『神々の歩法』/宮澤伊織 ◎

はぁ~、面白かった!!新聞の書評で興味を持った本作『神々の歩法』ですが、非常にテンポよく読めて、楽しかったです!!著者の宮澤伊織さんは、なんというかイマドキな経歴の方ですね~。ボードゲームなどの企画制作会社に所属されてる方で、アニメ「裏世界ピクニック」の作者さんだそうです。いわゆるラノベ系の作品が多い中で、本作が本格的なSFとしては初の作品らしいです。いやぁ、それでこのレベルとは、すごい。 ある日突然、ウクライナの農夫・エフゲニー・ウルマノフが都市を壊滅させるレベルで凶暴化、しかも通常兵器が通用しない。その破壊行動を止めるために、潜伏先である北京に潜入したサイボーグ特殊部隊。壊滅寸前で、空から舞い降りてきた少女・ニーナに救われ、彼女に協力して、凶暴化したエフゲニーをなんとか倒す。 エフゲニーが凶暴化したのは、宇宙の彼方で起きた超新星爆発に巻き込まれて滅亡した種族が、宇宙を飛ばされて地球に飛来し(その間に発狂しているものが多い)、そこにいる生物に憑依した結果であった。ニーナにも同じく憑依しているものがあったが、そちらは攻撃的ではなく、以後現れる憑依体の暴走を食い止めるために、ニーナと特殊部隊は協力体制をとることになるのだが。ニーナは8歳の少女なので(但し身体はミドルティーンに成長させられている)、勢いで行動してしまったり、同じ境遇の憑依体と友達になりたがったりする。特殊部隊の隊長・オブライエンや隊員たち、同じ憑依体で〈死の概念〉を司るカミラ、CIAのケースオフィサーであるマッケイなど、魅力的なキ…

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『同志少女よ、敵を撃て』/逢坂冬馬 ◎

500ページを超える大作、1週間掛かって読みました。そして、レビューをどう書いたらいいのか、戸惑っています。腹の中でふつふつと滾るような怒り、胸が重くなるような悲しさ、頭の奥が冴えるような静謐さ、そして『戦争』というものに対しての苦々しさが、私の中の各所で荒れ狂って、まとまりが付きません。2022年本屋大賞・第11回アガサ・クリスティー賞の大賞を受賞したこの作品、素晴らしいの一言に尽きます。逢坂冬馬さんの『同志少女よ、敵を撃て』、ウクライナ・ロシア戦争が未だ終わらないこの世界で、読まれるべき物語だと思いました。 ロシア山村の猟師を生業とする母のもとで射撃の技術を身につけた少女・セラフィマは、大学入学を目前にしたある日、ドイツ兵に村人すべてを殺されその身も危うかったギリギリのところを、ソ連赤軍に救われる。そこで出会った女性狙撃手・イリーナに「戦いたいか、死にたいか」と問われ、母を含めた村を焼き尽くされ、ドイツ兵とイリーナに対する復讐を胸に、狙撃兵を養成する学校に入ることになる。 厳しさを極め、人数を減らしていく仲間たち。仲間だと思っていた少女の、真実の姿。投入された初実戦の地は、ドイツの包囲戦を耐え凌ぐ戦い。技量の限りを尽くしてドイツ兵を狙撃し、仲間を失い、一般市民の死に遭遇し、転戦を続けながら、復讐のために策略を凝らし、怨敵であるドイツ兵を撃ち倒したセラフィマ。 戦地における女性を守るための戦い。命には替えが効かないという事実。戦後の女性の在り方の変容と、穏やかに暮らすラスト。 セラフィマ…

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『異形のものたち ~絵画のなかの「怪」を読む~』/中野京子 ◎

