『痴情小説』/岩井志麻子 〇

岡山の女たちの、汗したたり情もねばつくような、痴情に溺れる13編。とはいえ、『痴情小説』とは、あまりにストレートなタイトルではありませんかね、岩井志麻子さん(笑)。あまりにあまりなタイトル故、家族にはタイトルを見られないように気を付けちゃいましたよ、ワタクシ(^^;)。一応、未成年な次男もおりますもので(笑)。 本書は、岡山弁がもつじっとりとした持ち重り感が、存分に表現されていた気がしますね。岩井さんの代表作と言っていいのかな・・・『ぼっけえ、きょうてえ』を、かな~り昔(ブログ始める前)に読んだことがあるんですが、その印象がかなり強かったからか、物語のなかの岡山弁ってなんとなく〈土着の恐怖〉のトリガーになっちゃってるんですよね、私の中で。現実世界で岡山弁を聞いても、そんなに恐ろしいとは思わないと思うんですけど。わりと軽めにスラスラと読めるのに、必ず奥底に澱んだ「きょうてえ」感があって、どの物語もなんだかじっとりしていました。 一番印象的だったのは、最終章の「銀の街」。親に交際を反対された末に勧められた別の男と結婚するも、離婚した美佐子。OL時代に韓国のホテルのボーイとその旅行期間だけ関係を持ち、10年も経ってから再会し、今は月に2度ソウルへの往復を繰り返すようになり、未来の関係を望むようになったのだが。どちらの親族も、「韓国人(日本人)なんてありえない」と反対されるだろうことは、目に見えている。かつて美佐子を振り回した母は老い衰えて、兄と美佐子が母の様子を見に来た際に、自室で倒れているのを発見…

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『おまかせハウスの人々』/菅浩江 〇

あらまあ、私的〈いつもの菅浩江さん(〈ひと〉と〈機械〉の狭間で揺れ動く物語)〉とも、先日読んだ『ゆらぎの森のシエラ』ともちょっと違う印象でしたね。本作『おまかせハウスの人々』は、割とライトに「ちょっと未来の日本(?)で機械文化が進んだら」という世界を描いた短編集です。ライトなSFだけど、人の悲哀もしっかり描かれ、ホッとしたりゾッとしたり。なかなか面白かったです。 「純也の事例」AIの成長を促進するための里親制度で、純也を育てている夕香。「麦笛西行」空気を読むことが苦手な嘉継は、とある機器に頼っていた。「ナノマシン・ソリチュード」病気治療のために、ナノマシンを体内に入れている小枝子。「フード病」義母の死は、私の料理を食べていたから?聡子の悩みを救ってくれたのは、娘の一言。「鮮やかなあの色を」離人症状に悩む祐加子は、友人から分けてもらった薬を飲むが。「おまかせハウスの人々」家事の一切を全自動でしてくれる住宅に住むモニターたちから、聞き取り調査をするのが仕事の博也。 どの物語も、ちょっと先の日本で、機械が便利になった世界を描いている・・・はずなのだが、便利であると断言するのが少々難しい事態になっていたりする。あ、冒頭でワタクシ、〈ひと〉と〈機械〉の狭間で揺れ動く物語系ではないって書いたんですけど、・・・揺れ動いてましたわ。本書で揺れ動いてるのは主に人間で、いつも私が菅作品に感じている情緒的なものというより、人間の悲しさ可笑し逞しさが描かれてる感じです。もちろん、この短編集に情緒が全くないというわけで…

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『婚活中毒』/秋吉理香子 ◎

いやぁ、なんとも読後感の悪い・・・。でも、ここのところかなり読書スピードが落ちてた私がイッキ読み出来てしまったぐらい、グイグイ読ませる短編集でした!秋吉理香子さん、すごい!さすが!!『婚活中毒』というタイトルもなかなかに思わせぶりで、短編それぞれのタイトルもシンプルにして秀逸。じゃあ、話はライトなのかというと、ドロドロありゾッとするものあり、落ち着かない気分にさせられる話ばかり。その毒に毒されて、クラクラしながら読み終えました。あ、そういう意味での中毒でもあるわけね!なるほど。 「理想の男」結婚相談所に紹介された、高スペックな男。なぜ彼が、今まで相手が決まらなかったのかを調べ始めた沙織に起こった出来事とは。「婚活マニュアル」街コンでカップルになった美女は、だんだん高額なプレゼントを要求してくるように。彼女の友達に心を移すようになった洋介。「リケジョの婚活」 婚活番組でターゲットに定めた相手について、細かくデータを収集・分析・AIを使った会話ソフトまで作り上げた恵美。選ばれなかった彼女の次善の策。「代理婚活」親が代わりに婚活するというイベントで、好条件の娘さんからオファーが来た石田家。益男は相手の母親にときめき、息子の意思を無視して縁談を進めてしまうのだが。 どの話にも、予想もつかないどんでん返しがあり、それがまあホントにゾッとするんですよね。とはいえ、〈ありえない話〉でもなさそうな事だな・・・と気付いてしまうわけですよ。普段、平和に安閑と暮らしてる私なんか、絶対に気付かない落とし穴だな、と思う…

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『輪舞曲(ロンド)』/朝井まかて 〇

大正期に活躍した女優・伊澤蘭奢(いざわらんじゃ)。彼女の遺稿集の編纂に携わった、4人の男たち。朝井まかてさんによる伊澤蘭奢を浮き彫りにする物語、『輪舞曲(ロンド)』ですが、果たして彼女の本当の姿は描き切れたのか。それとも、彼女は真に〈女優〉として生き抜いたがために、〈女優としての伊澤蘭奢〉が浮かび上がってしまったのか。人は多面体である、自らも、他者から見た姿も・・・という感じを受けました。 津和野の老舗の薬屋の若嫁・伊藤繁は、乳飲み子・佐喜雄を置いて新薬開発に燃える夫と上京した際に、遠縁の浪人生・駿雄と関係を持つ。事業に失敗した夫とともに津和野に戻るも、旧家である婚家での生活は、彼女を蝕んでいく。離縁を申し出、実家に戻り、鬱々とした生活の中でふと上京時に見た舞台を思い出し、〈女優になるのだ〉と思い立ち、離縁を成立させ、上京新劇の劇団に入団し、女優・伊澤蘭奢(いざわらんじゃ)としての下積みが始まる中、出版社社主の内藤民治という男に見いだされ、パトロンとして面倒を見てもらうことに。舞台生活のさなか、帝大生の福田清人と知り合い、彼とも関係を持つ。女優として大成し、舞台だけでなく活動写真にも出演し、さあこれから更に女優としての盤石の名声を得るのだ・・・という時、40歳を目前にして、彼女は脳溢血で死亡する。 物語は、その彼女を偲んで4人の男が集められるところから始まる。内藤は、蘭奢の遺稿集を出版したい、協力して欲しい、と彼らに申し出、承諾は得るもののそれぞれに思いは錯綜する・・・。 4人の男たちから見…

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