『ぜんしゅの跫』/澤村伊智 ◎

ホラーを読むなら、夏だよね!と思って早めに図書館に予約を入れたというのに、やっと順番が回って来たのは9月も終わりかけて涼しくなった頃・・・と思ってたら、急にまた暑くなるとか、何かの呪いですか?それとも?つまりは、背筋を冷やしながら心して読めってことですか、澤村伊智さん・・・!!〈比嘉姉妹〉シリーズの第2短編集である、本書『ぜんしゅの跫』の恐ろしさ、充分に堪能いたしましたともさ!! 1編目の「鏡」からして、よろしくない気配満載。なんせ「妊娠中で具合が悪い妻に対して、簡単に「朝メシ頼むわ」と言い放てる男」が語り手なのである。うわぁ、何この男、感じ悪~い。妻が用意してくれた礼服にちょっとホコリがついてるからって毒づくとか、・・・いい大人が自分でやれよ!とイライラしながら読み進めると、男の名前は「田原秀樹」だという。・・・ん?田原?秀樹?なんか引っかかるなと、過去のレビューを漁ると、出て来ちゃったよ、『ぼぎわんが、来る』のイクメン気取り野郎じゃないですか。うわぁ、子供生まれる前から、こんなに感じ悪い男だったのかよ、気分悪いわぁ。田原が吸い込まれた、醜悪な披露宴の幻視。それを引き戻したのは、比嘉琴子らしき人物。帰宅した田原は、生まれ来る娘に「知紗」とつけることを決めるのであった。『ぼぎわん~』の前日譚ですねぇ。気分悪いですねぇ。もうこんなに前から、田原家に訪れる惨劇は決まってたんですね・・・。厭だわぁ・・・。 「わたしの町のレイコさん」、高校生カップルの稚拙な調査が恐るべき真実にたどり着いてしまう。男子…

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『最高のオバハン ~中島ハルコの恋愛相談室~』/林真理子 ◯

フードライターの菊池いづみは、ヤケを起こして訪れたパリで、IT社長の中島ハルコと出会う。押しと我が強く、ズケズケ物を言うハルコの勢いに流されつつ彼女に付き合ううちに、いづみの悩みの解消法を提示され、実行することに。まさにタイトル通り『最高のオバハン ~中島ハルコの恋愛相談室~』ですよ(笑)。まあ、ハルコが〈最高〉かどうかは、賛否分かれるところではあると思いますが。調子よく、グイグイ読めました♪林真理子さんの作品は沢山ある中、そんなに読めてないんですが、本作は気軽に読めて楽しかったです。 ただね~。ハルコが〈最高かどうか〉は、私的には微妙なんですよ。ハルコは52歳。同年代です。まあこの物語が単行本として世に出たのが2015年、今から7年前・・・とすると私より◯歳上で・・・あ~、バブル期に20代半ばを過ごした人かナルホドな~、あの時期を過ごした上でガッツがあって、才気と愛嬌にも恵まれた(もちろん本人の努力も大きい)人なら、こういう人物像もアリかもしれないですね。地味学生のうちにバブル崩壊、その後の就職、特に才のないまま主婦になっちゃった私とは、生きてきた世界が違いすぎて、ちょっと引いちゃうというか。ハルコからしてみたら、それこそ「そういうところが駄目なのよ!甘ったれてんじゃないわよ!」なんでしょうけどね(笑)。すみません、バイタリティ不足ですわ~、私。もうちょっと精進・・・できるかな?う~ん・・・頑張ります(^_^;)。 自慢話が大好きで、「知らない」を言いたくなくて口から出任せでハッタリをかまし…

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『一橋桐子(76)の犯罪日記』/原田ひ香 ◎

原田ひ香さんの作品、まだ3作目なんですけど、なんというか「あらまあ・・・ちょっと身につまされるわぁ(笑)」と感じますねぇ。自分の今後の経済状態に不安を持った桐子さんが、なんとかして刑務所に入るための犯罪を探す物語『一橋桐子(76)の犯罪日記』、面白かったです~。 身につまされるとは書きましたが、別に「老後が心配だから刑務所に入りたい」と思ってるわけではありません(^_^;)。それよりもですね、「老後って、お金も大事だけど、人間関係というか、ひととのつながりが大事だなぁ」って思ったんですよね~。 両親の介護のため、正社員を退職したあとはパート仕事しかできなかった桐子さんは、年金が少ない。両親の死後、気持ちのすれ違いから実の姉とも疎遠になってしまって、一人になってしまう。学生時代に仲良くしていたトモさんの夫が亡くなったことをきっかけに一緒に暮らし始めるが、トモさんが病気で亡くなると、二人で暮らしていた一軒家には住めなくなり、住まい探しに苦労した末に老人の多い古いアパートへ転居することに。清掃のパート勤めを続けてはいるものの、経済状態はかなり厳しい。ある日「刑務所に入って、介護してもらう」というというTVを見て、自分もそうしようかという気になり、桐子さんの〈あまり人様に迷惑をかけないで、できるだけ長く刑務所に入れる犯罪は何か〉を模索する日々が始まる。 桐子さんが検討する犯罪が「万引」「偽札」「闇金」「詐欺」「誘拐」「殺人」と、どんどん重罪化していくので、読んでるコチラとしては、ハラハラさせられまし…

