『友達未遂』/宮西真冬 ◎

イヤミス感たっぷりの表紙にちょっと腰が引けつつも、「書評では爽やかな余韻ってあったし・・・」と読み始めた、宮西真冬さんの『友達未遂』。読み始めたら、痛いのなんのって・・・、グイグイと読まされました!すごい!! 山の奥にある、全寮制の私立女子校・星華高等学校。寮では、三年生と1年生が同室となり、マザー・チャイルドとして世話・指導・保護される関係が築かれる。家庭の事情で星華に送り込まれた茜、そのマザーで生徒会長で伝説のマドンナと言われた恵子の娘・桜子、美術コースのエース・千尋、そのチャイルドでとある目的をもって美術コースに進学してきた真琴。 ちょっとしたトラブルはありつつも、穏やかな女子高生活が始まった…ように見えたが、いくつもの事件が重なり、生徒たちの間には疑心暗鬼が生まれ始める。上品で優しく美しい、理想の上級生である桜子は、それに苦悩しているように見えたが、実は…。桜子のチャイルドであることをやっかまれている茜は、トラブルに巻き込まれつつ、桜子の実情の一端に触れてしまう。サバサバした性格で桜子とは別の方向性で慕われている千尋の、砕かれた自尊心。真琴の目的と、その為の暴走。 創立100年以上の伝統校、受け継がれる習慣、代々星華に進学する娘たちを「純血」と呼びそうでない者を蔑むOGたち。それらに縛られ、息苦しい中で、どうにかして自分たちの在り方を模索し、〈いま〉を生きていこうとする彼女たち。彼女たちの身の中で「真の自分を認めて欲しい」「誰かに本当に必要とされたい」という思いがマグマのように沸き噴…

続きを読む

『30センチの冒険』/三崎亜記 ◎

三崎亜記さんのキーワードが多出する作品。寝過ごしたバスの終点で下ろされた図書館司書のユーリは、〈大地の秩序が乱れた世界〉に紛れ込んでしまう。渡来人としてその世界で〈救世主〉として期待された彼が持っていたのは、30センチのものさしであった。彼の『30センチの冒険』は、この世界を救うのか。ユーリは、元の世界に戻ることが出来るのか・・・。 元の世界と大地の秩序が乱れた世界、どちらが従来の三崎作品世界なのかな~?と思いつつ読み進めていきました。なんだか、普段の三崎作品と雰囲気が違うんで、ちょっと最初は戸惑ってましたね。三崎作品といえば〈現代日本と似ているのに世界の構成ルールが違う〉という世界設定で、〈失われるものへのひそやかな郷愁〉が切々と描かれているというイメージがあるのですが、本作は〈全く違う世界にスリップしてしまった〉ことから始まるので、ルールが違うのも当たり前でなんというか思いっきりファンタジー過ぎて、違和感がありました。 元の世界とこちらと、どちらが三崎作品の世界なんだろうという邪推も、どうも私の読書の足を引っ張っていたようです。〈鼓笛隊〉が来るということは、こちらの世界は「三崎作品世界の遠い未来」なのかな?と思ったりもしたのですが、どうもそれも違うようで。ユーリが勤めていたのが〈第五分館〉ということは、元の世界は『刻まれない明日』 の「第五分館だより」の世界だからこっち?でもユーリは鼓笛隊のことは知らなかった、ということは元の世界には襲来する鼓笛隊が存在しない?・・・あれ?分からなくなった…

続きを読む

『理由あって冬に出る』/似鳥鶏 〇

『彼女の色に届くまで』 を読んで、似鳥鶏さん面白いなぁ・・・となり、さっそく図書館で予約を入れた本作『理由あって冬に出る』。似鳥さんのデビュー作なんですってねぇ。テンポよく進むライトミステリで、初々しさも感じられる、いい作品でした!! 文化部部員たちが出入りする芸術棟に幽霊が出る、という噂が発生し、それを恐れた部員たちが練習できる場所がなくなった、と助けを求められた美術部の葉山君。吹奏楽部の高島先輩・秋野さん、演劇部の三野と共に夜中の芸術棟に入りこむが・・・。いる訳の無い幽霊が現れる。翌日文芸部の伊神先輩・吹奏楽部の東先輩も加えて再び芸術棟に忍び込んだ彼らは、その謎を解き明かす。が・・・三野が別の場所に幽霊を見てしまい、さらに翌日その場所に演劇部の柳瀬さんも途中参加で侵入。別の場所の幽霊を解明した伊神先輩は、一つの引っ掛かりを三野に投げかける。そして、幽霊騒ぎの根本は解明されるも、少年少女たちにやや陰りを残すこととなってしまう。エピローグで、主人公・葉山が発見してしまったものは・・・! テンポの良い文章、冒頭にある芸術棟とその隣の棟の図面を参照しながらのトリック解明、少年少女たちの真っ直ぐさ、大変読みやすかったですね。ですが、初めと中頃に差し挟まれるシリアスっぽいエピソードが凄く違和感があって、非常に座りの悪い思いをしながら読んでました。それが、最後の三野に投げかけられた引っ掛かりにつながった時はなるほどと思いつつ、「なんかとってつけたような話になってるなぁ」と思わずにはいられませんでした。ち…

