『新 謎解きはディナーのあとで』/東川篤哉 ◯

さあ、令嬢刑事と毒舌執事コンビが帰ってきましたよ~!ってことで、本書『新 謎解きはディナーのあとで』なんですが、何が『新』なのか、よくわかりませんでした・・・。新キャラの若宮愛里刑事が加わったことと、風祭警部が本庁から(クビになって)帰って来きたこと・・・かな?主人公・宝生麗子と執事・影山のやり取りは、まあ定番化したお約束ですね~。ある意味、安心感がある(笑)。東川篤哉さん、サクサク読めてニヤニヤ笑えるライトなミステリ、楽しませていただきましたよ! サクサク・ニヤニヤと書きましたが、主人公の麗子は国立署の刑事、難航する殺人事件の捜査をしているので、笑っちゃう~というのは不謹慎なのかもしれないんですけどね。まあ、なんというか、毎度のことながら「猫に小判、お嬢様の耳に念仏でございますね」「顔を洗って、出直していらしてはいかがでしょうか」など、影山の毒舌に対して「なんですってぇ!」と叫び散らす、お約束の安定感。実際にこんなに慇懃無礼で毒舌な執事がいたら、雇う側もそりゃ大変でしょうよ(笑)。麗子のガーッと言い返すキャラだからこそ、成立する関係ですが、良家の子女がこれでいいのかは、かなり疑問が残りますね(笑)。 5つの殺人事件が発生し、風祭警部が迷推理をぶちかまし、麗子と愛里は呆れつつも逆らえず、事件は難航。悩む麗子が、〈ディナーのあとで〉影山に事件の経緯を話して聞かせると、影山はあっさりと事件の絡まった糸を解きほぐし、解決をしてみせる。もう、ど定番の展開でミステリーとしても軽めなので、いくつかの事件は…

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『機巧のイヴ ~帝都浪漫篇~』/乾緑郎 ◎

『機巧のイヴ』、『機巧のイヴ ~新世界覚醒篇~』に続く、〈機巧のイヴ〉シリーズ第3作目、『機巧のイヴ ~帝都浪漫篇~』。面白かったですわ~。グイグイとその世界に惹き込まれました。乾緑郎さんの描く、スチームパンク風SFでありパラレルな発展を遂げた世界の物語、素晴らしかったです! 前作『新世界覚醒篇』から更に時を経て、大正時代に似た通天という年号の時代。機巧人形(オートマタ)の伊武は、矢絣に女袴という服装で女学校に通っている。親友のナオミは、前作のフェル女史の娘で、金髪碧眼の美少女である。ナオミはとあるきっかけで知り合った男・林田に心惹かれていく。林田は妻子ある無政府主義の活動家で女たらしではあったが、ナオミに対しては誠実な対応をしていた。やや過保護な母親・フェルに林田と会うことを反対されたナオミは、逆に家出をし、林田の母親のお夕の元に身を寄せ、ひと夏を過ごした。林田に連れられ天府に戻ったナオミは、大震災に遭い、一度は家に戻るものの、お夕の安否を心配する林田と共に再度お夕に会いに行き、怪我したお夕を人力車の車夫・重五郎に任せ、林田と共に徒歩で天府を目指す。しかし、二人は憲兵に捕らえられ、証拠隠滅のためナオミは首を折られて、命を失った・・・はずであった。 物語の舞台は、大陸の新国家・如州(満州?)の映画撮影所へ移動する。新人女優に身をやつした伊武は、今は映画製作所の理事長となった元憲兵・遊佐の身辺を探るうちに、遊佐に連れ出されてしまう。実は映画製作所の地下には、巨大な研究施設があり、そこではナオミの…

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『狗神』/坂東眞砂子 ◎

来た来た、坂東眞砂子さんの〈ザ・土着民俗学系ホラー〉ですよ~。山間の村で、じわじわと村人たちを追い詰め、狂気の行動を起こさせた『狗神』憑き。この物語は近代以前の話ではなく、〈平成〉に入っているという設定なのである。更に舞台は高知県とくれば、水無月・R大歓喜モード。・・・いい!非常にいい!!じわじわと浸透していく、不信感と悪夢と狂気。 狗神憑きといえば、同じく坂東眞砂子さんの『鬼神の狂乱』でも山間の村を駆け抜けた狂気が描かれましたが、なんせそれは江戸時代の話。こちらの物語は、初出平成8年当時の高知県のとある村での出来事を描いているから、主人公たち含め村人たちの生活は現代的(まあ2022年現在では、現代的とは言いかねるけど)でリアル。そのリアルに、民俗伝承である〈狗神〉が忍び寄り、人々を恐怖に引きずり込み、恐ろしい行動をさせてしまう。いやぁ、怖かったですね。〈狗神憑き〉そのものは、正直言って現実としては受け入れられないというか、物語だから信じて読めていました。物語の中でこそのリアル、だったような気がします。 私が少女時代に住んでいたのは、高知県と言ってもこのような山間ではなく高知市内でしたので、こんな人間関係が濃く狗神という非科学的なものが信じられているような世界は、未経験ではありますが。それでも、平成が終わって令和の時代になっても、もしかするとこのような狂乱が発生するかもしれない、それぐらい人間は弱く疑い深く、防衛のためには集団で狂気を爆発させるかもしれない、という感じがして、怖かったですねぇ。…

