『零號琴』/飛浩隆 ◎

いやあ、壮大というかもうホント、大変でしたわ~。『グラン・ヴァカンス ~廃園の天使Ⅰ~』で私の心をわしづかみにした飛浩隆さんの『零號琴』、SFでファンタジーでしかも世界観説明がないままに物語が始まるもんだから、世界観が朧げに出も見えてくるまでずっと、「???」が私の頭の中をピヨピヨと飛び交っておりました。 とてもとても、未来の話。人類が遠く放った探査船が銀河の果てで捕捉され、その時に搭載された〈行ってしまった人たち〉の科学・文化その他は、人類の宇宙進出を飛躍的に広げた。様々な役立つ事物を残して、自らはきれいに姿を消してしまった〈行ってしまった人たち〉の遺構を利用して、人々は生きている。数多ある惑星の一つ『美縟(びじょく)』は、文化生誕500年の記念祭を迎えようとしていた。500年祭を機に美縟全土から〈美玉鐘(びぎょくしょう)〉が出土し、大小さまざまなその鐘を都市全体に配置し演奏することで、美縟独自の文化である〈假面劇(かめんげき)〉を執り行うことになっていた。宇宙規模の大富豪・フェアフーフェンに招かれその假面劇に参加させられることになったトロムボロクとシェリュバンは、美玉鐘再建とその演奏・假面劇の開演に向けて奔走する美縟の住民たちと活動することになる。国外から呼ばれた名演奏者ヌウラ・ヌウラ、時艦通信社の鎌倉ユリコ記者、フェアフーフェンの娘で劇作家のワンダ、ワンダの兄フース、様々な人物の思惑が入り乱れ、作中劇と物語も侵食しあい、更にはクールジャパンな日曜アニメや戦隊もの、某・銀と赤の巨大戦士のモチ…

続きを読む

『わけあって絶滅しました。』/丸山貴史(監修:今泉忠明) ◎

早川いくをさんの〈へんないきもの〉シリーズが大好きな私。丸山貴史さんの〈ざんねんないきもの〉シリーズも実は注目してたんですが、出版されて久しく今更どうだろう…と思ってたところにこの『わけあって絶滅しました。』が書評で紹介され、やっぱり読もう!ということになったのでした。結構、図書館で順番待ちしましたよ~。いやぁ、トホホな生物満載で、読みながらニヤニヤしちゃいました。 地球生誕以来、様々な生物が生まれ、進化し、絶滅し、新たな生物が繁殖し進化し、を繰り返してきました。隕石落下、気温の大変化、火山の爆発連鎖、など様々な出来事があり、大絶滅は5回あったそうです。そして現在、オゾン層破壊による温暖化よりももっと主要な原因となっているのが「我々人間のせい」。なんか申し訳ないですなぁ・・・。生物たちの生態系や種の絶滅などに関心がなかった時代の「食料にするため」とか「毛皮が綺麗だったから」だけでなく、生息地域の人間浸食や環境破壊、って切ない・・・。 特に切ないのは「ヨウスコウカワイルカ」。絶滅年代「21世紀」って!何とかならなかったのかなぁ。パンダ以外にも絶滅危惧種には気を配ってくれよ、中国・・・って思っちゃいます。いや、こういう言い方良くないかな。う~ん・・・。 生物の進化も、よいこともあれば悪いこともあるんですねぇ。環境特化しすぎて、急激な変化についていけなくなるとかもあるのですね。あまり進化しないで変わらずに居たら、生き残って来れた生物ってのもいます。・・・すごいですねぇ。 それそれの生物たちにキャ…

続きを読む

『発現』/阿部智里 △

〈八咫烏〉シリーズの阿部智里さんのシリーズ外の第1作。・・・なんだけど、う~ん、なんだろこれ。私的にはちょっと不完全燃焼だなぁ。母を自死で亡くした兄妹に『発現』した、怖ろしい幻覚。その過程と苦しみを追う平成30年パートと、戦争帰りの兄の自死の謎を追う弟の昭和40年パートが交互に語られていく・・・。 う~ん、これねぇ、澤村伊智さんだったら、すんごい怖かったんじゃないかなと思うんですよね(^^;)。そして、オチの無いラストでも「ひょえぇぇ~、怖かったわぁ~」ってビクつけたと思うんですよ。更に言うとたぶんね、澤村さんなら〈いったん解決、の後に怖さの可能性をあからさまにチラつかせる〉展開にしたかなって気がしますね。私的には、その方が納得がいったかな~。 ホントに、この作品気に入った人には申し訳ないけど、私には合わなかった。迫りくる死体少女も、折り重なる死体の山も、怖くなくて、実感がわかない。リアルな幻覚を見てしまう兄妹としたら、たまったものじゃないのだろうけど、「あ~、この人たち怖いんだろうなぁ」とまでは思うけど、そこから先がなかったのですよ。残念。 昭和40年パートの方も、懸命に「戦地で兄に何があったのか」を追い、「兄の犯した罪(だが戦地では仕方なかったかもしれない)」を推測してしまった痛ましさは感じられたのだけど、今更どうにもできないことだし・・・と思ってしまいました。 そして、二つの物語が出会う最終章(平成31年)、理不尽なことが判明する。戦地で兄が罪を犯し、そのことに苛まれて自死したことは…

続きを読む

『四畳半タイムマシンブルース』/森見登美彦 ◎

モリミーこと森見登美彦さんの原点ともいえる〈四畳半にわだかまる腐れ大学生〉が遺憾なくその能力?を発揮する物語(笑)。かつてワタクシのトホホ愛を大いにゆすぶってくれた『四畳半神話大系』のメンバーが、突然現れたタイムマシンを利用して、昨晩壊れてしまったエアコンのリモコンを取りに行こうとしたことで始まる、ドタバタコメディー、『四畳半タイムマシンブルース』。 酷暑の京都。黒髪の乙女・明石さんにアピールしたくて映画サークル「みそぎ」の撮影に協力した「私」だったが、打ち上げのドタバタで〈下鴨幽水荘〉唯一のエアコンのリモコンが壊れてしまう。その前後から、何故か妙にかみ合わない事態が発生している。翌日、喪われたリモコンに打ちひしがれる?彼らの前に、「タイムマシンで25年後から来ました」というもっさりした男が現れる。どう見ても畳にビミョーな機器を設置しただけにしか見えないタイムマシンだったが、何と本物。これを使って「昨日壊れる前のリモコンを持ってこよう」と思い付いた彼らだが、〈歴史改変〉による世界消滅の危機に気付いた「私」ともっさり男・田村君が数多のトラブルに遭いつつも、なんとか歴史?は改変されることなく、そして壊れていないリモコン入手(笑)もかなうのだが・・・。まあ、終わり良ければ総て良し、~~成就した恋ほど語るに値しないものはない~~(本文より引用)という、明石さんと私の恋の成就もきちんと描かれ?、時の流れは守られたということですねぇ(笑)。 とにかく四畳半ですよ(笑)。表紙の背景にドーンと描かれてる時計も…

続きを読む