『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』/桜木紫乃 ◎

桜木紫乃さんの作品は、結構体力がいる。北の大地、凍える寒さの中、ぬかるみに足を取られながら、それでも歯を食いしばって前に進んでいく。そんなイメージがあったので、本作『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』を読み始めるときも、ちょっと身構えていたんですよね。でも、今回はちょっと違いました。軽やかに物語が進んでいきました。・・・釧路の冬の寒さは、半端なかったですけどね(笑)。 港町・釧路のキャバレーの下働き、章介。ある朝目覚めると、父の骨壷が置き去りにされていた。勤め先のキャバレーに営業に来たマジシャン(師匠)・ブルーボーイの歌手(シャネル)・ストリッパー(ひとみ)は、旅館ではなく章介の住むボロアパート(一応キャバレーの寮)に泊まるという。今まで人との関わりを深く持つことのなかった章介は、戸惑いながらも彼らの暖かさや厳しい人生観に心を動かされるようになる。彼らの契約期間が終わり、それぞれが旅立ち、章介も釧路を旅立つ。 この3人のタレントの披露する演芸が、とにかくすごい。男声女声ファルセットを駆使し朗々と歌い上げるシャネル、脱ぐだけではなく『演じる』ことの迫力がとてつもないひとみ、〈失敗芸〉を極めよく馴らした鳩の使い方が絶妙な師匠、彼らの芸を照明係として見つめて照らす章介にもその熱は伝わる。そして、3人が3人共、熾烈な人生を歩んできた上での人間性の高さを持っていて、そっけない優しさで章介を包んでいく様子を読んでいて、私もとても幸せな気持ちになりました。まあ・・章介の父親の骨を他人の墓にぶち込んだ〈納…

続きを読む

『これからの暮らし by ESSE vol.3(秋冬号)』/エッセ2022年12月増刊号 ◎

〈50代からのちょっといい毎日、ちょっといい未来〉を掲げる、『これからの暮らし by ESSE vol.3(秋冬号)』。ドンピシャ世代のワタクシに響く特集ばかりで、「それわかる!」「そうか、こうやればいいのか!」と頷きながら読んでました。表紙の西田尚美さんの飾らない笑顔も、素敵ですねぇ。 コロナで巣ごもり生活を余儀なくされていた頃(といっても仕事には行ってましたが)、You Tubeで出会った「ミニマリスト」という存在。色々なミニマリストさんの動画見てるうちに、「ミニマリストは、なんか私の目指すところと違う・・・」と思うようになり、「シンプル生活」の方に関心が寄っていくようになりました。明確な定義の違いは、実はよくわかってないのですが、私的には「無駄なものは持たない」「今あるものを減らして、管理する手間暇を減らす」「ゆるく兼用できるものを選ぶ」「でも、自分が持っていて(使っていて)心地よいものはあっていい」って感じでしょうか。その辺りと今回の特集「ものの持ち方、手放し方を見直すなら、今!」は、非常にフィットしましたね。 あと、「もう服選びに迷わない!ユニクロで決まるおしゃれ術」。絶賛オシャレ迷走中、服にお金をあまりかけたくないケチケチさんなワタクシに、ぴったり。ていうか、オシャレなお店に入るのすら気が引けてる私にとって、ユニクロは気楽に入れる数少ないお店なんですよ(笑)。そのユニクロで、年齢&わがままボディでもおしゃれが叶うとなれば、大喜びでございますよ。ええ、これからは大きめサイズに上げて縦…

続きを読む

『ババアはツラいよ! 55歳からの「人生エベレスト期」サバイバルBOOK』/地曳いく子×槇村さとる ◎(実用書)

