『悪魔〈闇の西洋絵画史(1)〉』/山田五郎 ◎

You Tube「山田五郎 オトナの教養講座」で、絵画鑑賞初心者の私にもわかりやすく面白い絵画解説をしている山田五郎さん。本書『悪魔〈闇の西洋絵画史(1)〉』は、全10冊からなる〈闇の西洋絵画史〉シリーズの1冊目。神に背いて地上に落とされた堕天使である悪魔を描いた絵画を、たくさん紹介しています。非常に楽しめました! 文庫本より少しだけ大きいサイズの小ぶりなこの一冊ですが、全頁カラーで五郎さんの解説もびっしり、絵画の全体図だけでなく重要な部分は一部拡大してあって、よりわかりやすくなってます。そして、悪魔について「神に逆らった罰で地上と地獄に左遷され、汚れ仕事をさせられているのかも」という、面白い視点から評価していたりします。「本社の大天使ミカエルにいびられながらも、左遷先で頑張るサタンの勇姿をご覧ください」なんてウィットに富んだ解説、ニヤニヤしちゃいますね。 様々な絵画の中で描かれる悪魔は、お腹やお尻にも顔があったり、皮膚が鱗だったり、緑色だったり、ガリガリに痩せこけていたり、醜くおぞましい姿で、絵画を眺める我々を脅してきます。作品によっては、コミカルな悪魔もいますが・・・、基本的には戒め諭す目的の絵画ってことで、残虐の限りを尽くしていますねぇ。 そんな〈悪魔〉についての本なのに、最後の方でさりげな~く〈空想の魔女より怖い現実の奥様方〉として「悪女フリート」の絵が紹介されていて、笑ってしまいました。悪魔を叩きのめして地獄からの略奪品を抱えて進む、勇ましい主婦たちを紹介って・・・現実の女性の強さ…

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『アリス、アリス、アリス!』/ひらいたかこ ◎ (画集)

小人みたいにちまっとした可愛さのあるアリスを始めとするキャラクターたちが自由闊達に駆け巡る、『不思議の国のアリス』をモチーフにした、ひらいたかこさんの画集。『不思議の国のアリス』好きなので、図書館の予約の順番が回ってくるのが楽しみでしたが、予想以上に良かったです!『アリス、アリス、アリス!』というタイトル通り、どのイラストにも可愛らしいひらいさん版アリスが、元気に朗らかに描かれてました。 かなり前に前作『地下の国のアリス』という、ルイス・キャロル自らが挿絵も描いた『不思議の国のアリス』の前身版を読んで、ルイス・キャロルの絵も味わいがあっていいなと思っていました。ちなみに、一般にはアリスの挿絵と言えば、テニエルですね。そちらの絵もナンセンスな感じが出ていて、好きです。そして、ひらいさんのアリスは、なんというか小人みたいな感じ。目鼻立ちだけじゃなく体も、そして他の対象物(物や動物や植物)も、みんな小づくりな感じが、とても愛おしい。ちまっと描かれているので、アリスの顔も点々で表現されて簡略化してるのに、なんだか彼女のお転婆でおしゃまな感じがとても伝わってきます。なんというか、とにかく、可愛い♪ アリス以外も、柔らかい色で描かれた器物・動植物・登場人物たちが、ファンシーな不思議の国をよく表してますねぇ。特にトランプマークでできた葉を持つ植物がカラフルに描かれてるシーンは、のびのびとした明るさが感じられて、とても素敵。アリスが目覚めたあと、ルイス・キャロル(帽子屋?)の漕ぐボートに乗ってるイラストが、現…

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『マジカルグランマ』/柚木麻子 ◯

表紙のぱっと見ファンシーなおばあちゃまからは想像もつかない、足掻いてもがいて失敗してそれでも自分の欲に忠実になることに気付いた老婦人の活躍、面白かったです。『マジカルグランマ』っていうタイトルの〈マジカル〉にそんな意味があるとは知らなくて、意外な展開に胸がざわつきましたねぇ。柚木麻子さんの描く〈後期高齢者〉、興味深かったです。 黄色いステッキを持って窓に座ってる、きれいな白髪の老婦人という表紙、初見では優しくて可愛いおばあちゃんに見えるんですよ。ところがね、読了して見直すとあらビックリ、主人公・正子が飽くなき自己実現欲と活力で不敵な笑みを浮かべてるようにも見えるんです。それに気付いて、ニヤニヤしちゃいましたね~。 結婚前は映画女優だった柏葉正子は、70代に入ってシニア俳優専門の芸能事務所に所属し、髪を綺麗な銀髪に整え、CMに大抜擢され、注目の人となる。だが、家庭内別居していた夫が死亡し、その「お別れの会」の際の発言が炎上して世間から大バッシングを受け、芸能事務所も契約解除されてしまう。夫の大ファンだという若い娘・杏奈が押しかけてきて、なし崩しに一緒に暮らすうちに、売りたいと思っていた豪邸は売れず、生活のために家の中のものをメルカリで売り捌く日々。ある日、杏奈とディズニーランドを訪れ、ホーンテッドマンションに着想を得て「自宅をお化け屋敷にすること」を思いつき、杏奈や近所の人々や息子たちの協力を得て、お化け屋敷運営を始める・・・。 最初は「なんで夫のお別れの会の時に、あんな発言しちゃうのかなぁ、…

