『完全版 上杉鷹山』/童門冬二 〇

偉人伝ってなんだか小難しい感じがして、あまり読まないジャンルなんですが、この作品は読み易かった!童門冬二さんの『完全版 上杉鷹山』。上杉鷹山による経済破綻した米沢藩の藩政改革を丁寧に描き、彼だけでなく彼と共に変革を行った近習たちの苦悩がつぶさに記され、それでいて堅苦しくないのが、とても良かったです。 本作は、1981年~82年の新聞連載小説である「小説 上杉鷹山」、1990年の評伝研究「上杉鷹山の経営学」、本作刊行時に追筆された「再考・上杉鷹山」の3部構成になっています。 「小説 上杉鷹山」鷹山というのは後の号であって、改革当時は上杉治憲(はるのり)であり、小説では治憲の名で描かれて行きます。若き養子藩主の改革に、大藩のプライドと凝り固まった価値観と自尊心で反抗する藩重役をはじめとする藩士たち。読んでいると「なんなの、この見栄っ張りどもは」という怒りも覚えましたし、でも逆に「今まで通りでいたい気持ちも分からなくもない」という思いにもなりました。当時の常識は「民はゴマと同じで、絞れば絞れだけ取れる」であり、「士分を支えるためにそれ以下のものたちがいる」であり、治憲が言う「民を富ませてこそ、国が豊かになる、藩を富ませることが目的ではない」という発想が理解できない。少しずつ、改革を浸透させる彼らの苦労を読んでいると、私までじれったくなってきてしまったのですが、たとえ進みが遅くても怒ったり強制したりしては意味がないのだ、と耐え偲ぶ治憲の誠実さや辛抱強さに、心を動かされました。治憲の志の高さ、そして彼を…

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『虚実妖怪百物語(急)』/京極夏彦 ◎

いやもう、なんていうかすごいですよ、京極夏彦さん・・・。先が気になって気になって、グイグイ読んじゃいました、『虚実妖怪百物語(急)』。そして、読みながらやっぱり気になったのは(京極さん、各方面に許可取ってるんだろうか・・・)でした(笑)。この作品、権利関係が難しすぎて、映像化できないでしょうねぇ・・・(^^;)。 魔人・加藤は富士の樹海の孔のなかで、仙石原から与党幹事長・大館に乗り換えたダイモンに命じる。この国の楽しみを余裕を苦しみを奪い、滅ぼせと。政府に捕縛された荒俣御大たちを救うために、村上と平太郎は同じ施設へ連行され、そこへ突っ込んできたのは黒史郎率いる?クトゥルーご一行&重機を操る村松新吉(作家)。富士山麓の妖怪村には、多数の作家・アニメーターなどのクリエイターたちが集結し、そこへ政府側からの情報をこっそりともって陰陽師が現れる。黒史郎のクトゥルーは実は狸だったことが発覚し、そのことは伏せられたままクトゥルー信者たちは解散。そして、荒俣御大・京極・水木大先生の鼓舞の元、妖怪馬鹿その他たちは、一大決起を・・・! うん、相変わらず、いろんなことが起き過ぎてて、全部拾っていかないと伝わらないのに、拾えるわけがないね(笑)。とりあえず、ユンボ(大型重機)の先に筆を括りつけて「鬱」という字が書ける村松氏・・・何で作家やってるんだろう。そして、クトゥルーの正体を化け狸に固定化させちゃった、田中啓文氏・・・梅寿師匠(『笑酔亭梅寿謎解噺』をはじめとする〈笑酔亭梅寿〉シリーズ・・・)はどうしてるかしらと…