前作『ババア上等! 大人のおしゃれDO!&DON’T!』にを読んだのは、もう2年も前なんですねぇ・・。ガッツリ更年期に入り色々とガタが来つつあるワタクシ、55歳はもうちょっと先だけど読むべし!と、本書『ババアはツラいよ! 55歳からの「人生エベレスト期」サバイバルBOOK』のを手に取ることにしました。いやあ、今回も地曳いく子さん槇村さとるさんには、たいへん励まされました。ありがとうございます!しかしまあ、思い当たることがありすぎて、引き笑いしてしまいましたけどね~(^_^;)。 しかし、いきなり最初の「五十五歳は人生の「エベレスト」」で、「根性でどうにかなるレベルを超えた、大きな山がきていた」なんて脅されると、55歳が来るのが怖くなってきますよねぇ。肉体的だけじゃなく、精神的にもダメージが来ちゃうのか・・・私に乗り越えられるんだろうか・・・と。でも、私が憧れてる更年期以降でもイキイキ・キラキラしてる女性たちだって、この更年期というエベレストを登りきり、サバイバルして来たからこそ、輝いてるわけで。出来ないわけじゃない!この本読んで参考にして、なんとか前向きにやろう!って思いました。 具体的な化粧品や服飾のブランドは、正直私には合わないかな~と思ったので、おしゃれのエッセンスだけ参考にさせて頂くとして、「好きなことは思いっきり取り組む」とか「おしゃれは人のためならず」とか「自分のベーシックを深めていく」とか、つまりは自分の好きなように楽しむってことなんだな~と。今まで頑張ってきたんだから、これから…

続きを読む

『甘美な牢獄』/宇能鴻一郎 △

う~ん、この本、なんで〈読みたい本リスト〉入りさせたんだっけ・・・(笑)。宇能鴻一郎さんという著者名に、なんの引っ掛かりも覚えなかった(見覚えはなんとなくあった)のが、アダとなったというか(笑)。解説によれば「1970年代から80年代にかけて一世を風靡した超有名ポルノ作家」だということで、私の守備範囲からかなり外れてる作家さんだったわけですが・・・。『甘美な牢獄』というタイトルが真っ白な表紙に銀色で描かれ、装丁的には非常にスッキリした見かけ。読んでみて、どうだったかというと・・・・。 最初の短編「光と風と恋」で、男子学生が同じクラスの女子学生に憧れるようになり、その家に出入りするうちにその母の方に恋心を抱き、その母の方も受け入れるようなからかうような、曖昧ながらも交友を続けるが、最終的には訣別があり、少年は苦い思いとともに大人の男として孤独を感じるようになった・・・というストーリーは、なるほどなぁ・・・だったんですけどね。 いくつかの短編が進むうちに、どんどん露悪的な性・官能の話になっていく。いやぁ、イマドキの中年女性である私には、理解ができなかったですよ(笑)。「性のメランコリィ」や「描かれた当時の人権感覚(人種・男女など)」なんかが、どうにも受け入れがたくて。 でも、なんだか文章は読みやすくて、スイスイ読めちゃって(笑)、気がついたら読了してました。とはいえ、感銘を受けたかというと全くそういうこともなく、申し訳ないながら、評価は△とさせていただきますわ。 8編ある物語の中で、良かったか…

続きを読む

『怪物〈闇の西洋絵画史(3)〉』/山田五郎 ◎

You Tube「山田五郎 オトナの教養講座」で、面白くて絵画鑑賞初心者にもよく分かる解説をされている山田五郎さん。本書『怪物〈闇の西洋絵画史(3)〉』は、全10冊からなる〈闇の西洋絵画史〉シリーズの3冊目。本書に取り上げられた怪物は、だいたい〈ゆるふわ系〉なので、見ていても「怖い」より「くすっと笑える感じ」がします。You Tubeで五郎さんの話し相手を務めるワダさんも、「可愛いですね」を連発してましたもんね(笑)。 「Ⅰキリスト教の怪物」「Ⅱギリシャ神話の怪物」「Ⅲ画家が幻視した怪物」と3章に分けて怪物たちを紹介。想像上の生物、動物がいくつも融合した姿、人面獣身、獣面人身・・・。様々に醜悪だったり、ゆるゆるして弱そうだったり、聖者に負けたり、群れ集まりすぎてその集合体が気持ち悪かったり、どの絵画にもツッコミ処がたくさん見つかります(笑)。私が一番ツッコミを入れたくなったのは、一番最初に紹介されるヒエロニムス・ボスの《快楽の園》の地獄の王。亡者を丸呑みしては、そのまま排出(意味あんの?)、頭にお鍋をかぶってご機嫌モード、・・・アンタほんとに「地獄の王」なんか~い!!(笑)。 あと、怪物じゃなくて天使にもツッコミを入れたいです。ルーカス・クラーナハ(父)の《最後の審判》の天国の周りを囲む雲の中に、頭と羽だけ突き出してわらわらと存在する天使たち。・・集合体恐怖症の人が見たら、こっちのほうが怖いに違いないと思うんですよ!私、別に集合体恐怖症じゃないと思うんですが、一瞬「キモッ!」って思っちゃいまし…

