『姑獲鳥の夏』/京極夏彦 ◎

言わずと知れた京極夏彦さんのデビュー作、『姑獲鳥の夏』。これが初めて書いた作品だとか、・・・マジですか、京極さん。とんでもない量の薀蓄、多分野に渡り繰り広げられる博覧強記・・・、前半なかなかそのペースについて行けず、アワアワしながら読んでおりましたよ。しかし後半になって、惹き込まれること惹き込まれること!! 何故今更、〈百鬼夜行シリーズ〉かといいますと・・・。水無月・Rの住むO阪市の図書館、今春のコロナによるステイホーム期間、休館しておりまして。先の見えないステイホーム期間は伸び続け、次第に手元に読む本はなくなり、如何したものかと思った時に「そういえば、京極さんの本は分厚いよね…」「いいタイミングだし、〈百鬼夜行シリーズ〉、そろそろ行くか!」と、ネットで購入。が、その直後(笑)大量の予約本の到着通知とともに図書館は開館し、まずはそちらを読まねば(次の予約の人が待っている)・・・てな感じで、ズルズルと取り掛かりが遅れてしまいました。 で、読み始めたらばまあ、難しい話のオンパレード。会話がぽんぽん弾むので何とかその勢いで読むものの、教養が足りてないワタクシにはついて行くのが大変でございましたよ。でも、やっぱり京極堂の〈憑き物落とし〉が始まると、様々に点在していたエピソードが再編され、闇に紛れていた〈事実〉が明らかにされていく。ただし、〈真実〉は容赦なく、すべてを暴く。それによって、今まで不穏を含みながらもなんとか過ごしてきた日々は霧消することもある。 文筆家の関口(語り手・私)は、友人の古書舗店…

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『平家物語 犬王の巻』/古川日出男 ◎

いやぁ、えらい勢いで読了しちゃいましたよ!とにかく、面白かった!古川日出男さん、異本・異説というのかな、そういうの上手ですねぇ。とても惹き込まれました!〈正本とされる平家物語〉とは別の物語が繰り広げられ、それによって2人の芸術者の運命は広がって行く。『平家物語 犬王の巻』で語られるのは、平家物語の異本物語そのものではなく、それを語るもの、それを能として舞うものの、因果の物語だったと思います。 都から来た者らに依頼された潜り手の親子は、海底から引き上げた神器によって、父は死に、息子は失明する。息子・五百友魚(いおのともな)は、父の死と自分の失明の理由を求めて、京へ上る途上でとある琵琶法師の弟子となり、琵琶法師の座の一員となる。 父は猿楽能で頭角を現し芸を極めたいという欲望により、秘術たる呪術を弄し魔物と取引をし、落人の郷から集められた「平家の物語」を知る琵琶法師たちを殺していく。魔物は琵琶法師たちの恨みを取り込み力をつけ、とうとう妻の腹に宿る子の容貌すら寄こせといい、それを受け入れた父は、当代きっての猿楽能者として栄える。どんな子が生まれたとしても、殺してはならぬ、生かさねばならぬという約定があったがゆえに、生まれ放ちにされた猿楽能者の子は、自らを犬王と名乗り、異形の体を包み隠して生きていく。ある日、能の修業をする兄弟を端見し、それを一人修業し始めた犬王は、美しき舞を収めることによって、自分の足に刻み付けられた琵琶法師の恨みを解き放ち、異形だった足は正常な足に変化した。 そんな二人が、京のはず…

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『落花狼藉』/朝井まかて ◎

江戸吉原が誕生し、街として発展し、大火に2度会い焼失、そして新吉原への移転。奢侈禁止令など〈お上〉から命じられたことに対しても、ただ従うではなく様々な交渉や抜け道を使い、商売敵である女歌舞伎や風呂屋を排除したり、世情と絡めて夜見世禁止を解かせたり。そういった吉原の歴史を〈吉原創始者であり傾城屋の楼主・甚右衛門の妻・花仍(かよ)〉の視点で語る、『落花狼藉』。朝井まかてさんの描く吉原創成期、苦界に苦しむ女たちではなく街とその街を育てた経営者たち中心にした物語で、新鮮でした。 新しい〈売色御免の街〉を作るため、お上に掛け合い更地からの街造りを仕上げた、西田屋の甚右衛門。その妻・花仍は、幼い頃拾われ、西田屋で育てられたものの女郎には向かず、気の強さから「鬼花仍」と呼ばれ嫁の行き先もなく、西田屋の女房に収まった。見世の女郎を物見遊山に連れ出しては歌舞伎者と口喧嘩をし、駕籠かきの錫杖を振り回す気の強さはありながらも、街の寄り合いでは思慮の足らない発言をして周りを煽ったり呆れさせたり。 今までの朝井さんの描く女性像とは、ちょっと違った感じですね。凛とした佇まいに憧れを抱けるようなタイプではなく、どちらかといえば、情もあるけど、忙しさに紛れて娘を蔑ろにしてしまったり、夫と仲違いをしたまま逝かせてしまったりと失敗も悔恨もある、なんとなく身近に感じられる女性像でした。 沼地の開拓から始まり街を作り上げ、お上とのやり取りで困れば町を挙げて寄り合いを行って対策を練り、どうやったら〈吉原という売色の街〉がより煌びやか…