続きを読む

『ドミノin上海』/恩田陸 ◎

前作『ドミノ』で〈・・・まさにドミノ〉というアタマ悪い感想(笑)を書きましたが、今回は〈いやはやドミノ・・・〉という更にアタマの悪い感想を、まずは捧げたいと思います(笑)。だって恩田陸さん、とんでもない数のエピソードが絡み合い、パタパタと収束していくんですもん、『ドミノin上海』!!映画監督・フィリップのペット・ダリオに訪れたとある運命が、25人と3匹のささやかな出来事を撚り合わせ始め、あちこちに錯綜する個々のエピソードは、行ったり来たりしながらも一つの地点を目指して猛烈な勢いでなだれ込んでくる。読んでて、すごく楽しかったですわぁ! 前作と同じく、巻頭に「登場人物より一言」があるんですが、どれも的を射ているようなズレてるような一言(笑)。ああ、この人前作にも出てたわ、こんなビジュアルだったのかと笑ったり、一言の内容が意味深なのかどうか、それぞれの関係性は?などと思いを馳せながら、本編を読み込むうちにどんどんこの人たちが大好きになってしまいました。今回、ダリオはちゃんとイグアナの姿で描かれてましたが・・・とんでもない事態に巡り合ってしまい、ちょっと色々アレな状況に。更に、まさかの「〈ミニチュアダックスフント〉に憑依する」だなんて・・・。いや、私前作で何故かダリオを〈茶色いミニチュアダックスフント〉だと思い込んで読んでたんで、びっくりですわ。まさか本作でホントに茶色いダックスフントになるだなんて(笑)。私、先見の明があったのかしらん(笑)。 関東生命の和美・と優子が「ぴざ~や」の市橋健児と結婚した…

続きを読む

『夜は終わらない』/星野智幸 〇

「一度入り込んだら抜け出せない 命がけの最期の物語」という紹介をみて興味が湧いて、読みたい本リスト入りしていた本作・『夜は終わらない』。星野智幸さんは初読みです。男から金を巻き上げ、不要となれば容赦なく葬り去る結婚詐欺師・玲緒奈。男たちを消す際には、彼女を魅了するような物語を語らせるのが、玲緒奈のルール。次々と不要になった男を消していく結婚詐欺師・・・現実でも、なんかそういう事件ありましたよねぇ。 いずれ殺す予定だった男の自殺、警察での事情聴取、そして玲緒奈はペットのフェレット・トリスタンを連れ、住んでいたタワーマンションを後にする。トリスタンを埼玉の神社で放ったあと、信州の山の中に住む男・シュンジューの元を訪れ、「まだ生きたければ、私が夢中になれる話をしてよ」と促す。シュンジューの話は彼女を魅了することが出来ず、翌朝シュンジューはトイレで二酸化炭素自殺を図った体で、始末される。 玲緒奈は、地味に公団住宅で暮らすクオンの元へ。クオンにも「夜の間に物語を」と告げると、サラリーマンの傍ら街での「聞き屋」もしていた彼は魅力的な物語を語り出し、しかも夜明けとともに「続きはまた今夜」という。クオンは何夜もに渡り微妙に玲緒奈のことを例えるような物語などを語り、玲緒奈は不本意ながらも物語を聞き終わるまでというルールは守っているうちに、物語と現実の区別がつかなくなっていく。 数人を始末してきたという設定、目次の物語の数多さから、玲緒奈が次々と男を殺していく物語かと思いきや、2つ目以降はずっとクオンの語る物語…

続きを読む