『きみはだれかのどうでもいいい人』/伊藤朱里 △
とある県税事務所の職員たちの物語。『きみはだれかのどうでもいい人』というタイトルの強烈さと投げやりさにちょっと慄きながら、読み始めました。そして、読んでいて、だいぶ辛かったです。伊藤朱里さん、初めて読む作家さんでしたが、他の作品はどんな感じなんでしょうね。
納税部門の初動担当である、中沢環。納税部門の事務パート職員の田邊陽子。総務担当の染川裕未。裕未の上司である主任の堀。彼女らが、仕事や私生活でうまく回らない日常を過ごしている様子が、つぶさに描かれていく。
彼女たちのままならなさを象徴するかのような、〈社会復帰支援雇用〉の須藤美雪。美雪は納税部門の事務アルバイトをしているのだけれど、仕事は控えめに言っても「できない」上、常におどおどしているため、周囲から〈扱いづらい困った人〉となっている。
日々のストレスと、美雪に対する苛立ち(でも心の病気である人に対してきつく当たることはできないという状況が更にストレスになる)で、追い詰められた彼女たちは、ちょっとした一言をトゲを含ませて美雪に対して放つ。そして、出勤しなくなった美雪が「記憶喪失」になった、と家族からの訴えがあり、事務所では聞き取り調査が始まる。そこで「私が彼女を罵りました」と告白したのは、堀であった。
堀の告白は、「どうせ誰かを加害者にしなければいけないなら、自分が泥をかぶった方がいい」という思考のもとにされたものだと思ってたのですが、実は違って本当に彼女が言ったことだと判明したときには、ちょっとショックでした。堀みたいな冷静なタイプは…