『怪談のテープ起こし』/三津田信三 ◯

はぁ・・・、読んじゃったよ。読み終えちゃったよ・・・。フィクションなのは、わかってる。わかってるけど!!三津田信三さんの実録風ホラー短編集、何が怖いって〈フィクションなのはわかってるのに、なにか自分に障りがあるんじゃないかという気がしてくる〉ことが怖いんですよ!!『怪談のテープ起こし』、何度もホラー短編小説の合間に挟まれる〈念押し〉にビビらされました。小心者の水無月・Rでございます。 三津田信三さんのこういう実録風ホラー短編集と言えば、『どこの家にも怖いものはいる』とか『わざと忌み家を建てて棲む』とかありましたけど、また新たな方向性が出てきましたね~。 ホラー短編の雑誌連載のため、集めていた怪談の取材テープだったり自殺者の遺言テープだったりを、担当編集者・時任女史が書き起こしてくれたのだけど、だんだん時任女史の身辺におかしなことが起こり始める。その危機を察知した三津田さんが、時任女史に「もうテープ起こしはしてはいけない」と注意するも、女史はなんだかんだと理由をつけて書き起こしをしては、三津田さんにその原稿を送ってくるのであった。その原稿を参考に6つの連載短編を書き上げ、それらを1冊にまとめようということになり、それらの短編に加えて時任女史に起こった怪異やそれについての三津田さんの意見を加えるという構成が決まり、校正も終了する。そして、最後の最後に、怪異のテープがこつ然と現れ、時任女史は体調を崩し、三津田さんはそのことを終章に書き加え、物語は幕を閉じる。~読者の皆さんが〈水〉にかかわる薄気味の悪…

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『つかず離れず婚 ~定年世代の新しい生き方~』/和田秀樹 ◯

タイトルだけ見ると、不穏な感じがしなくもないんですが、どちらかというと事を荒立てずになんとか上手いこと老後を過ごす方法について、色々書いてあるなぁと思いました。著者・和田秀樹さんは、自ら高齢者専門の精神科医を称してらっしゃるお医者さんです。私は本書『つかず離れず婚 ~定年世代の新しい生き方~』でいうところの〈つかず離れず〉の大事さ、とっても身に沁みました(笑)。いや、我が家の夫はまだ定年まで10年以上あるんですけどね、ずーっと二人で家の中で顔を突き合わせて生活していく・・・と思うと、息が詰まるなぁ!と思うんですよ(笑)。 まず「はじめに」で〈この本は「定年後の夫と、死ぬまで仲良くやっていくための指南書」ではありません。〉と書かれているのが、非常に気持を楽にしてくれましたねぇ(笑)。かと言って〈即離婚して自由になろう!〉という話でもないところがミソ。私も、そこまでは思っちゃいません(笑)。 ほどほどの距離をあけて、束縛や依存で苦しまないように、それぞれ自立して過ごす豊かな老後、それを手に入れるためにはどうしたら良いか、というのが本書の内容。実際、ホントそれ大事ですわ。定年後、ずっと家にいる夫、そのくせ家事はしない、こちらの行動には口を出してくる、だけどこちらから言い返すのが面倒で黙って従ってしまう・・・わかるわかる、今だってそれに近い状態なのに、ホント勘弁してほしいわぁ、って思っちゃう。 なので、スラスラと読みやすい内容ながら、読み流さずに把握しなくちゃいけないポイントが有ったと思います。まず…

