『メルサスの少年 ~螺旋の街の物語~』/菅浩江 ◎
私の中では、〈ひと〉と〈機械〉の狭間で揺れ動くものたちを描くSFファンタジーが菅浩江さんの最も美しいジャンルだと思っていたのですが、そんな思い込みを打ち破って〈少年少女の迷いと懊悩に満ちつつも、清々しい成長〉を描いた作品でした。いやぁ、素晴らしかった。なんというか、とても胸に迫る作品です。『メルサスの少年 ~螺旋の街の物語~』は、私の好みにピッタリの、幻想的で美しく力強い物語でした。読んでいて、とても心地よかったです。
貴重な鉱石を産出するパラサ鉱山のほど近くに存在する、すり鉢状の歓楽の街・メルルキサス。そこに住まうのは、身体的変化(人間と動物などのハイブリット形態)を遂げた遊女たち。すり鉢の底から反転して広がる地下空間には、身体的変化を迎える準備をしながら暮らしている乙女たちがいる。身籠もるはずのないメルルキサスの女から生まれた唯一の子供・イェノムは、街の女たちに可愛がられ揶揄われ、いつまでも子供扱いされることに不満を持っていた。日常に不満を持ちつつも平和に暮らしていたイェノムと、穏やかであったメルルキサスに訪れた危機。それは、世界支配を目論むトリネキシア商会の、パラサ鉱山の強行採掘と地下の乙女の一人であるカレンシアの引き渡し要求だった。
迫りくる圧力から逃れるすべも、交渉する余地もない彼ら。子供であるがゆえに情報から隔離され、街唯一の男として何かしたいともがいても、叶わないイェノム。地下空間に放牧される生物・ラーファータの時季外れに生まれたトクウも唯一の牡で、イェノムならトクウの言葉が分か…