『落日』/湊かなえ ○

う~ん・・・。湊かなえさんらしい、といえば非常にらしい作品ですよねぇ。「映像脚本絡みのミステリー」という分類が・・・。港さんの得意分野を存分に生かした(映像脚本系なだけでなく、微妙な田舎具合の地方都市が舞台ってとこも)作品だなあと、感じましたね。ところでこの『落日』 って、新人脚本家・甲斐千尋と気鋭の映像監督・長谷部香のダブル主人公ってことになるのかしら。 大御所脚本家・大畠凛子の元で働く甲斐千尋。彼女のもとに、国際映画祭で受賞したほどの気鋭の映画監督・長谷部香から「新作の脚本について相談したい」というメールが入る。訝しみながらもその打ち合わせに行った千尋に、長谷部は「あなたの故郷の笹塚町で起きた一家殺害事件」についての映画を作りたいのだ、と申し出る。何故長谷部が、犯人も逮捕され刑も確定済みなその事件を調べようとしているのか、千尋の家族内の問題の微妙さ、だんだんに不穏化してくる事件関係者とそれぞれの後悔。長谷部の悔恨。そして、明らかになる関係性と、推察されプロット化される物語。最後に長谷部に差し出された、過去の真実。 うん、きちんと書こうとすると長くなるので、あらすじは止めておきます。非常に、映像が見える物語ですねぇ、湊さんらしいなぁ。これ、映画化される予定ありそうだなぁ。 姉に対して、要所要所でメールを送ってる千尋、というのが最初からもうビクビクものだったんですよね。千尋が姉に対して非常に負い目を感じてるっぽくて。もしかして、原因が千尋にあって、それで?と思ったら、そうじゃなかったのは逆に…

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『でえれえ、やっちもねえ』/岩井志麻子 ○

岩井志麻子さんの『ぼっけえ、きょうてえ』を読んで、岡山弁が〈土着の恐怖〉トリガーになるというトラウマを私が負ったのは、このブログを始める前(10数年前)のことでした。本作『でえれえ、やっちもねえ』 も、岡山弁がじっとり絡みついてくる、人間の恐ろしさが描かれていたように思います。 「穴堀酒」ずっと手紙を送ってくる女、最後に一通だけ、返信が・・・。「でえれえ、やっちもねえ」異形の子が生まれ、コレラが流行する。「大彗星愈々接近」失踪していた女が57年経って帰ってきた。そしてハレー彗星が大接近する。「カユ・アピアピ」自分は、この蒸し暑い国で何をしているのだろう。 実を言うと、どの物語も「ホラー的な恐怖」はなかったように思う。ただ、〈土着の恐怖〉たる〈旧弊な地方の閉塞感からくる、じっとりとした恐ろしさ〉が絡みついてくる感じがして、ゾワゾワしました。「振り返ってはいけない・・・」系ですね~。多分、振り返ったら、そこにはポッカリと口を開けた暗い暗い穴があって、引力もないだろうにふっと吸い込まれてしまう、そんな感じがするのですよ。彼岸と此岸の境界は、そんなふうにあるんじゃないか、という気がしてしまったんですよねぇ。 「穴掘酒」の、ひたすらにネチネチと手紙を送ってくる女(現代的に言えばストーカーですよね~、妄想満載・・・)の脅迫に負けて、ついに男からの返信が一通だけあったのだけど、これはもう、あからさまに「女を片付ける気満々」ですよね・・・。女の手紙が全て正しい情報とすれば、この男はかなりの卑怯者。それを理解…

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『八咫烏シリーズ外伝 烏百花 ~白百合の章~』/阿部智里 ◎

たまたま同時に図書館の予約の順番が回ってきて受け取っていたのだけど、とりあえず本編である『追憶の烏』を先に読み、本書『八咫烏シリーズ外伝 烏百花 ~白百合の章~』 を後に読むことにしたんですよね。・・・この順番で読むことにしてよかった・・・!!私自身が、この順番で読むことにして、救われたと思います。阿部智里さんの〈八咫烏世界シリーズ〉の外伝2冊めの本書は、本編で進行する苦い思いを払拭はできないものの、和らげホッとできる短編集でした。 「かれのおとない」茂丸の妹・みよしから〈守る人の中に自分たちがいると思ってくれればいい〉と伝えられた雪哉。「ふゆのことら」私が大好きな(笑)市柳先輩の、やんちゃ時代。「ちはやのだんまり」目の不自由な妹・結が交際相手として連れてきた男に対して、だんまりな千早と代わりに対処する明瑠。「あきのあやぎぬ」西家の当主の正妻と側室たち。「おにびさく」西領の灯籠職人の矜持とそれを受け取った貴人。「なつのゆうばえ」大紫の御前の少女時代。「はるのとこやみ」東家の姫・浮雲の君を想ってしまった楽人の末路と、双子の兄の思い。「きんかんをにる」紫苑寺で暮らす姫宮を訪い、干し金柑を一緒に作る奈月彦。 どの物語もそれぞれに印象的でしたが、やはり「きんかんをにる」が、なんとも微笑ましくて、好きです。奈月彦と紫苑の宮が一緒に干し金柑を作っている姿にもほっこりしたんですけど、乱入してきて金柑を狙う浜木綿の気さくな感じが、この一家の温かさがとても伝わってきたのが、とても良かったです。ただ・・・、やっぱ…

