『キミのお金はどこに消えるのか』/井上純一 ◎(コミックス)

むっっず・・・(笑)。いや、理論はすごく通ってるし、わかりやすく解説してくれているんですよ?サラサラ読める・・・が、何故か納得行かない~(笑)。今まで私が理解してた〈経済〉の感覚が誤解である・・・、という内容だからかしらん。中国人である奥さん・月(ゆえ)さんとのオモシロ日常を描いたエッセイ漫画『中国嫁日記』で有名な漫画家・井上純一さんによる、経済解説漫画『キミのお金はどこに消えるのか』 。月さんが投げかける「日本の経済、オカシデスヨ!」「ナゼデスカ?!」というツッコミや疑問に、井上さんが一生懸命わかりやすく答える、そういう展開なので、私みたいな経済素人にもわかりやすかったです。 わかりやすかった、のに納得がいかないのは、「感情的に」ですな(笑)。経済理解に感情はアカン気もしますが・・・。「公共事業はムダなほうがいい」とか「世の中から借金が消えたら、お金がなくなる」ということを、ちゃんと理解できる理論で説明してくれてるんだけど、今まで信じてたこととあまりにも違うから、訳わかんなくなっちゃうのですよ。たぶんね、井上さんの意見に真っ向反対の立ち位置の人もいて、そのひとの理屈も読んだら理解できるような気がします。つまり、私の考えの芯がまだフラフラしてるってことですな。 それから、「日本のアタマいい経済のエライ人たちが、井上氏の考えを踏襲しないのには理由があるはず」って思ってしまうからですかねぇ。もちろん、既得権益とか日本人特有の頑固さとか、あるんだろうけど。なんか、それ以外の理由も実はありそう、って疑…

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『リリエンタールの末裔』/上田早夕里 ◎

『夢見る葦笛』で、私の嗜好にピッタリと合った上田早夕里さん。本作『リリエンタールの末裔』でも、美しいSFと精緻なファンタジーの融合に、魅了されました。素晴らしい作家さんに出会ってしまったなぁ・・・と感慨にふけっております。他の作品も、もちろん〈読みたい本リスト〉に仲間入りです! 超絶文系人間のくせに(だからこそ?)、未知なるテクノロジーと人間の関わりを描くSFや、そういったものを含むファンタジーが大好きな私。どの物語も、鮮やかなテクノロジーの中にひとの情緒がにじむような世界が描かれ、そして登場人物たちの心が豊かに繰り広げられていて、読んでいて心地よかったです。 「リリエンタールの末裔」海面上昇が進んだ遠い未来、身体機能が進化した「鈎腕」を持つ少年が、〈空を飛びたい〉という夢のために懸命に生きる物語。「マグネフィオ」身体が不随になった友人の心の動きを磁力画像で描き出す機械を作成した。「ナイト・ブルーの記録」海洋無人探査機のパイロットが機械同調化症候群になり、深海で感じた感覚をいかに大事にして生きてきたか。「幻のクロノメーター」実在した航海用時計開発の経緯に、そっとファンタジーが滑り込む。 「マグネフィオ」の心の動きが描き出される様子が、とても美しく儚げで、読んでるだけで切なくなってきました。主人公は、友人のためではなく、ずっと心を寄せてきたその妻のためにその装置を作り上げ、報われることのないまま彼女と離れることになり、一時だけ意識を回復した友人にも「彼女を奪わないでくれ」と頼まれ・・・。友人の…

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『白昼夢の森の少女』/恒川光太郎 ◎

恒川光太郎さんさんがデビュー以来、あちこちで発表してきた短編作品を1冊にまとめた本書、『白昼夢の森の少女』 。幻想的なもの、SF的なもの、ホラー・怪談物・・・、それぞれジャンルが違いながら、恒川さんらしさが奥底にたゆたうような、美しい物語たちでした。 「古入道きたりて」戦地で聞いた、山中の不思議な現象の話。「焼け野原コンティニュー」生物だけが傷もなく倒れている世界で、記憶を失っては何度も蘇生する男。「白昼夢の森の少女」植物に侵食され、ひとつの森としてつながった人々。「銀の船」巨大な街を搭載した船で、老いずに永遠に生きられるとしたら。「海辺の別荘で」自分は椰子の実だと主張する女が、その半生を告白した。「オレンジボール」毬になってしまったぼくは、とある少女の部屋に5年間飾られた。「傀儡の路地」都市伝説が本当だったら。最後に主人公にだけかけられた呪い。「平成最後のおとしあな」こんなおとしあなは、嫌だ。「布団窟」子供の夢想かと思いきや、実録。「夕闇地蔵」命の光が見える者、大きな力に飲まれる。「あとがき」それぞれ、初出媒体も作風も違うので、著者コメントで解説。 どの物語も、寂しく、暖かく、別世界のようなのに、私達の世界のすぐ後ろにありそうな現実感。それぞれ違った世界であり、独立した物語であるけれど、静かな重低音がそっと奥底を流れているような印象を受けました。 一番好きなのは、「白昼夢の森の少女」。多感な中学生の時、突然植物に侵食され、森と一体化した彼女は、長い長い生を過ごす中で、様々な出来事に出会う。…