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『恐怖小説 キリカ』/澤村伊智 ◎

とりあえず夏になったしホラーでも読むかな~、となるとやっぱり澤村伊智さんだよねぇ、でも『ぜんしゅの跫』は予約の順番がまだ回ってこないんだよなぁ、じゃあ比嘉姉妹シリーズ以外でどうかな?ということで、本書、『恐怖小説 キリカ』を選んだのだけど。あばばばば・・・、これはアカンやつやん。絶対、アカンやつやん。色んな意味で、ホラーでした(笑)。 とりあえず、読み終えて、「これ、ネットにレビュー上げて大丈夫なんだろうか」と思ってしまった私を、思い切り笑ってやって下さいまし。いや、フィクションなのは分かってますよ?でも、でもですね。新人作家・澤村伊智が『ぼぎわん』でホラー大賞取って、次作が『ずうのめの人形』で、3作目は別の出版社から『恐怖小説 キリカ』って、まんまじゃないですか。こういう行動原理で、殺人を犯す人間がいるかもしれないという、恐怖。しかも「その後ー文庫版あとがきにかえて」まで、気が抜けないんですよ。この小説を間違った解釈をして行動する者まで出てきて、もしかするとそれは私が書いてるレビューに過剰反応するかも知れない・・・とかね、思っちゃうわけですよ。いや、そんなわけないですけど。 ある意味、「小説家のイメージを利用して、フェイクドキュメンタリーを書いてはどうかという講談社の提案」という設定、すごいですよね。そして、その展開を小説化したものを、この世に出してしまった講談社、恐るべし。ですよねぇ。ホントに〈リアル澤村さん〉は、講談社にそう言われたのかしら。その発想をここまで膨らませてひねりを利かせて描…

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『吾輩も猫である』/赤川次郎 ほか(アンソロジー)◯

夏目漱石没後100年&生誕150年を記念して編纂された、猫好き作家による〈猫アンソロジー〉、『吾輩も猫である』。どの〈猫〉も、愛らしく懸命に生きている姿が、とてもほほえましかったですねぇ。どちらかというと猫派なワタクシ、どの物語も「うふふふ・・・」とニヤケ顔で読んでおりましたよ。 「いつか、猫になった日」赤川次郎何故か猫になった私の死因は心中?「妾は、猫で御座います」新井素子天然作家の陽子さんが飼っている猫は、人を守っている。「ココアとスミレ」石田衣良猫が集会ですることは。「吾輩は猫であるけれど」荻原浩猫の四コマ漫画。猫って自由。「惻隠」恩田陸とある機械と語る猫の尻尾の数は?「飛梅」原田マハ公家猫の若様、京を下って筑紫に来た経緯。「猫の神様」村山由佳主を思う猫、背中を押す。「彼女との、最初の1年」山内マリコ芸大生の女の子と暮らし始めた野良猫。 どの猫も、それぞれその猫らしく小生意気ながらも健気に主を思っているのが、本当に微笑ましくて、良かったです。特に「飛梅」の若様。かなりの苦難の生い立ちから、御所脇の和歌の先生のところで保護され、病がちで弱ってるところを福岡で「猫本専門」のネット本屋を営んでいる店主に引き取られるまでの経緯を描いたお話なんだけど。弱っている若君を先生を始めとした女性たちが一生懸命に「乳母」として看病し、こんな病弱ではとてもではないけれど福岡まで連れ帰っても・・・と店主に伝えたのに対し、「私は若君を幸せにしたい、すべての猫は幸せになるために生きている」と応えた店主。それを聞いて…

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「縄紋』/真梨幸子 ◯

真梨幸子さんと言えば、イヤミスの女王。本作、『縄紋』は、イヤミスと言うほどではないにしても、ちょっとエグい描写もあったし、やっぱり最後に「マジかよ!!」と叫んでしまうような展開があったりして、なかなかに楽しめました。特に後半。ちょっと前半は、「縄文時代」の認識が甘かった私がついて行けなくて、大変でしたが(笑)。 フリー校正者の興梠は、自費出版の『縄紋黙示録』の原稿の校正を依頼され取り組み始めるが、「縄文」ではなく「縄紋」であるところから引っかかったり、古代史への知識が少ないため苦労する。歴史学に詳しい元同僚・一場を呼び出し、レクチャーしてもらうはずが、なし崩しに同居する羽目に。調べれば調べるほど、縄紋(文)文化の文化水準の高さや異様さが浮き彫りになり、また現代との関連性もかなりあると分かってきて、『縄紋黙示録』の内容や雰囲気に引きずられるようになる興梠と一場。実は『縄紋黙示録』を著したのは、夫と娘を猟奇的に殺し拘置所に収容されている容疑者・五十部靖子。この本を出すことで「精神に異常があるため責任能力がない」と判断されることを期待しているのでは・・・?と思われている。五十部の弁護士の小池、編集者の牛来、その前任者の望月なども、『縄紋黙示録』の異様な吸引力に引き込まれ、常軌を逸していく。 と、あらすじを書こうとして、書ききれないな~難しすぎるわ~と、途中で断念しました。まず、冒頭にも書きましたが私が認識してた縄文時代って、それこそ作中でも一場たちが言ってたけど「縄文時代とは歴史の授業の最初の1時間…

