『千年図書館』/北山猛邦 ◎

以前、『人外境ロマンス』で、ほのぼのした[人と人外のロマンス]の数々を読んで、ほっこりした北山猛邦さん。本作『千年図書館』では、「ラストにどんでん返しがある」ことが裏表紙で先に暴露されてるにも関わらず、どんなどんでん返しかを想像しながら読む楽しみ、そして驚かされる楽しみがきちんと体験できる、良い短編集でした! 『人外境~』のとき、「北山さんは本格ミステリの人らしいけど、こういう作風の作品ほかにもあるなら読んでみたいな」と思ってたのですが、本作も本格ミステリではなく、ほのぼのとはまた違った、不穏さを孕みながらも爽やかさもある軽やかな物語展開が良かったです。 「千年図書館」のラストに出てきたマークに驚き。ていうか、図書館の地下にそんな物保管してたわけ?うわぁ・・・。多分、それのせいで文化文明がが衰退したという時代設定なんでしょうね。大きな図書館を作って、沢山の本を収納していたけれど、それのせいで利用するものも利用できる状況も失われた・・・と。さて、あの箱を開けてしまった村人たちは死滅してしまったけれど、汚染はそんなにすぐにはなくなるものじゃないはず。ペルとヴィサスはどうなってしまうのかしら・・・。 「今夜の月はしましま模様?」の知的音楽生命体・ラジーと佳月の軽妙な会話に乗せられ、このまま侵略されちゃうのもしょうがないかな~なんて思ってたら、新たな生命体の存在が?その生命体も、ずっと昔から地球に存在して人類と共存し、侵略の機会を伺ってた・・・そしてそれがこの物語で結実して?!さあて、私は侵略された…

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『盤上の夜』/宮内悠介 ◯

囲碁・チェッカー・麻雀・古代チェス・将棋・・・、これらの盤上遊戯それぞれを極めたプレイヤーたちの、極めたが故に見えてくる深淵な世界を描いた、短編集『盤上の夜』 。本作は宮内悠介さんの代表作だということで、以前から気になっていました。ただ、ちょっと、私には難しかった・・・。というのもワタクシ、こういった盤上遊戯が非常に苦手で、唯一なんとか遊べるゲームはオセロだけど、とんでもなく弱い・・・という(-_-;)。 そんなわけで、実はどのゲームの物語もルールが全くわからないまま読んでおりました(笑)。でも、物語のテーマはゲーム上の頭脳戦ではなく、プレイヤーたちがそのゲームを極めているが故の精神の拡がり、盤上の駒や牌その動きで互いに語り合う様子、凡人には見えないその広く深く高い領域での彼らを少しでも伝わるようにと描写することにあったのではないかと思ってます。 とは言え、やっぱり難しかったですけどね~。真に彼らの精神を理解できたかというと、彼らの立っているその場所にはたどり着けず、ニュアンスでなんとなく理解できたかな~という感じです。残念なことに。 5つの盤上遊戯について取材や調査を進めているジャーナリスト「わたし」を語り手に、プレイヤーたちの高みに至れない我々と同様の「わたし」の視点でそれぞれの物語が描かれ、最終章「原爆の局」で再び初章「盤上の夜」の取材対象者である灰原由宇に対象が帰ってくるという物語構造が、素晴らしかったです。語る「わたし」は、もちろんある程度のルールや戦法の知識があり、究極のプレイヤ…

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『これからの暮らし by ESSE vol.1(秋冬号)』/エッセ2021年12月増刊号 ◎

新聞の広告で見つけた本書『これからの暮らし by ESSE vol.1(秋冬号)』。サブタイトルが〈50代からのちょっといい毎日、ちょっといい未来〉である。そりゃ読まざるを得ないよね!ドンピシャフィフティーオーバーなワタクシとしては。ということで、早速入手して読み始めたわけでございます。 普段の私は物語読みで、雑誌ってほとんど読みません。昔(20~30年前)は『すてきな奥さん』とか読んで節約に励み(当時は難しかった)、読者モデルのキラキラした生活(でもちゃんと地に足がついている)を見ては自分のダサさに絶望したものでございます。そして、諦めたのですよ。こういう雑誌って、私みたいな凡人がまるっと真似するなんて出来ないんだ、ちょっとだけ取り入れられそうなものを、自分流に取り入れてくしかないんだって。てなわけで、そのうち、〈素敵な雑誌の素敵な暮らし〉からものの見事に外れていく自分の生活という乖離に目をつぶり、この手の雑誌は一切読まなくなりました。 そんな私が、この歳になってなぜこの『これからの暮らし by ESSE vol.1』を読もう!読まねば!という気になったのか。サブタイトルの〈50代からの〉に、50代からでも変わっていってもいいんだ、という小さな勇気をもらったことと、特集の「50代からは少ないもので心地よく暮らす」に共感したからですね~。下の子も大学入学したので、いずれは兄弟共に家から独立し(そういう取り決めをしてるので絶対パラサイトさせない(笑))、生活はどんどん小さくなっていくのに物は溜ま…

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『女の子のことばかり考えていたら、1年が経っていた。』/東山彰良 ◯

