『手のひらの楽園』/宮木あや子 ◎

最初の方は、主人公・友麻の天然ぶりというか〈島の子〉らしいあけっぴろげさと、それに対する周りや地の文のツッコミにケラケラ笑いながら読んでたんですよね~。さすが宮木あや子さん、期待を裏切らない楽しい物語展開。エステティシャンを目指して、職業専科の私立高校に奨学金を取って入学した友麻の1年間を描く『手のひらの楽園』 。ただ楽しくて笑えて、まっすぐに成長していくだけではない、悩みも周りとの微妙なズレと確執も丁寧に描かれた、とても素敵な物語でした。 学校の寮住まいをしている友麻は、エステティシャンを目指す、島育ちであけっぴろげな女の子。高校入学と同時に行方知れずになった母のこと、同室になった看護科のこづえとの関わり、島の大人たちに秘密にされていたこと・・・様々な経験を経て成長していく1年間が、濃密でそして悩み多くも爽やかでした。 3人称で進む話なのに、地の文でのツッコミが的を射ていて、笑いが止まらないシーンが多々有りましたね~。宮木さんらしいわぁ。地の文のツッコミは、読者である私のツッコミもあれば、私が全然気づかなかったこともあったりと、この年代の女の子たちってこんな感じなんだ~と、知らない世界を覗く部分もあり、楽しかったです。 動物園のふれあいコーナーに行けば小学生幼児を差し置いて全ての小動物の人気を掻っ攫ってしまうほどの〈動物好かれオーラ〉があったり、家に鍵をかけない島育ちで人との距離が近すぎたり、母子家庭の母を癒やしたいからエステティシャンを目指していたり、英語なんかの座学は苦手だけど実技にな…

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『初恋さがし』/真梨幸子 ◯

真梨幸子さんだから、警戒心満載で読み始める。なんつっても、イヤミスの女王ですからね~(笑)。帯からして【初恋はイヤミスによく似合う】なんて煽ってくるから、タイトル『初恋さがし』からほんのり浮かんでくるはずの甘酸っぱさなんて、期待しちゃダメダメ(笑)。ということで、読ませていただきました。うん、初恋はココロの中に安置させておくのが良さそうですよ・・・ははは。 「ミツコ調査事務所」という興信所が、舞台の中心。調査員は女性ばかりで、「初恋の人をさがします」をウリにしてるその興信所の所長・山之内光子がメインの語り手。次々現れる依頼者は、なんだか挙動が怪しかったり、やたら結果を急いでいたり、妙な一言をつぶやいたり。それでもサクサクと調査をし、結果を報告し、一件落着・・・かと思いきや。 私が警戒してた通りの、依頼人・調査対象・関係者などの死体量産状態に。「やっぱりな~、この興信所大丈夫なのか?ヤバい案件多すぎでしょうよ・・・」と思ってたら、あっさり所長が容疑者になった上、取調べ中の自殺・・・ってビックリ。作品残り3分の1ぐらいあるけど、どうなっちゃうの?と余計な心配をしてしまいましたよ。 その後を引き継ぐ語り手たちも、クセありすぎ。そして、死体量産状態は、やっぱり続くのですよ。トリカブトの粉末(簡単に手に入るものなの?)とか、脂質&糖質過多(脳疾患とか心疾患狙い)とか、手口が巧妙というか迂遠というか。ていうか、そんなにお手軽に「始末」しちゃっていいのかしら・・・。 実は依頼人だけじゃなく、事務所の調査…

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『ののはな通信』/三浦しをん ◯

いやぁ、ひっさしぶりに三浦しをんさんの【ただならぬ物語】を読んでしまいましたな~。うん、コレは、ただならぬとしか言いようがないですよねぇ。『ののはな通信』 というほのぼのしているタイトルからは想像もつかない、鋭く深い繋がりが〈ただならぬ〉往復書簡集。 ミッション系お嬢様女子高で出会った、ののとはな。ただの「なかよし」から、勇気を振り絞って告白をしたのの、受け入れたはな。歓喜の嵐に揉まれ、互いが互いを強く求め合い、恋情をつのらせ、嫉妬に狂い、別離をもってなお生涯を通しての運命の人であり続けたふたり。なんというか、非常に心苦しかったです。こんなにも、全てを求め、捧げ、焦がれ、心の全部を持っていかれてしまうような関係は、私にはなかったし、たぶんこれからもないから。そして、欲していないから。自分には全くないもので、真の理解はできなくて、ずっと心の中がざわざわしていました。 女子校時代の、お互いしか見えないぐらいの熱情。裏切りが許せなくて、激しく愛しているにも関わらず別離を迎えるしかなく、それでも表面上は友達でいつづけた残りの高校時代。互いに別の人を愛しそれが幸せであったけれども、互いが自分ではない相手を愛してることにひっそりと傷ついていた大学時代。20年の時を経て、アフリカのゾンダという国で大使夫人になったはなと独立ライターとして東京に住むののの間で再会する、メール交換。ゾンダ内戦で再び、彼女たちの往復書簡は途切れる。それでも、ののはいつか届けばいいと、手紙をしたため続ける。 なんというか、ふたりが…

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『書店ガール 7 ~旅立ち~』/碧野圭 ◯

碧野圭さんの〈書店ガール〉シリーズ7作品目にして、完結編です。シリーズ当初から、書店でのお仕事について色々知って〈本屋さんの魅力を再確認した!〉とか〈リアル本屋さんで本を買おう〉とか、本当に色々な思いを持ってこのシリーズを読んできました。最終巻ということで、ちょっと残念な気もします。愛奈・彩加・理子・亜紀、4人それぞれの〈本と本屋が好きだ〉という気持ちがひしひしと伝わってくる本作『書店ガール 7 ~旅立ち~』 、確かに旅立ちにふさわしい物語でした。 私立中学の図書館司書となり、読書クラブの顧問として生徒たちの文化祭発表のビブリオバトルを手伝い支える愛奈。故郷に戻って、パン屋併設ブックカフェの開業準備中の彩加。東日本エリア・マネージャーとして、仙台店の進退に関わらざるを得ず苦境にある理子。子育てを続けながらも、本部職から吉祥寺店の店長へ異動となった亜紀。それぞれの〈本及び書店への愛と情熱〉が、本当に素晴らしかったです。 それだけに、理子の苦境は、ずっと胸が痛かったです。新興堂書店チェーンに吸収合併され、「櫂文堂書店」の名をなんとか残していた仙台店。売上はいいけれど、店の老朽化や会社として店舗面積を広げたいという意向で、駅前への移転が内々に決定し、「櫂文堂」の名前も削除する、それをできるだけスムーズに移行する調整役として、懸命に働く理子。趣のある店の佇まい、所在地や「櫂文堂」というブランドへの地域の人達の思い入れ、店舗の従業員たちの誇り。それも、わかる。ただ、新しければいい、便利であればいい、広さ…

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