『嘘と人形』/岩井志麻子 〇

一体、私が読んでいるのは、「誰の物語」なんだろうか。物語の目的は?・・・と、漂流し続けていました、最後の最後まで。岩井志麻子さんの〈豹コスプレ〉がインパクト大の表紙の単行本、『嘘と人形』。 たしかに一時、豹のコスプレしてましたねぇ、岩井さん(今はしてないですよね?たぶん)。昔、『ぼっけえ、きょうてえ』を読んで「なんちゅう怖い土俗怪談物を書く人なんだ・・・」と震え、『雨月物語』では怖ろしくもあさましい、情念の満ちた語りに引き込まれた作家さんなんですが。作風とキャラにだいぶ違いがある方だな、とは思ってたんですよ。そしたら、本作ではキャラの方に寄せて来た・・・と見せかけ、実は読者を遭難させるという(笑)。 冒頭から、〈豹コスプレをした作家・岩井志麻子〉がTVにでているのを、語り手の女が眺めている。彼女の姉は、頭を切り落とされてその頭は豹のぬいぐるみ人形(ガオちゃん)の頭の中に縫い込まれたという、猟奇的な殺され方をしたという。嘘つきで利己的な姉とはかなりの年月音信不通であったが、姉はネットで拙い作品を発表するインチキ芸術家として活動していたようである。・・・というはずの話が、章を追うにつれ、その妹の元にガオちゃんの表紙のノートが送りつけられ、それに触発された彼女が姉のHPを継承し、そうこうするうちに何故か身辺があやしくなってきて、いつの間にかさらわれていて、全裸で頭に何かをかぶせられた状態で拘束され、TVの岩井志麻子に声をかけられていて・・・。ところが、章が切り替わると、語り手はインチキ芸術家の離婚し…

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『グラン・ヴァカンス ~廃園の天使Ⅰ~』/飛浩隆 ◎

飛浩隆さんの『グラン・ヴァカンス ~廃園の天使Ⅰ~』 。私の〈読みたい本リスト〉のメモに、「AI達が封じられた、VR世界の崩落の一日」と書いてあって(このメモ書いたのがいつかも思い出せない・・・)、たぶん私は〈ひと〉と〈機械〉の狭間で揺れ動く物語的なものを期待していたと思うのですが、揺れ動くどころか、本書のAI達は確固とした個性や感情や矜持まで持っていて、彼らと人の間に何の違いがあるのか、と思わずにはいられなかったです。 ひと時の休暇を過ごす、リアルで緻密なVR世界(仮想リゾート)としてプログラムされた〈夏の区界〉。ある日突然ゲスト(人間)が来なくなり、ホストであり住人でもあるAI達は、一千年にわたるゲスト不在の夏を繰り返していた。ところがその平穏な日々は、〈蜘蛛〉の大群の襲来により脆くも崩れ去る。対抗する手段として〈硝視体〉を駆使する彼らだが、〈蜘蛛〉を操り〈夏の区界〉のプログラム習性にすら介入する男(少年?巨人?)・ランゴーニの策略に追い詰められていく。 ・・・ひたすらかなわない彼らの抵抗に絶望しながら、読む。千年も放置されてきたAI達の健気さや、彼らの感情や自尊はプログラムを越えてると感じて切なくなって、読んでるのが辛いのに、すごく読まされました。どんなに知力を尽くしても、更にその上を行く圧倒的な侵攻力を前に、凡人たる私は、ただひたすら絶望していました。何処かにこの状況を変える要素はないのか、ランゴーニよりも上位の救いの手は差し伸べられないのか、いやそんなものではなくやはり、彼ら自身の力…

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