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『虚実妖怪百物語(破)』/京極夏彦 ◎

『虚実妖怪百物語(序)』に引き続き、『虚実妖怪百物語(破)』でございますよ。妖怪馬鹿炸裂、事態はしっちゃかめっちゃかに混乱し、全く収拾が付かなくなってきてますよ、京極夏彦さん!!いやぁ、面白かったですね♪どんどん増える登場人物(しかも実在の人)に困惑しつつも、「この言動は、あの作家さんらしいわ…」「あの作家さんて、こんな人なのか…」と楽しんでしまいましたね~。ていうか、ホント作家さんて破天荒というかエキセントリックというか・・・(笑)。いや、作家さんだけじゃなく編集さんたちなんかも、キャラ立ちすぎだって(笑)。 富士の樹海に現れた魔人・加藤は、「この国を滅ぼせ」と配下であるダイモンを寄り憑かせた政治家・次期都知事の仙石原に命じる。京極夏彦を筆頭とする「妖怪推進委員会」のメンツは、「日本の情操を守る会(NJM)」に包囲されるも、辛くも脱出。荒俣御大がNASAの技術で強化改築したマンション(妖怪資料を保管している)も暴徒と「対妖怪特殊部隊(YAT)」に襲撃されるが、荒俣御大自ら操縦?する學天則(日本初のロボット?・・・の、付喪神?)で陽動作戦を決行。黒史郎の元に居座る「しょうけら」は平山夢明達の発言により「邪神・クトゥルー」と化し、海外からの信者を呼び寄せてしまう。 とにかく、どんどん登場人物が増えて、キャラが大渋滞してくる。でもまあ、うまいこと適材適所というか、ぴたりぴたりとはまって行くので、読んでて迷子になることはないのですが、ホント京極さん、各方面に許可取ってるんだろうか(笑)。会話が弾み、…

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『虚実妖怪百物語(序)』/京極夏彦 ◎

私的には京極夏彦さんで〈百物語〉と来たら〈巷説百物語〉シリーズだったんですが、本作『虚実妖怪百物語(序)』は、そちらのシリーズとは別物。これ、『帝都物語』へのオマージュ・・・なのかしら?史実の人や実在の人物が物語に登場してくるあたり、そんな気も??な~んてことを言ってますが私、『帝都物語』は高校生ぐらいの頃読んでいたものの、今となっては内容は朧げ、しかもたぶん途中巻までしか読めていないんですけどね・・・(^^;)。 荒俣宏著『帝都物語』の魔人・加藤らしき人物が、砂漠に出現するプロローグ。一転して、水木しげる大先生(おおせんせい)の元を訪れるカドカワの編集者たちは、大先生の「妖怪が消えている!」のご立腹を目にする。そうこうするうちに、何故か日本各地で「目に見える」妖怪が出現し、人々を惑わせ不安に陥れ始めるのだが・・・。 作中の水木大先生や京極夏彦、荒俣宏各氏が言うには、「妖怪とは理解しづらい現象を〈不思議なもの〉として思考停止で理解するためのツールであって、こんなにハッキリ誰の目にも見えるものではない」のだそうですよ。う~ん、確かにまあ、そう言われたらそうなのかもしれない・・・という前提で、この物語を読んでいくことにします。 すると、わかってくるのは「妖怪が誰の目にも見えるというおかしな現象」を誰もが受け入れ、なおかつ「妖怪が出てくるから世相が荒れるのだ」「妖怪関係者を殲滅せよ」という流れが、いかに付和雷同でいい加減なものか、ということですね。でもねぇ、こういう風潮って、ある気がします。妖怪騒…

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『未来』/湊かなえ 〇

う~~ん。湊かなえさんの「湊ワールドの集大成!」って帯にあったんですけどね。本作『未来』は、どうなんでしょうね・・・。私的には、ちょっと〈湊さんの色〉を強調しすぎというか、なんというか・・・。 水無月・Rは、小市民です。基本的に、痛いのとか苦しいのとか辛いのとか、ダメなんですよね。救われるシーンが欲しかった・・・。ラストシーンで、自分たちで自分たちを救うのかも・・・という描かれ方はしてたのですが、たぶんそれが「万感胸に迫るラスト」なんだと思うんですけどね。どうにも、私には響かなかった・・・。 読んでいて、すごくつらかったです。畳み掛けるように主人公やその周りの女性たちを襲う、「いじめ・虐待・近親相姦・不遇・貧困・不運・・・」がわざとらしすぎる気がしてしまって。いや、きっとこんな状況に苦しんでいる人はいるでしょうし、もっと酷い目に合ってる人もいるんだろうな・・・とは思います。本作は現実にそういう人たちを救う小説なのか、というとちょっと違う(だって深刻な事態はケースバイケースだと思うのですよ)。 父を癌で亡くし、精神的に不安定な母と二人で暮らす小学生・章子。同級生からの嫌がらせ、母の不調、時々復調する母の男性問題、絶縁していた父の実家からの干渉。小学生~中学生に対処できるような事態ではないのに、何とかやり過ごすしかない日々。 章子の同級生、亜里沙。母は病死し、だらしがなくモラルもない父に振り回され、弟を喪う。 章子と亜里沙の小4の時の担任・篠宮。教師を辞さざるを得なかった事情と、教え子に送っ…

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