『主婦悦子さんの予期せぬ日々』/久田恵 〇

やっば~い!!身につまされるし、イタイし、イライラするし、・・・すっごい勢いで読んじゃったですよ!専業主婦の悦子さん、定年退職後の嘱託で週数回仕事に行ってる夫、半分ニートな息子、という家族に、親の反対を押し切って結婚したはずの娘が出戻ってきた挙句に悦子さんの母の家に転がり込む。その母と言えば、離婚&早期退職してきた息子(悦子さんの弟)と同居してることも、夫(悦子さんの父)の死後、幼馴染と再会して交際してることも、黙っている。そりゃ確かに『主婦悦子さんの予期せぬ日々』ですわ、久田恵さん・・・(^^;)。ありそうだけど、私にはこういう予期せぬ日々は要らな~い、欲しくな~い(笑)。 最初は出戻り娘・アキの自分本位な調子の良さや勝手さにイライラしてたんですけどね、そんなアキに掻き乱されながらもみんなが自分の道を見つけていく、という流れには必要なんだろうな・・・と感じました。でもね、私には娘はいなくて息子2人なんですけど、アキみたいな娘がいたら、悦子さん以上にイライラしたと思いますわ~。っていうか、アキの自分勝手に対して、悦子さんみたいに助けてあげよう(アキにとってはおせっかいだったりするんだけど)としないで、バッサリ切っちゃうかも~。付き合いきれん・・・。いや、アキ、案外いい子なんですけどね。割と周りが見えてて、物事を本質的にとらえることが出来て、すごく素直で。 主人公の悦子さんが、「あ~この人ずっと主婦だった人だなぁ(笑)」っていうぐらい、世間知らずというか、自分の物差しで物事測ってる、というのはち…

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『不思議の国の少女たち』/ショーニン・マグワイア ◎

その寄宿学校に通う子供たちは、〈異世界に行ったことがある〉。心ならずも、現実世界に帰ってきてしまった彼らのために、現実と折り合うすべを教えるその学校で、連続殺人が起きる。ショーニン・マグワイアさんは、この『不思議の国の少女たち』が日本で初めての紹介となる作家さんなのだそうです。設定が面白く、すいすいと読め、そしてラストにはちょっとしんみり。とても良かったです。 この作品を知ったのは、なにかの書評だったと思うのですが、〈不思議の国に行った子供たちのその後の物語〉という紹介にとても心惹かれ、読みたい本リスト入り。紹介の中に〈不思議の国のアリスのような子どもたち〉という表現があったので、何となく自分の中で〈不思議の国に行った子どもたち〉=アリス、ドロシー(オズの魔法使い)、ペベンシー兄弟(姉妹)(ナルニア国物語)、なども含まれるパロディ的なものを想像してたのですが、全く違いました。でも、違っててよかったです。 死者の国、ナンセンスなおかしな国、光り輝く蜘蛛の国、吸血鬼の治める国・・・、様々な国から〈現実の世界〉に戻ってきてしまった彼らは、この世界に馴染めず、暮らしていた国に戻りたいと思っている。子どもたちはこの学校に通いながら、自分のいた国を「ロジックなのか、ナンセンスなのか」「高貴傾向なのか、邪悪傾向なのか」などの指針をもとに分類し、お互いの経験を語り合うセラピーを受けたり、それぞれの特性を尊重しながら生活をしている。時に〈不思議の国〉に帰れる子供が現れることもあるらしい。 死者の国に行き、死者…

