『キリングクラブ』/石川智健 ◎

サイコパスたちの社交場である、『キリングクラブ』 。都心の地下に広大な空間を持ち、あちこちに多数の秘密の出入り口を持つそのクラブは、大儲け(キリング)の出来る成功したサイコパスたちが集う。運営元は不明、運営方法も目的も不明、所属する従業員、入会者(ゲスト)の数も不明、そんな謎だらけで壮大な組織で発生した殺人事件を追う物語。石川智健さんは、初めて読む作家さんです。サイコパスの物語ってちゃんと読んだことなかったので、なかなか興味深かったです。 そう、いろんな物語を読んできた私ですが、ここまで真正面からサイコパスを扱った物語を読むのは、初めてだと思います(『羊たちの沈黙』は読んだことがありますが、あれは主人公は常人だったし)。サイコパスとは〈他人の感情に共感できず、自分にとって一番合理的な手段を取る〉とか〈超越した能力を持つがゆえにそれを発散させるために暴力に走るか、支配にする側に回るかの2種に分かれる〉とか、色々と定義されていましたが、まあなんというか・・・凡人かつ小市民の私にはその区別はわかるけど、その心情には理解が追いつかないというかなんと言うか。とは言いつつ、なんとなく(私にもサイコパスの片鱗はあるのかも・・?)なんて、疑わしく思ってしまう面も・・・。いや、でもこれは多分、私の中に残ってる〈特別になりたい〉欲が掻き立てられて、そう感じるだけなんだろうなぁ(笑)。うん、やっぱり私は凡人ですわ。 フリージャーナリストの藍子は、知人に誘われて〈キリングクラブ〉の給仕を始める。藍子は、関わりのあった…

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『世界はハッピーエンドでできている(6)』/下西屋 ◎(コミックス)

〈世界はハッピーエンドでできている〉シリーズの最終巻。実を言えば、この『世界はハッピーエンドでできている(6)』 を入手してからすでに2年以上経っています。このシリーズが好きで好きでたまらなくて、終わるのがもったいなくて(アプリ連載中にすでに読了してるにも関わらず・・・)、ずっと手を付けられずにいました。でも、年度が変わるという節目に、「やっぱり読もう!読んで、良いと感じたら何度だって読み返せばいいんだもの!そのための紙媒体じゃないの!」と思い直して、読むことにしました。正直、読み終えてしまったことは、ちょっと寂しいです。でも、読み終えたことは、一切後悔してません。やっぱり読めてよかった、下西屋さんありがとうございます。素晴らしい作品を読めて、私は本当に幸せです!!と声を大にして叫びたいです。 このシリーズは、すべての登場人物(動物・モノなど人外も含む)が真摯に生きていくことで自らはもちろん周りの存在も幸せになる物語が丁寧に描かれているのですが、第6巻である本作は、今までの物語の伏線を回収し一つ世界のの歴史として齟齬なくまとめ上げられていくという、下西屋さんの卓越した構成力が輝く、素晴らしい作品でした!![!]マークをいくつ重ねても、この感激は表現できないです・・・ホントに。 どの物語も、本当に大好きなんです。一つ一つ取り上げて、ウェブリブログの1記事最大文字制限数を超えるぐらい、熱く語りたい(笑)。まあ、それに需要がないことは重々承知なので、やりませんが(いや、短く書いても需要はないと思うよ…

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『彼岸花が咲く島』/李琴峰 ◎

久しぶりに、芥川賞受賞作(しかも新しい(2021年)作品)を読みました。芥川賞作品って純文学なので、ちょっと苦手意識があったのですが、この『彼岸花が咲く島』 はとても読みやすかったです。著者李琴峰さんは、台湾生まれの日中翻訳者でもあるそうですが、小説もたくさん書いてるそうです。お名前は時々見かけたことがあったような気がしますが、私は今まで読んだことのない作家さんですね。設定が面白く、展開も丁寧かつ順調で、スイスイ読めました。 我々読者の知る日本語とは違う〈ニホン語〉と、女性にだけ密かに受け継がれる〈女語〉が使われる南国の離島。そこに流れ着いた少女・宇美には記憶がなかった。宇美と宇美を助けた少女・游娜(ヨナ)、そして同じく島の少年・拓慈(タツ)。島の歴史を担うのは、ノロと呼ばれる〈女語〉に精通した女性たちのみ。男には〈女語〉や島の歴史を教えることは禁じられている。でも、自分たちが何であるかを知りたい拓慈は、密かに〈女語〉を習得しようとしている・・・。 宇美が島に辿り着く前に使っていた言語〈ひのもとことば〉。なぜ島の歴史は、ノロだけに受け継がれるのか。年に一度、様々な恩恵物をもたらす〈ニライカナイ〉とは。島が他者との交流を拒んでいる理由、秘められた歴史、そして3人の若者たちの成長と苦悩と決断。解決はもたらされていないけれど、未来はまだ希望が持てそうなラストが清々しく、とてもよかったです。 ノロになった宇美と游奈に大ノロが語る、歴史の真実が、非常に重かったです。〈ひのもとぐに〉に蔓延した流行り病。…

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『ヒトコブラクダ層ぜっと』(上)・(下)/万城目学 ◎

相変わらず、やってくれますなぁ!万城目学さん!!結構分厚い上下巻、上巻は読み勧めるのにはちょっと時間がかかったのですが、下巻は「これ、どうなっちゃうのよ!!」と居う怒涛の展開で、本当にとんでもない勢いで読み終えちゃいましたよ。しかしまあ、タイトルが、謎。『ヒトコブラクダ層ぜっと』 って、なんなのさ(笑)。とんでもなく壮大なアドベンチャー小説だという情報だけは耳に入ってしまってたのですが、それ以外の情報をシャットアウトしたまま読み始めました。 子供の頃、家に隕石が衝突し両親を失った三子の兄弟、梵天・梵地・梵人。実は彼らには、3秒間だけ透視することができる、どんな言語でも聞き取れどうも3秒先までその言語を理解している、3秒後に自分に起こることが見える、という特殊能力があった。そして、高校進学をせず建設会社で働いて兄弟3人の暮らしを支えた梵天には、〈恐竜の化石を発見したい〉という願望が、密かに埋もれていた。それを最大限に刺激され、大規模な貴金属泥棒に加担してしまった彼らのもとへ、〈ライオンを連れた異様な女〉が現れ、自分に力を貸せと言いだす。そこから、あれよあれよという間に自衛隊入隊・イラク派遣・現地での拉致誘拐事件・・・と壮大な冒険活劇に飲み込まれていく。果たして、ライオン女の要求を満たして、彼らは帰還することができるのか?!彼らが目にした都市遺構の真実とは?!そして、なぜ彼らだったのか、彼らの本当の望みは叶えられるのか? いやぁ、面白かったですわ。ホントに。世界史の知識が弱いので、〈メソポタミア文…

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