続きを読む

『ペッパーズ・ゴースト』/伊坂幸太郎 ◎

中学校教師の壇先生のパートと、その教え子の書く小説のパートが交錯する本作、『ペッパーズ・ゴースト』。伊坂幸太郎さんらしい、散らばったピースがピタリピタリとはまっていく感じが爽快です!面白かったです!そしてやっぱり私は猫派だなと(笑)。 壇先生は、他者の飛沫によってその人の翌日の未来の〈先行上映〉が見えてしまう、という特殊能力?特異体質?を持っている。見えてしまっても、対処出来ることと出来ないことがあるため、出来なかったことに対しての心苦しさに悩んだりすることもある。ある日、教え子の一人・里見大地の〈先行上映〉で新幹線の横転事故を見てしまい、彼に「新幹線の時間を変えた方がいい」と連絡をすると、彼が乗る予定だった新幹線がやはり事故を起こす。お礼を言いたいという大地の父と会った壇先生は、カフェでのテロ事件の被害者家族の集まるサークルの事件に巻き込まれていく・・・。同時期、壇先生は別の教え子・布藤毬子から「自分が書いた小説を読んでみてほしい」と手渡される。その小説では、かつて猫を虐待する動画へ煽りのコメントを入れていた人間たち「猫を地獄に送る会メンバー=ネコジゴ」を成敗していく、ネコジゴハンターの二人の活動が描かれていた。 やがて、壇先生が巻き込まれた事件に、ネコジゴハンターたちが登場する。加速し、絡み合う2つの出来事。全てに片が付いたあと、壇先生は「サークルのメンバーがやりたかったことは何だったのか」を推測する。メンバーの生き残りである成海彪子は、「そんなわけないじゃないですか」と言うのだが・・・。…

続きを読む

『二千七百の夏と冬』(上)・(下)/荻原浩 ◯

ダムの工事現場で縄文人の少年と弥生人の少女の人骨が隣り合って発掘されたことを取材している、新聞記者の香揶。香揶の現代パートと、縄文少年・ウルクのパートを行き来しながら、物語が進んでいのですが、荻原浩さんの素晴らしい筆力によって、縄文時代から弥生時代へと移りゆくその時代の人々の暮らしが鮮やかにリアルに描かれています。本作『二千七百の夏と冬』は、前に真梨幸子さんの『縄紋』にを読んだときに、【トドの部屋】Todo23さんにオススメ頂いていたものです。縄文時代・弥生時代という、資料の少ない時代をここまで興味深く読めるとは、思っていなかったですね。面白かったです。 2011年。新聞記者・香揶は、縄文人の少年と弥生人の少女の人骨が隣り合って発掘されたことの取材をしている。その縄文少年・ウルクの物語では、縄文人たちの狩猟などの生活が描かれる。ウルクは禁域の森に迷い込み、見慣れぬ姿形の少女・カヒィと巡り合う。禁域に入ったことを咎められたウルクは「村の役に立つなにか(コーミー)を手に入れてくれば、村に戻してやる」と言われ、村を追い出される。(上巻) 村の南の森を移動している間にヒグマに狙われ、なんとかそれを倒し傷つき倒れたウルクは、見慣れぬ姿形の者たちの集落へ連れて行かれる。そこは、手に入れることを願っていたコーミー(米)を栽培し、「王の支配するクニ」であった。カヒィと再会し、米を手に入れるためにクニに居続けることにしたウルクは、カヒィと心を通わせ合うようになる。武器の所持を理由に捕捉されたウルクは、クニに混乱…

続きを読む