『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』/桜木紫乃 ◎
桜木紫乃さんの作品は、結構体力がいる。北の大地、凍える寒さの中、ぬかるみに足を取られながら、それでも歯を食いしばって前に進んでいく。そんなイメージがあったので、本作『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』を読み始めるときも、ちょっと身構えていたんですよね。でも、今回はちょっと違いました。軽やかに物語が進んでいきました。・・・釧路の冬の寒さは、半端なかったですけどね(笑)。
港町・釧路のキャバレーの下働き、章介。ある朝目覚めると、父の骨壷が置き去りにされていた。勤め先のキャバレーに営業に来たマジシャン(師匠)・ブルーボーイの歌手(シャネル)・ストリッパー(ひとみ)は、旅館ではなく章介の住むボロアパート(一応キャバレーの寮)に泊まるという。今まで人との関わりを深く持つことのなかった章介は、戸惑いながらも彼らの暖かさや厳しい人生観に心を動かされるようになる。彼らの契約期間が終わり、それぞれが旅立ち、章介も釧路を旅立つ。
この3人のタレントの披露する演芸が、とにかくすごい。男声女声ファルセットを駆使し朗々と歌い上げるシャネル、脱ぐだけではなく『演じる』ことの迫力がとてつもないひとみ、〈失敗芸〉を極めよく馴らした鳩の使い方が絶妙な師匠、彼らの芸を照明係として見つめて照らす章介にもその熱は伝わる。そして、3人が3人共、熾烈な人生を歩んできた上での人間性の高さを持っていて、そっけない優しさで章介を包んでいく様子を読んでいて、私もとても幸せな気持ちになりました。まあ・・章介の父親の骨を他人の墓にぶち込んだ〈納…