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『口笛の上手な白雪姫』/小川洋子 ◯

小川洋子さんの作品を読むのは、久し振りです。ちょっとだけ現実とズレていて、そのささやかな違いがキラキラと輝くような美しさと、ズレからくる密やかな不穏さのバランスが絶妙だなといつも感じているのですが、本作『口笛の上手な白雪姫』も、そんな穏やかで静かな物語が8編、描かれていました。 この繊細で浮遊感のある物語を堪能するには、心の余裕というかゆったりと読むことを楽しめるペース配分(生活とか気持ちとかインプット&アウトプットのバランス)が出来てないといけないかなぁ・・と感じました。最近、わーっと勢いで読書をしすぎていた気がします。雑に読んでいたということではなく、しっかり楽しんでいたのですが、本作を読むようなペースが整ってなかったかもしれません。ちょっと残念。それでも、やっぱり読み進むうちに、優しくて少し淋しくて、でも登場人物たちの間にそっと流れる温かな交流が胸にしみ込んでいくような感じが伝わってきて、読んでいて心地よかったです。 「先回りローバ」吃音の少年の視界に現れる、不思議な小さな老婆。彼女との交流。「亡き王女のための刺繍」小さな洋裁店のりこさんは、素晴らしい刺繍をする。「かわいそうなこと」ささやかな出来事を一つ一つ、ノートに記す。かわいそうなこと。「一つの歌を分け合う」息子をなくした伯母と行った「レ・ミゼラブル」。彼女の涙を思い出す。「乳歯」迷子になった子供は、不思議な男と聖堂のレリーフを眺める。「仮名の作家」作品に傾倒するあまり、作家の領域を犯すファン。「盲腸線の秘密」曽祖父と孫は、廃線の危…

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『遠巷説百物語』/京極夏彦 ◎

なんと、11年ぶりですよ、〈巷説百物語〉シリーズを読むのは。相変わらず凶器レベルの製本でプレッシャー満載、それでもやはり〈人のなせる罪悪〉を〈人ならぬ者の仕業〉としてつける始末の鮮やかさには、グイグイと惹き込まれましたねぇ。ちょっと時間かかっちゃいましたけど(笑)。京極夏彦さんの『遠巷説百物語』、懐かしい面々、新たな登場人物、遠野という土地の特性に因む物語を、堪能いたしました。 本作では、盛岡藩遠野保を舞台に、6つの物語が語られる。それらは、まず章タイトルの怪異の絵と出典の文章があり、次に「譚(はなし)」として遠野の言葉でその怪異についての昔語りが入り、その次に「咄(はなし)」として宇夫方祥五郎が聞き集める市井の噂話があり、その次に「噺(はなし)」として事件の当事者たちの体験があり、最後に「話(はなし)」として「噺」で行われた怪異の仕掛けとその始末の行方を祥五郎が迷い家の仲蔵に尋ね聞かされる、という決まった形をもって構成されている。どれもが「はなし」でありながら、一つの事件を語るものでありながら、それぞれが持つ真実は違う。誰が、何を信じたいのか、どのように解決のつかぬ罪悪の始末をつけるのか、それぞれが飲み込むほろ苦さが根底にあった気がしますね。 「歯黒べったり」「礒撫」「波山」「鬼熊」「恙虫」「出世螺」、6つの怪異は、遠野特有のものではなく日本のあちこちで語られている割合メジャーな怪異である。そんな怪異の噂話が、遠野の地で発生し流布していく。その話を聞き集めているのが、本書の主人公である宇夫方…

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『さんかく』/千早茜 ◯

・・・この作品、評価が難しいわぁ。内容は、全然難しくないんですけどね~。タイトルの『さんかく』の意味は、三角関係を示すのかしら。と言っても、ある部分は恋愛感情というわけではなさそうで、ずるい関係かな。ちなみに千早茜さんの描く男性って、いつもは〈体温低そうで儚げ〉って感じることが多いんですけど、今回は違うタイプでした。 しかしまあ、なんとも食テロで、「誰か、こういうご飯を私に作ってくれないかなぁ・・・」という悲しい欲望(笑)が揺さぶられました。高村さんが作る食事が、豪華ではないけど、丁寧なんですよね。何気なく、色んな種類のおかずを冷蔵庫に用意してあったり、ご飯を土鍋で炊いてたり。でも、京都の町家でトイレとお風呂は外(中庭?)にあるような家での生活、味わいはあるんだろうけど、私には無理かな(笑)。 フリーで自宅で働いている高村さん、会社員の伊東くん、伊藤くんの恋人で大学院生の華。高村さんと伊東くんはかつてのアルバイト仲間で、久し振りに偶然再会し、なんとなく飲み仲間となった。華は大学で動物の体の構造の研究をしており、動物の解剖が入れば研究室から離れられないような生活をしている。 ・・・ここまでは、いいのよ。全く問題ないの。伊東くんは礼儀正しく控えめに高村さんと関わって、変な下心もなさそうで、いいなぁ・・・って思ってたのに。途中から、なんだか高村さんに甘えだして、高村さんもそれを許容する感じで、なんとなく流れで同居することになってしまう。え?なんじゃそりゃ。恋愛感情じゃなくて、食べる物の世話をしてく…

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