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『ユニコーン ~ジョルジュ・サンドの遺言~』/原田マハ ◯

女流作家・ジョルジュ・サンドが疫病を避けるため過ごした、ベリー地方のブサック城。その壁に掛かっていた「貴婦人と一角獣」という連作タピスリーは、彼女を魅了した。夢の中で、貴婦人はサンドに請い願う。「私をここから連れ出して」と。それを果たせなかったサンドの物語。この『ユニコーン ~ジョルジュ・サンドの遺言~』という物語は、そんな風に要約できてしまう、短い物語です。私が知っている原田マハさんの絵画にまつわる、複雑で因縁の深い物語とはちょっと一線を画しているような・・・。 だからといって、面白くなかったわけではないのですが、どうも終わり方が中途半端で。サンドがブサック城に滞在したのも、そこに「貴婦人と一角獣」シリーズがあったのも史実だし、そのシリーズが修復されてクリュニー中世美術館に所蔵されていることも事実。その史実や事実をどのように膨らませて物語にするか、ということが物語の面白さになると思うのですが・・・。 この物語の主人公をサンドにしてしまったがゆえに、何故タピスリーが「ここから連れ出して」と言ったのか(このまま城で朽ちるのを避けたかったのでしょうけれど)、ブサック城が人手に渡ったあとどういう変遷を辿ったのか、ということが描かれなかったのが、残念でした。サンドに幻想(夢)を見せてしまうぐらい魅力的なタピスリーを、美術館館長のソムラールがどのようにして手に入れ、修復し、その過程で彼もきっと見たであろう幻想(夢)がどんなものだったのか・・・なんて物語があったら良かったのにな、と思ったのでした。 この…

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『タイタン』/野崎まど ◎

おお!すごく面白かった!!巨大なAI・タイタンが世界の調整を取り、人間の世話をしているという世界観。なんでもタイタンがやってくれるため、人間は〈仕事〉をせず〈自由〉を謳歌することになった時代。そんな世界で、人間ではなく『タイタン』の〈仕事〉に焦点を当てた物語、とても面白かったです!野崎まどさんは初めて読む作家さんですが、こういう作風、好きですねぇ。 水無月・R、超絶文系人間のくせに、ロボットやAIとかそういう物語が大好きです。大好きですが、サイエンスな理論とかは、全然理解できてません(笑)。そんな私でも、とても楽しめたんですから、非常におすすめな作品です!! 人間に奉仕し、人間のために発展し続けるAI、タイタン。世界に12基あるその中の一つ、北海道弟子屈に拠点がある通称・コイオスが、機能不全を起こし始めたことにより、心理学を趣味としている内匠成果に〈コイオスのカウンセリング〉が依頼される。それは〈趣味〉ではなく〈仕事〉。管理者・ナレイン、エンジニア・雷、AI研究者・ベックマンとともに、まずはコイオスの〈人格形成〉から始め、なんとか人型を形成することができたコイオスとの対話を始めた内匠は、カウンセリングを進める。 と、導入部分だけあらすじを追ってみたんですが、かなり長くなりそうなので、もうやめます(笑)。まずAIをカウンセリングする、という設定が面白い。人類のために発展し続けるAIだけれど、その不調を対処するためにタイタンの意識?に人型(人間サイズ)をとらせ、人と会話するようにし、人的な思考回…

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『レスキューナースが教える 新型コロナ×防災マニュアル』/辻直美 ◯

今年の4月に『レスキューナースが教える プチプラ防災』を読みました。そして、今度は『レスキューナースが教える 新型コロナ×防災マニュアル』の番です。〈コロナ禍で災害が起きても生き抜く!〉なんて書いてあって、なんとも物々しいんですが、内容はもうちょっとソフト。国際災害レスキューナースである辻直美さんの、コロナ徹底対策と災害時のWithコロナ対応策、しっかり読ませていただきました。 この本が出版されたのは2020年11月。当時と今では、コロナに対する世の中の受け取り方が大分変わってきたこともあり、この本の対応策が絶対かというと、そうではないですが。それでもやっぱり、〈感染症対策〉の基本は大事ですよね。 医療従事者である辻さんのコロナ対策は、一般家庭ではちょっと厳しすぎるかな・・・という気もしますね。やった方が良いんだろうけど、さすがに全部は出来ない。特に消毒徹底は、なかなか難しいですよねぇ。とはいえ、手洗いやうがいの基本はちょっと手抜きになってたな、と反省。これはしっかりやって、身に付け直していくことにします。 それとコロナ対策の章の一番最後に「コロナ時代は`オモロク`生きよう」とあり、メンタルも大事だよなぁと、思いました。〈コロナで外出を我慢してる〉と思うか〈外出できないんじゃなくて、外出しないで自分や家族を守ってる〉と思うか、どちらがメンタルに良いかって、そりゃ前向きな方。メンタル弱ると、免疫力も下がりますしね~。そして〈多少太っても気にしないおおらかさが、今は必要〉だそうです(笑)。わぁい…

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