローグ「川の畔で・b」鮭の遡上と、一つの死体。口絵「知らない話」完璧好青年のシズ様も、知らないことがあるのねぇ・・・。口絵「誕生日」とある国で誕生日を詐称するキノとエルメス。第一話「仮面の国」美醜にこだわりすぎた人々に、師匠が与えた仮面。第二話「退いた国」貴重な鉱石が取れるところにあった国。第三話「取り替える国」貧富格差の大きい国では、こんなことが起こるのか。第四話「議論の国」議論している間は、行動しない国。それって理性かね?第五話「届ける話」シズ様と陸の出会い。陸、可愛い・・・。第六話「来年の予定」定住派フォトが助手を伴ってフェス撮影に行く。第七話「餌の国」連絡が途絶えた国の様子を見に行ったキノ達。エピローグ「川の畔で・a」プロローグの少し前。部分的に奇妙な遺書を発見したキノ。巻末特別短編(あとがき)「二十年目のボク達」実際物語中で20年が過ぎていたら。・・・シズ様~~~!! 妙齢美人な師匠とハンサムな弟子、大好きです。師匠、容赦なく弟子を凶器代わりにするんですもん。まあ、弟子の不死身度は高いので(笑)…

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『死国』/坂東眞砂子 ◎

いやもう何というか、坂東眞砂子さんだわ・・・。四国という隔絶した土地柄の、遍路とはまた別の土俗信仰を描いた、非常にゾワゾワする作品でした。だいたいね、『死国』ってタイトル、どうなの?!四国=死国、ってのがしっくりきすぎてて、怖いんですよ・・・。少女期の3年半高知に住んでて、3年半だけにもかかわらず多分私の根幹を作ってしまった、あの土地の物語が引っ掛かってしょうがないんですよね。そんな私が四国がらみの作品読んできた経験上、アリなんですよ、この設定・・・。 四国というのは、日本という国の中にありながら海で隔絶されており、しかも流刑地だったり八十八か所巡り(お遍路)があったりという聖俗や善悪が入り乱れる土地で、色々な怨念や因縁が渦巻いてるのですよ。しかも高知(土佐)は、その4つの国の中でも太平洋の荒波と険しい四国山地で切り離され「鬼の棲む土地」と忌まれ・・・、というバックグラウンドを踏まえれば、そりゃ死者も蘇るかもしれないよ!!と思えてしまう、坂東さんの筆力の、凄まじさ・・・。 もう誰も住まなくなった祖母の家をどうするかを見にいくために、子供のころ住んでいた高知県の矢狗村へ戻って来た比奈子は、当時親友だった莎代里が中学3年の時に死んだと聞かされ、驚く。同級生たちに誘われ同窓会に出席した比奈子は、当時好きだった莎代里の遠縁の文也と再会し好意を寄せあうが、2人の身の回りには怖ろしい現象が起こり始める。生前、沙代里は文也に恋しており、態度には出すものの口には出さないまま、事故死。死んだはずの沙代里が、その…

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『ブロードキャスト』/湊かなえ 〇

湊かなえさんらしからぬ青春物で、何というか(笑)。イヤミスじゃないことが前もってわかってなかったら、巡り廻る悪意を探して・・見つからなくて呆然・・という流れになってたと思います(笑)。つまり『ブロードキャスト』って、そういう作品でした。 中学時代に駅伝で全国を目指していた主人公・圭祐(僅差で全国を逃す)は、「高校でも駅伝をを頑張って行こう」と思っていたのに、事故で陸上部への入部を諦めざるを得なくなる。たまたま同中の正也に声を褒められ、誘われ、放送部に入部することになる。1年の1学期から、コンクールに参加することになった彼らは「テレビドラマ」に出演し、「ラジオドラマ」を一から製作することになる。自身の葛藤、部活仲間の苦悩、先輩たちとの思いの違い、真剣に番組制作に取り組むこと、コンクールの過程で見えて来たもの。 くは~~っ!!!なんていうか、正統派な青春部活物語過ぎて、ちょっと痒くなってきました(笑)。「ラジオドラマ制作」ということに、関わりがあったこともあるものですから、あるある感やら、ブーメランやらもうホント・・・痛痒いというかなんというか。あの頃をちょっと思い出したりして、私も若かったんだなぁとかね(^^;)。(↑高校の時の話ではありません) でも、一途に一つのことに情熱を傾けるということは、とてもエネルギーがいることですよね。それを共有できる仲間がいて、ぶつかったり苦悩したりしながら成長していく姿は、本当に清々しい。そして、いじめに関するドラマ制作を通して、部活仲間・久米へのいじめに対し…