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『エクソダス症候群』/宮内悠介 ◎

人類の他惑星への移住が始まり、開拓地としてまだまだ不便な状態にある火星。とある事情で地球から故郷である火星の精神病院に転職した精神科医・カズキは、物資(薬や食品)も人手も足りない状況において病棟長を任されるが、病院内・市街地を問わず急激に集団発症するようになった『エクソダス症候群』の対処に追われることになる。宮内悠介さんの描く世界は、非常に魅力的で、サスペンスに満ちていて、惹き込まれました。 近未来のディストピアを描いた『ヨハネスブルグの天使たち』と同様に、とても面白かったです。私は精神医学については全くの門外漢なので、この作品のどこからどこまでが現実に即しているものなのかわからないし、精神病はAI診断と薬で制御できるようになった地球の精神医学の状況というものが、果たして可能かどうかも分かりませんが、宮内さんの描写の上手さで、するりとこの火星の精神病の状況に入り込むことが出来ました。 転職早々の病棟長任命、病棟間の権力争い、日和見主義の医院長、人手不足で疲弊しきっているスタッフたち、問題を起こす患者たちへの対応・・・、あらゆる困難を拙いながらも何とか乗り切っていたカズキだったが、ある日突然、病院内だけではなく市街地でも「ここではない何処かかへ逃亡したい」という妄想にかられる病状〈エクソダス症候群〉が集団発生。その患者たちを収容した病棟は「火星からの脱出」を要求する患者集団の立て籠もり組織と化し、医院長の命で交渉に行ったカズキは、裏で糸を引く〈ゾネンシュタイン最古の患者・チャーリー〉と対決する。…

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『本当の自由を手に入れる お金の大学』/両@リベ大学長 ◎

今年の初めぐらいから、ふとしたきっかけで見るようになったYouTubeチャンネル〈リベラルアーツ大学〉の両@リベ大学長さんが、初心者にもわかりやすく「お金について」を書き記してくれた本書、『本当の自由を手に入れる お金の大学』 。動画を見始めて、内容の判りやすさ・興味深さにすっかりはまって、毎日更新される動画だけじゃなく、過去動画も結構な数を視聴しましたね~。その沢山の動画の基本的なところを系統だてて1冊に仕上げたたこの本、とても読み易かったです! 〈自由に生きる人を増やしたい〉両学長と、お調子者で安易に流れがちだけど素直で一生懸命なリーマンくんの会話形式でQ&Aが進み、イラストや図解のいっぱいな両学長の説明で、どんどん「お金についての知識」が身につく本書。自由に生きるためには、お金が必要。お金にまつわる〈貯める・稼ぐ・増やす・守る・使う〉という5つの力を鍛えていくことで、「経済的自由への道」を進んでいけるようになるわけですよ。 私が事細かに内容を書くよりは、ササっと読んだ方が絶対に理解が早いと思います!なので、このレビューでは内容ではなく、読んで私が起こした行動についてのご報告・・・って感じで書かせていただきますね。 ①貯める力・保険の見直し。全額止めたいのだけど、夫をうまく説得できず減額で対応。・年金について、色々調べて試算。将来貰える額の少なさに愕然とする。・ふるさと納税を開始。・医療費控除の申請(確定申告)を予定。②稼ぐ力・フリマアプリで次男の大学受験に使った参考書をはじめと…

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『私に付け足されるもの』/長嶋有 △

う~~む。アラフォー世代の、様々な境遇・立場の女性たちの日常を描いた短編集。長嶋有さんは、初めて読む作家さん・・・だと思います。アンソロジーとかでも読んだことないんじゃないかな。残念ながら本作『私に付け足されるもの』 は、アラフィフ真っただ中の私には、あんまり響かなかったです。年代の問題ではない気がするけど。  たぶん、日常過ぎるんですよね。割と普通な日々を送ってる彼女たちが、ちょっとだけ違う状況に出会ったり、自分だけが何だか引っかかるような出来事があったり、というストーリーが続くのですよ。私自身が平々凡々な日常を過ごしてるもんですから、共感が湧くかと思いきや「いやもっとなんか、ドラマチックなことないんかい」というツッコミを入れてしまったんですねぇ。つくづく、〈物語性〉に飢えているんですね、ワタクシ(笑)。 そんな中で、気になった1編が「瀬名川蓮子に付け足されるもの」。午前中にいやなことがあって腹を立てていたから、足の形を計測して選ぶランニングシューズ(高額)を買い、翌日から近所の公園を走り始めた蓮子。シューズから始まって、ウェア、マフラータオル、サングラスと装備を付け足しながら、だんだん走ることに慣れたある日、近所の人たちが集まって近所の公園から迷い出てしまった鴨の親子をどうにかしようというシーンに遭遇する。ちょっとその集まりに参加してから、途中退場して走りに行き、戻ってきたところで、その鴨の親子のかわいそうな結末を聞いてしまう。帰宅した蓮子は、「銀座のカフェで話し合って以来、帰宅しない夫」…

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