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『レプリカたちの夜』/一條次郎 △

参ったなぁ・・・。書店で表紙見て、面白そう!って思ってしまったんですよねぇ。一條次郎さんは、初めて読む作家さんです。本作『レプリカたちの夜』、文庫裏表紙の紹介文にミステリー大賞受賞作と書いてあったのに、勝手に活劇ファンタジーっぽいものを期待してしまってて。部分的には、面白かったんですけどね、畳み掛けるように描かれていく謎設定の解答が得られないままだったのが、どうも合わなかったです。 多くの動物が保護されぬまま絶滅してしまったという世界観?で、何故か動物のレプリカを作っている工場(しかもここだけでなく、あちこちにあるらしい)。そこで品質管理をしている往本はある残業の晩、動き回るシロクマを目撃し、追いかけられる。工場長に報告すると、「それはスパイかもしれない、シロクマを殺せ」と命じられてしまうが、中に人間が入っているなら出来ない・・・と悩んで、同僚の粒山・うみみずの情報提供や協力(詳細は話していない)を受けながら、後ろ向きに調査を始めるのだが・・・。 とにかく、ナンセンス・・・って言っていいのかしら。シロクマは、動かないはずのレプリカなのか本物なのか。中に人間が入っている産業スパイなのか。次々と姿を消す上司たちは、本当に休暇なのか?出張なのか?退職したのか?それとも・・・消されたのか?日本であるらしい場所なのに、ロシア軍が平然と駐留しているのは、何故なのか。突然、給料が現物支給になり、渡されたレプリカを持ち帰ると、生きているかのように動き・喋る(ややたどたどしい)自分のコピーだったりカッパだったり…

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『ウィステリアと三人の女たち』/川上未映子 △

う~ん、どうも私は川上未映子さんと相性が悪いようだ・・・。昔、どこかで短編を一つ読んだときも、「・・・え~と、なんでしょうか・・・?」っていう感想しか出てこなかったんですよねぇ。本作『ウィステリアと三人の女たち』は4つの短編があったのだけど、どれも今ひとつ響かず。川上さんの作品がお好きな方、ごめんなさい。 あまり売れていない女優が、なんとなく参加してしまった同窓会で、過去に仲の良かった友達が「餓死」していたことを知らされてしまう「彼女と彼女の記憶について」。餓死したその子は、同年代の女性と一緒に死んでいたという。かつて、その子と仲良くしていた時に、女優が彼女にした仕打ちは、彼女の性的嗜好を引き出したのだろうか・・・。 毎日「シャンデリア」の下がる百貨店を訪れ、隅々まで歩き回り、なんとなく買い物をして過ごしている女が、百貨店で見かけた老女に親切にし、親しげに愛嬌を振りまき、老婆からお礼の品まで受け取った上で、「死にぞこないの、くそばばあ」と言い放って老婆を乗せたタクシーを見送る。次に来たタクシーの若い運転手の女の子に、小さなバッグと時計を与えて降りる。 ミア寮で暮らす、女の子たち。彼女たちは時折、ピクニックに出かける。看護人とともに。ただそれだけの、何気ない日常を描いた「マリーの愛の証明について」。 閉塞した毎日を送る主婦が、向かいの家が取り壊されかけたまま放置されてるのを見て、夜中に侵入し、時々見かけていたそこに住んでいた老女についての妄想を繰り広げる。老女が開いていた英語教室には、かつて…

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『残月記』/小田雅久仁 ◎

2022年の本屋大賞ノミネート作であり、吉川英治文学新人賞を受賞した、小田雅久仁さんの『残月記』。どっしりとした文体で丹念に語られる「月」にまつわる3編の物語はどれも濃密で、息を潜めながら読んでいました。この作品、ファンタジーに分類されるんでしょうけど、この世界観の確実さには、度肝を抜かれましたね。 家族で出掛けたファミリーレストランのトイレから出たら、月の裏側がこちらを向き、主人公だけが入れ替えられてしまった「そして月がふりかえる」。主人公の絶望にも、恐ろしさを感じはしたのですが、なによりラストに次々と届くメールに戦慄しました。何故、彼らは主人公が〈入れ替わってしまった〉ことを知っているのか?こんなに多くの人間が〈同じく入れ替わりを体験している〉のだとしたら、これは主人公が見ている悪夢ではない、ということ。そして、入れ替わりが、そこそこの頻度で起きており、でもそこから元に戻る方法を誰もが見つけられていない、ということなのですから。もしかしたら、私も月が反転するのを、目撃してしまうかもしれない、そう思わせられて、ゾッとしました。 若くして亡くなった叔母の形見の「月景石」を、枕の下に入れて眠ると、その風景の世界の夢を見るという。ふとそれを実行してしまった〈私〉は、月の世界の欺瞞と崩壊に巻き込まれる夢を見る。その石を胸に抱いて生きる「イシダキ」という一族として。最後に目が覚めた私は、現世に戻っているのだけれど、自分が住んでいた見覚えのある現世なのに人間や動物は見当たらず荒れ果て、月から巨大な樹木が…

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