東山彰良さん、だいぶ前に『ラブコメの法則』を読んで「ラブコメっていうか、ヘタレな男性が美人親族に振り回される話だよねぇ(笑)」って苦笑してたのを思い出すのですが、今作『女の子のことばかり考えていたら、1年が経っていた』 も、なんともトホホな感じです。ていうか、タイトルがまんまネタバレってどうなの?それでいいの?(笑) 有象無象というネーミングどおりの、どこにでもいる平凡で女子にモテたくてちょっと情けない男子2人が、『女の子のことばかり考えていたら、1年が経っていた』という、ホントにそのまんまな物語(笑)。正確には、新歓ムード満載の4月から冬休み明けまでの期間、とにかくまあダブル主人公の有象くんと無象くんが、「女の子にモテたい、あわよくばムフフないい思いをしたい」とひたすらに思い続けてるんだけど。彼らはネーミングの通り有象無象(種々雑多なくだらない人や物)な〈モブ〉なので、女子達は彼らが目に入らないのである。たまさか、ちょっとだけ彼らに反応したとして、それは彼らが彼女らの踏切板として使える材料である時だけで、パ~ンと踏み切られたあとはあっさり捨て置かれてしまうのである。・・・うわぁ、切な~い。女子って、怖~い。でも有象くんも無象くんも、その立場から抜け出すための行動を取れないんだよね、意気地がなくて。ということで、致し方ないのである。 そんな残念すぎる彼らが出会うのは、ハンサムくんや温厚教授、ビッチちゃんに抜け目なっちゃんなど、名は体を表すネーミングで、潔いまでにキャラ立ちがはっきりしてる人たち…

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『続 わけあって絶滅しました。』/丸山貴史(監修:今泉忠明) ○

昨年『わけあって絶滅しました。』を読み、あまりにトホホな絶滅理由に膝から崩れ落ちたり、「人間のせいで、申し訳ない・・」という気持ちになったりしたのですが、本作『続 わけあって絶滅しました。』 でも、なんというかもうホント、思うところ多々ありすぎで情報量の多い読書となりました。なんとまあ地球という星には、幾種類もの生命が生まれ、進化し、絶滅し、生き伸びてきたことかと・・・感慨深くなりますなぁ。今回も、丸山貴史さんの軽快な文章で、スイスイと楽しく読めました! 前作同様、週刊誌の見出しみたいな絶滅理由がコラムタイトルとなり、そこからその生き物の「こうしてたら絶滅しちゃったんだよねぇ」という語りが入り、最後に「こうすりゃよかった」反省点を一言述べるという構成。それぞれの生き物の語り口が、軽やかで笑える。〈巨大化しすぎ〉にも、「食べるものがなくなった」「体が重くて逃げられなかった」「方向性を見失った」など、理由は多々。巨大化して最強生物になったとしても、過酷な環境変化(自分の身体・獲物・気候変動・外敵の登場など)に対応できなければ滅びちゃうわけで、なんとも切ないですなぁ。 そして、なんといってもやっぱり〈人間の登場〉は、ディープインパクトだったのよねぇ。他の生物を知能で圧倒し、道具を使い集団で策謀を巡らせながら狩猟をする。己の欲に忠実に、生態系バランスなどガン無視で狩り尽くす。または、どんどん自然環境を自分たちに有利に替えてしまって、そこで生物が生きられなくなる。・・・うん、申し訳ないと思うよ。とはいえ…

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『感応 グラン=ギニョル』/空木春宵 ◎

書評で見かけて、「これは私の好みどストライクそうだわ!」と思った本書、『感応 グラン=ギニョル』 。空木春宵さんというペンネームも雰囲気があって私好みだったりする~♪、ということでかなり期待を持って読み始めました。いやいや、その期待を全く裏切らない、妖しく美しい退廃的な世界を、十分に堪能させていただきました。5篇それぞれに、素晴らしかったです!! 「感応 グラン=ギニョル」「瑕(=欠損)」のある少女たちを集め、残酷劇を繰り広げるその劇団に、「瑕一つなく完璧な美貌」を持つものの、心が欠けている代わりに人の心を読み他者に映し出すという能力を持った少女・無花果が連れてこられたことから、物語は始まる。「地獄を縫い取る」児童性愛者を誘き寄せる罠であるAIを制作しているジェーン。彼女は同僚のクロエの本当の狙いを知っており、最も効果的なタイミングで彼女を地獄に叩き落とした。その合間に挟まれる「地獄太夫」の物語。真の地獄太夫となったAIは、これから数多の「地獄」を再生することだろう。「メタモルフォシスの龍」恋に破れると女は蛇に男は蛙に変容する、という病魔が広まった世界で、恋い焦がれながら対岸の隔離島へ渡れない半蛇たちが群れ集まる街で暮らすテルミとルイ。身体改造を繰り返すテルミ、半蛇状態の進行するルイ、ルイが生を失い、テルミの真実が明らかになる。そして、テルミは龍となる。「徒花物語」戦時下の女学校に集められたのは、ゾンビ化する病気を発症した娘たち。彼女たちの間で回覧される物語。学校で教えられる病状の進行とは違うそ…

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