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『断絶への航海』/ジェイムズ・P・ホーガン 〇

去年読んだ『図解で分かる14歳から知っておきたいAI』という、〈AIという技術の基礎知識やそれが人間の未来にどんな影響を及ぼすか〉ということを書いた実用書?子供向け解説本?・・・な本を読んだ際に、〈人間とAIが共存する世界〉として描かれたSFである本書『断絶への航海』のあらすじが紹介されていました。興味があったので〈読みたい本リスト〉に入れて、やっと順番が回ってきました(笑)。ジェイムズ・P・ホーガンさんがこの作品を描いたのは、1982年。現代とは技術の発展方向が違ったりはするのですが、SFとしてのリアリティはかなり高かったです。 ・・・それで、ですね。SFとしてはたぶん、大変すばらしい作品だとは思うんですよ?終盤はかなり面白かったですしね。ただ・・・ただ・・・。水無月・Rのキャパを越える登場人物の数!!さらに(当たり前だけど)みんな名前がカタカナ!覚えられない!!(笑)。特にメイフラワーⅡ世サイドの軍人さんたち、それぞれ特性(才能)があり、それを活かした活躍をするんだけど、それもなかなか覚えられない!!つくづく、自分は重厚系の海外作品を読んじゃいけないんだよなぁ・・・、と思い知らされました(-_-;)。 第3次世界大戦後、探索宇宙船〈クヮン・イン〉が人類が生息できる惑星・ケイロンを発見し、地球から植民船〈メイフラワーⅡ世〉が出発する。ケイロンに到達したメイフラワーⅡ世の面々は、クヮン・インで生誕しロボットに育てられ、そしてケイロン地表に降り立ち子孫を増やしてきた〈ケイロン人〉の社会と遭遇する…

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『悪玉伝』/朝井まかて 〇

ううむ・・・。なんか、少々感想が難しいなぁ・・・。本作『悪玉伝』は、実際に江戸時代に起きた「辰巳屋騒動」という、大阪の商家相続の争いを発端とし奉行所役人への収賄で御家人に死罪が言い渡されるに及ぶ、なかなかにセンセーショナルな大事件を描いたもの。朝井まかてさんらしい爽快感はやや抑えめ、私的にはちょっと物足りなかったかなぁ。まあ、かの大岡越前もかかわった歴史上の事件が題材とあっては、史実を改変するわけにはいかないのでしょうけれど…。 兄の死後、実家へ出奔した本来の跡継ぎである養子・乙之助の代わりに「辰巳屋」の跡目を継ぐものの、当の乙之助から話し合いもないままいきなり大阪の奉行所へ訴え出られてしまった吉兵衛。しかし、相続に関する書類をそろえ、各方面への入念な〈挨拶〉も怠らず、「相続は正当」との裁定が下る。事はそれで終結したかと思えたが・・・、乙之助の実家・唐金屋が江戸の奉行所の目安箱に〈大阪での裁きに不服あり〉と出訴し、それが将軍・吉宗公の目に留まったことから、江戸での再裁定が決まってしまう。大阪での派手な所業や〈挨拶〉が江戸では厳しい目を向けられ、厳しい詮議が続くも、吉兵衛は「身に覚えのないこと」として自白をせず、長い長い裁きを受ける中、大阪でも江戸でも吉兵衛の縁者によって賂を贈られた役人が多数発覚し、処断されていく。 大阪の奉行所での相続裁定が出るあたりまでは、なんだかフワフワとしてあまり緊迫感がなかったのですが、江戸へ拘引され、牢に入れられ、牢の中での立場を得るために頭と金を使い・・・となった…

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