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『夢みる葦笛』/上田早夕里 ◎

新聞の書評か何かで、「あ・・なんか私の好みに合いそう」と〈読みたい本リスト〉入りさせていた、上田早夕里さんの短編集・『夢みる葦笛』。想像以上に、私の感傷的な嗜好に寄り添ってきました!!他の作品も読んでみたくなりますねぇ。遠い未来で、並行世界で、はるかかなたの宇宙の先で、〈異なる存在〉と交流し影響を受ける〈ひと〉の物語たち。ファンタジーとSFと・・・様々なものが見事に融合して、美しくも切ない世界を繰り広げていました。 「夢みる葦笛」「眼神(まながみ)」「完全なる脳髄」「石繭」「氷波(ひょうは)」「滑車の地」「プテロス」「楽園(パラディスス)」「上海フランス租界礽斉路(チジロ)三二〇号」「アステロイド・ツリーの彼方へ」それぞれ全く違った世界観で、どれもが魅力的。 私の好きな、〈ひと〉と〈機械〉の狭間で揺れ動くものたちの物語、〈ひとならぬ生き物〉との交流を描いた物語、〈此処ではない何処か〉と繋がる物語。優しく、厳しく、温かく、切なく、発達した未来の技術や文化に彩られながら、それでいてほのかに漂う郷愁。本当に、どの物語も、素晴らしかったです。SFのサイエンスな部分は、ちょっと難しかったですけど(笑)。 表題作「夢みる葦笛」の、〈日常〉に美しい音楽を奏でる〈異形のもの〉が現れ、実はそれが人間を変容させるものであるとわかるけれど、それを望む人もいて・・・という展開は、リアルで美しくてそれでいてゾッとしました。〈ひと〉であることに倦んで、〈ひとならぬもの〉に変わることを願うその気持ちは、表面的には分かるの…

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『あるかしら書店』/ヨシタケシンスケ ◎

ヨシタケシンスケさんの『あるかしら書店』を訪れる人達は、「こんな本はあるかしら?」と店主に尋ねます。そうすると店主のおじさんは店の中から何冊かの本を取り出し、紹介してくれるのです。さてさて、私だったらどんな本を「あるかしら?」と尋ねようかしらん(笑)。 しかしこの本屋さん、なかなかの品揃えですねぇ。そして、店主さんの知識もとんでもない量です。どんな変化球の「あるかしら?」にも、難なく答えていく店主さん、ほのぼのしたチョビひげの小太りなおじさん(書店エプロンがとっても似合ってるなぁ)ですが、とっても有能。必ず、お客さんの求めているものを提供できるんですもの。 月の光でしか読めない『月光本』、遭難救助犬の補佐をしていた『文庫犬』など、ほのぼのしたものもあるけど、『本とのお別れ請負人』にはクスリと笑わせられましたね。「ハートフル古書流通」のおじいさん、見た目が格調高いおかげで、いい商売が出来てるようです(笑)。『本の作り方』も、朴訥な職人風のおじいさんが無表情に本を作っていく過程を描き、最後に無表情ながらもなんとなく満足の笑顔がうかがわれる「できあがり」。なんか、可愛いわぁ~。 『大ヒットして欲しかった本』はちょっと長め。うんうん、わかるわ。そうなんだよねぇ。「大ヒットしたらいいな」って、思っちゃうよねぇ。でも、それでいいと思うのですよワタクシ。そういう夢あってこその、『本』でもあると思います。うふふ。 『大ヒットして欲しかった本』のあとに、「必ず大ヒットする本のつくりかた」の本を「あるかしら」…

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『人ノ町』/詠坂雄二 〇

荒廃した世界に点在する町を、一人の旅人が巡る。詠坂雄二さんの『人ノ町』では、彼女のそんな淡々とした旅路が描かれて行きます。 何故、彼女は旅を続けていくのか。どこへ至ろうとしているのか。分からないながらも、それぞれの町で彼女が出会う人・出来事を共に経験していく、読者(私)。世界は、かつて繁栄していたものの、何かの事情があり衰退したようである。その衰退をどうにかして留めようとする町もあれば、受け入れようとする町もあり、新たな意味を付加しようとする町あり、衰退し廃墟となった町もある。旅慣れた彼女は、慎重に旅を続けていく。 5章のうち3章めの「日ノ町」で、かつてあった高度な科学技術の施設が、別の意味で覆い隠されていることから、かつての世界の繁栄はかなりの過去のものであり、その技術は失われて久しいことが分かってくる。そして、4章めの「石ノ町」で、彼女が〈何〉であるかが判明し、彼女の状況が明らかになる。更に最終章「王ノ町」で、「町ではなく〈国〉を立てる」ことになるかもしれない流れに少し加担した彼女は、まだ旅を続け〈人の栄え〉を見たいと願う。 身体は死なないが、新しいものを見聞し体験し、常に刺激を受け続けなければ「心の老化」による「心の死」を迎えてしまうという、不死者。不死者が「石ノ町」で石を積むのは、長い旅路を巡り「まだ生きている者がいる」という合図を仲間に残すため。彼女が以前帰郷した時すでに石積みは見当たらず、その時彼女が積んだ石も今はなく、新たな石積みもない。それでも彼女は、運命がその旅路を遮るまで…

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