『ヨハネスブルグの天使たち』/宮内悠介 〇

国を守るために溌溂と活躍するイスラム女性たちを描いた『あとは野となれ大和撫子』がとても面白かった宮内悠介さん。その宮内さんのロボットを描く連作短編、とあれば読むしかないよね!ということで、本書『ヨハネスブルグの天使たち』を手に取りました。 南アフリカ・ヨハネスブルグ、アメリカ・ニューヨーク、アフガニスタン・ジャララバード、イエメン・ハドラマウト、日本・東京。荒廃したこれらの都市で、日本製の少女型歌唱ロボット・DX9が大量に落下する。終わらない落下衝撃テストのため、9.11を再現するため、人ならぬ兵士として、催眠刺激依存のために・・・・。 それぞれに共通するのはDX9の落下だけかと思いきや、いくつかの物語に共通の人物が登場したり、それぞれの根底に諦めとそれでも前を向きたい感情のせめぎ合いが漂っていたりして、乾いた切なさを覚えました。落下する何百もの機体の中で唯一、感情や痛覚が起動してしまった一体が発信する「助けて」。ホビーロボットでありながら、高性能であるがゆえに、後付けの役割をインストールされ、殺戮兵器として酷使される。リアルに倦んだ大人がプログラムした刺激体感の本体として、団地の屋上から毎夜落下する。ーーその姿は、少女。 少女型歌唱ロボットというと、初音ミクなどのボーカロイドを思い起こしてしまいますが、物語中ではその容姿は特に描かれていなかったので、表紙に描かれた少女の方で想像して私は読んでいました。そんな<普通の日本人少女>のように見える姿で、過酷な世界に在り続けるDX9。想…

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『クローゼット』/千早茜 ◎

私設の服の美術館で、傷つけられた過去から少しずつ解放されていく芳(かおる)と纏子(とうこ)。18世紀から現代までの、様々な服飾を収蔵する美術館・・・、非常に心惹かれますねぇ!千早茜さんの描く、繊細な手編みレースのような、美しくそして実は力強い物語。纏子に密かに『クローゼット』と呼ばれているその美術館は、静かな佇まいの中に、情熱を秘めていたように思います。 芳がカフェのスタッフとして働くデパートに、纏子の勤める私設美術館が衣服の特設展示を行ったことがきっかけで、芳はその美術館にボランティアをしに行くようになる。芳と纏子と晶の出会いのシーンでは晶の気の強さがかなり強烈に描かれていましたが、それ以後も纏子が関わると彼女を守るために過剰反応する晶にも、詳しくは描かれなかった心の傷があったのでしょうね。三人が、近づいてはひるみ、もがきながらも互いを理解し癒し合い、そして自分の力で前を向いて歩いて行けるようになっていく様子が丁寧に描かれ、読んでいて救われました。 収蔵品の修復を手掛ける修復士たちの繊細で着実な技術、学芸員たちの確かな知識、そして数多ある収蔵品の煌びやかさ。静かな館内で傾けられる、ひたむきな情熱。美しい洋服が好きだけれど服飾の歴史に関しては素人の芳が、いろいろなものに興味を持ち感心するたびに、私も同様に「素晴らしいなぁ、素敵だなぁ」と心打たれてました。千早さんが執筆の際に取材した「公益財団法人 京都服飾文化研究財団」を検索してホームページへ行ってみたのですが、デジタル・アーカイブスに本作に出…

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『夫婦の断捨離』/やましたひでこ 〇

〈断捨離〉(商標登録されてるんですねぇ)で有名なやましたひでこさん。今まで〈断捨離〉については、ふんわりとしたイメージがあるぐらいで、著書や雑誌での特集なんかは特に読んだことがなかったのですが、このタイトルにちょっと心惹かれてしまいましてねぇ(笑)。『夫婦の断捨離』。あらまあ、ちょっと不穏な雰囲気も漂うようなタイトルですこと・・・、いや違うけど。「私は夫を断捨離したいんだ!」ということでこの本を読んだわけではありません、とりあえず、今のところは(笑)。 基本的な趣旨としては、入ってくる要らないモノを断つ「断」、家にあるガラクタを捨てる「捨」、モノへの執着から離れる「離」を実行して、「ごきげんな毎日」を送りましょう、という感じなんですが、それを阻むのが〈夫婦の対立〉なわけですね。我が家で言うと、「捨て派妻」と「やや溜め込み派夫」の攻防が繰り返されているのでございますよ。本書によれば、一番問題が多い組み合わせなんだそうです、この夫婦関係(笑)。・・・心当たりがあるなぁ(笑)。 ~~「妻は、家全部が自分の縄張りだと思ってる」~~(本文より引用)・・・うん、思ってます(笑)。夫のものがごちゃごちゃと持ち込まれると、イライラしてしまいますね、私。そして「これ、こんなに要る?要らないよね?せめて仕舞っていい?」と矢継ぎ早に言い放ち、出来るだけ片付けようとしてしまうわけですよ(笑)。だって、私は要らないもん。夫がとっておきたい理由は「いつか使うかもしれないから」なんだけど、その「いつか」が来たためしがない。…

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『僕は君を殺せない』/長谷川夕 〇

本の裏表紙の紹介文で、「驚愕のラスト」「二度読み必至」と煽られてたんですが・・・。う~ん、そこまでじゃなかったかなぁ。ラスト驚愕しなかったし(笑)。ちなみに、同じく裏表紙に〔問題:だれが「僕」で、だれが「君」でしょう?〕ってあったんですけど…、「僕」は作中で既に自らそう呼称してるし、「君」のほうもなんとなく途中で分かりました。ミステリー・・・ミステリ―・・・う~ん、ミステリーって何だったっけ。長谷川夕さん、ごめんなさい!表題作『僕は君を殺せない』より、3編目の「春の遺書」の方が、私は好きです。 とまあ、いきなり結論を書いてしまいました。「僕は君を殺せない」もね、「語り手・「おれ」が、ミステリーツアーに参加したら、大量虐殺に巻き込まれ、命からがら逃げだしてきて…」っていう最初の方は良かったんですよ。もう一人の語り手「僕」と強引な彼女・レイの話で「本家の清瀬」という名前から、「おれ」の話と関連がありそうだな・・・というのがわかり、さてどうつながるか・・・というところからちょっと匂わせすぎちゃって、僕と僕の親友・一馬の立ち位置が分かってしまい、となると「君」は誰かというのもわかっちゃって。もしかしてこの予測を裏切ってくれるのかな?と読み進めてたら、あっさり正解で。あれれ~?肩透かしだなぁ・・・と。 逆に気になったのが「おれ」の過去。この過去が本筋?の「清瀬一族虐殺」と全然絡まなかったのが、残念。それと、「僕」が清瀬家を恨みに思うのはわかったんですが、なんか足りない感(彼の説明があっさりしすぎ?)。更…

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