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『などらきの首』/澤村伊智 ◎

読了した翌朝から、妙に涼しい風が吹いてきて、まるで私がこのホラーを読み終えたことで、〈真夏〉が終わったかのような・・・。いやいや違うし!そんなんじゃないし!!なんか自意識過剰過ぎるでしょ、私!!澤村伊智さんが放つ〈比嘉姉妹〉シリーズの短編集、『などらきの首』。短編集だから、サクサク読めました。サクサク読めたって、怖いものは怖いんですけどねぇ。 『ぼぎわんが、来る』で恐怖のどん底にたたき落され、『ずうのめ人形』で背筋が凍り、澤村作品は夏に読むべしと勝手に決めつけた私の手元にやっと図書館の予約順が回って来た本作。いやぁ・・・、やっぱりあれよ、怖いね(笑)。人間は怖いし、怪異も怖いし、鈍感な私が気付かないだけで、怖いものなんてあちこちに転がってるのかも・・・なんて思っちゃいましたよ。澤村さんの文章の迫力ですかねぇ。 「ゴカイノカイ」まさかの、「おまじないが本当になってしまう」話。「学校は死の匂い」比嘉姉妹の次女・美晴が、小学生の時に解き明かした怪異。「居酒屋脳髄談義」比嘉姉妹長女・琴子が、とある居酒屋で祓った者たちとは。「悲鳴」大学のホラー映画サークルで起きた事件の顛末。「ファインダーの向こうに」撮影スタジオの怪異現象を追う、野崎。「などらきの首」友人の子供の頃の恐怖体験を、理路整然と解いたはずが・・・。 〈人間がいちばん怖い〉なんていう、陳腐なセリフをついつい吐いてしまいそうになる展開でありつつ、最後の最後に「・・・え?今のって・・・?」と呟いてしまった「学校は死の匂い」。これはアレですわ、全員…

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『コロナ黙示録』/海堂尊 ◎

え?これ、大丈夫なの?フィクションだけど、現在進行形のコロナ(COVID-19)で小説?現政権批判?海堂尊さんの『コロナ黙示録』、あまりにリアルタイム過ぎて、私が動揺っておかしいけど、めっちゃ動揺しながら読んでたですよ。長く描かれてきた〈桜宮サーガ〉の中に、こういうリアルの事態を取り入れても不自然さも矛盾もないのが、スゴイですよね。現政権批判やら現在進行形の感染症を描いてるので、のちのち「小説の通りではなかったが…」ってことになるのかもしれないけど、なんていうか、「今の日本の医療と政治と国民」の問題点をきっちりクローズアップしてくれた作品でしたね~。 しかし、いつも思うんですが、こんなにフラグや伏線だらけの人生を送ってる海堂作品の登場人物たちって、すんごいバイタリティですよね。私だったら絶対、早死にするだろうなぁ(笑)。ガッツリ〈その他大勢体質〉なので・・・。そんなバイタリティ満載・轟き渡る二つ名持ち・頭脳弁舌冴え渡りすぎて凡人置いてけぼりな登場人物たちとガッツリ相対する〈新型コロナウィルス感染症〉。サーガの重要メンバー総動員の物語です。『ナニワ・モンスター』よりも現実にオーバーラップしてて、小説だとはわかってても首相の「お友だち優遇」だの官僚亡国だの、「今の日本って、こんなにダメダメなの・・・?!」と切なくなりましたね。そして、コロナには特効薬もないしワクチン開発も難しい(同じ系統のSARSから20年たっても、有効なものがないだなんて・・・!)という事実を突きつけられ、ああ本当に今までとは色々…

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