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『レジェンドアニメ!』/辻村深月 ◎

本作『レジェンドアニメ!』、『ハケンアニメ!』の続編と勝手に思いこんでましたが、スピンオフ短編集でした。プロデューサーの香屋子、監督の瞳、原画師の和奈の3人を中心に、アニメ業界の仕事の厳しさややりがい、関係する人たちの作品への思い入れ、視聴者にも届く情熱、関わる全ての人達の『愛』が伝わる、とても勢いがあって、楽しく読める作品でした。辻村深月さん、今回も色々詳しく描いてくださって、ありがとうございます! 本当に、それぞれがそれぞれの全精力を担当作品につぎ込み、とにかく「良いものにしたい、届けたい」と作り上げる作品が素晴らしい。作中のアニメ、魅力的で、どれも見たいですもん。作中作の魅力ももちろんだし、登場する人たちがみんな、人間的にクセがあってメンドクサイ人たちだけど、とにかく情熱がすごい。 各編で時代は結構異なるんだけど、王子の新人時代のトンガリ具合や、未だに香屋子に対してはヘタレなところとか(ていうか、ホント香屋子はニブすぎる・・・)、瞳の淡々と努力を惜しまないところ、和奈のこだわりや逡巡、それぞれのキャラをより掘り下げて描かれた感じが、とても面白かったですね。 「ハケンじゃないアニメ」が良かったです。ご長寿子供向けアニメでも手を抜くことなく、「より良いものを求めて」新たなOP動画のために奔走する制作会社スタッフ、依頼されて「作品を見てなかったので思い入れはない」と言いながらも様々な資料を集めて最高なものを作り上げようと努力する瞳、老齢になって原画を描くのが辛くなっても必要を説かれたら全身全…

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『透明な夜の香り』/千早茜 ◯

千早茜さんの描く、体温が低そうで儚い感じがする男性って、一瞬好きになりそうなんだけど多分私とは合わないんだろうなぁ、と思います(笑)。本作『透明な夜の香り』の調香師の朔も、絶対に一緒にはいられないタイプですね。まずは、向こうから拒否されそうですが。 とある理由でアパートに引き籠もっていた一香は、どんな香りでも再現出来る調香師の朔の元で、家政婦兼事務員として働き始める。あらゆる香りを嗅ぎ分け、家の外にいる人の体調すら分かってしまう朔は、一香に化粧水やボディクリームなど自作したものを無償支給し、日々の生活にも強い香りのもとになるようなことを避けるようにいう。朔の顧客たちは、特別な香りを依頼していく。それがどんな欲望であったとしても、〈嘘〉がなければ調合して渡す。それを使用するのは、顧客の自由だと言って。 静かに、ひっそりと漂う香りと、香りを中心とした穏やかな日々、ゆっくりと丁寧に過ごす朔の屋敷での日々は、一香の心身を少しずつ癒やしていったのかもしれません。朔の穏やかさはもちろん、新規顧客を連れてくる朔の親友・新城や屋敷の庭師・源さんとのやり取りの生命感溢れる感じ、時折遭遇する顧客とのトラブルもまた、一香の輪郭をはっきりさせてきたように思います。 香りを嗅ぎ分け、なんでも分かってしまう朔は、それはそれで辛いのだろうなと思います。〈嘘は臭う〉と嘘を嫌う理由も、つらい過去につながるものであったし、ニュートラルな香りの一香にやや依存するような面もあったのではないでしょうか。なので、終盤に一香にとある香り…

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