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『追憶の烏』/阿部智里 ◎

阿部智里さんの〈八咫烏世界シリーズ〉第2部の2作目。山神のための荘園・山内を治める八咫烏たちの世界で、その世界の衰退が確定されながら、なんとかそれを緩やかなものにできぬか、願わくば回避できぬものかと苦闘を続ける、〈真の金烏〉・奈月彦とその側近・雪哉、またその周囲の人々。彼らの〈世界存続〉への崇高な戦いは、権謀術数渦巻く朝廷内の力関係に飲み込まれていく・・・。前作『楽園の烏』で〈真の金烏〉・奈月彦が登場しなかったわけ、そして最後の方では〈雪哉〉が〈雪斎〉になった過程が表面上はさらっと描かれています。最後の方では、もう切なくて切なくて、泣いてしまいました。どうして、こんな事になってしまったのだろう。タイトルの『追憶の烏』 とは、誰が何を追憶するのか。複数の意味を持つものだと思いました。 前皇后・紫雲の院の謀略により、未だ宮廷で暮らせていない皇后・浜木綿と姫宮・紫苑の宮。彼女たちが宮廷入りし、金鳥・奈月彦に新年の挨拶を奏上するという儀式から、物語は始まる。日嗣の御子がいない状態をとやかく言う朝廷内に対し、奈月彦やその兄・長束、またのその側近たちは「姫宮を女金鳥に」と考え、根回しを進めようとしていた。ところが、長束の母である紫雲の院は皇后の地位にあった頃から、生家・南家の当主をなんとしてでも黃烏(金烏の後見人)にするために、奈月彦を排そうとあくどい策略を繰り返してきており、その魔の手は常に姫宮近辺のみならず、奈月彦にまで及ぼうとしていた。紫雲の院は、奈月彦と同腹の妹宮・藤浪の宮の憧憬の念すら利用する。そ…

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『ししりばの家』/澤村伊智 ◎

夏のうちに読んでおきたかった・・・(笑)。図書館予約の順番が、予想以上に回ってこなくて、すっかり秋も深まった頃に手元に来たことを、ちょっと残念がりながら読み始めたのですが。・・・ああもう、なんでこう、澤村伊智さんって、理不尽系に怖いんだろうなぁ!!読んでると、どんどん心身が冷えてくる感じがするんですよ、ホントに。本作『ししりばの家』 、最後の1章なんて、上に羽織る物取りに行くのに中断しなくちゃいけなかったですよ!ああ・・・ホント怖ッ・・・!! 夫の転勤で上京し、仕事もやめ、友人もいない、することもなく孤独な日々を送っていた主婦・果歩は、幼馴染の敏と再会し、彼の家に招かれる。疲れ切った表情の妻、認知症が進んだ敏の祖母が暮らすその家には、サラサラと砂が降り積もっていたが、それに疑問を感じることがない敏は、何度も果歩を家に招く。小学生の頃、比嘉琴子とクラスメイトの家に行った五十嵐は、その家の亡くなったはずの妹を見てしまう。後日、その家は廃屋となり、他に2人を加えて探検しようとして、砂の降り積もる中で怪異に出会ってしまう。後に他の二人は死亡。犬の散歩以外に外出することができなくなり、毎日当時の光景を追憶しては、その家を監視することしかできなくなってしまった五十嵐。五十嵐のアタマの中では、いつも砂が降り積もる音がしている。ある日突然、比嘉琴子が五十嵐を訪れ、「あの家に憑いているのは『ししりば』で、自分になんとか実力もついてきたから、あれを祓ってくる」と宣言する。 果歩と五十嵐のパートが交互に語られ、その…

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