中野京子さんと言えば、絵画に描かれる様々な謎や現象をわかりやすく読み解いてくれる、素晴らしい方ですよ。私的に代表作は『怖い絵』かなと思うんですが、著作一覧を見てると、どれも読んでみたくなっちゃいます。芸術鑑賞って苦手だと思ってたんですけど、これだけわかりやすく解説してくれてると、色々興味が広がりますもんね。本作『異形のものたち ~絵画のなかの「怪」を読む~』も、魅力たっぷりな「怪」を楽しませていただきました~! 山田五郎さんの〈闇の西洋絵画史〉シリーズやYou Tubeで見たことのある絵画もたくさん出てきたので、余計親近感というか読みやすくわかりやすかったです。ボスの『快楽の園 地獄』とか、見ただけで笑っちゃうしね。地獄の王様のゴキゲンぶりはやっぱりツッコミ処満載だし、「耳戦車」の造形の訳わからなさとか、陽気な怪物たちの楽しげな様子、こっちまで嬉しくなってきますもん(笑)。 アンチンボルドの『水』も「恨みますよ・・・」の蟹を見つけて爆笑しちゃったし(『怖いへんないきものの絵』の時も笑った)、ブロンツィーノの『愛の寓意』の「アカン」感じにもビビりながらもニヤニヤしました。 もちろん、笑えるだけじゃないんですよ。ワッツの『ミノタウロス』の哀愁や、ベックリンやギーガーの『死の島』の不穏さ、グリーンの『イヴと蛇と死』の狡猾さ・・・どの絵画にもそれぞれの魅力があり、その魅力の秘密を丁寧に解説してくれているので、より惹き込まれますね~。 本書で紹介される絵画は、タイトルにあるように「怪」を含んでいます…

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『これからの暮らし by ESSE vol.4(春号)』/エッセ2023年4月増刊号 ◎

表紙の山口智子さんの鮮やかな衣装としなやかなポージングが印象的な、『これからの暮らし by ESSE vol.4(春号)』。〈50代からのちょっといい毎日、ちょっといい未来〉といわれたら、「ドンピシャ世代で~す!!」と元気にお返事(笑)したくなってしまいますね。今号も、「老後のお金の不安まるごと解決!」とか、「50代・60代・70代の買ってよかったもの、ずっと大切にしたいもの」など、読み応えのある記事がたくさんでした~。 老後のお金、ホントに心配なんですよ。貧乏じゃないけどお金持ちでもないし、数年前からやっと投資を始めたけど元手がそんなにあるわけでなし、最近円安やら物価高騰やらで生活費がジリジリと上がっていくし。かといって、You Tubeなんかで「バリバリ稼ごうぜ」的な動画を見ても、いまいちピンとこないし・・・。そんな私の漠然とした不安を、払拭とまではいきませんでしたが、多少なりとも見直しや考えの変え方の参考になりました。・・・やっぱり、扶養を外れようかしら。悩ましいわぁ。あと、まだ先のことですが、70代になったら「マネー終活」をするっていうのは、「そうか!だよね!!」って再確認。私の資産運用の情報源ってYou Tubeが多いので、どうしても20~30代の資産運用イケイケ世代向けで「これからどれだけ資産を増やすか!」っていう情報は多いけど、「年取って自分で運用できなくなった時どうするか」をしっかり話してくれる人があまりいなくて、あまり真剣に考えてなかったです。あれだな~、私の目指すシンプル生活…

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『動物進化ミステリーファイル』(児童書)/大渕希郷 ◯

〈へんないきもの〉シリーズとか、〈わけあって絶滅しました。〉シリーズが大好きなワタクシ。本書『動物進化ミステリーファイル』は子供向けですが、一切気にせず図書館で予約。やっと順番が回ってきたので、楽しく読ませていただきましたよ~。著者の大渕希郷さんは動物学の専門家。科学的な動物園を作ることを目指している方だそうです。そういえば本作、前作『絶滅危惧種 救出裁判ファイル』にを読んだ時に、〈読みたい本リスト〉入りさせてたんでした。 内容は割と単純に、〈なんでこんな姿になったんでしょう?〉という動物たち自身からの疑問を、進化探偵のロックドイルくんが進化の過程から推理する、っていうもので、ゾウからカエルから人間まで、様々な生物の不思議に迫るものでした。子供向けの本なので、文章もやさしくて、スイスイ読めます。全頁カラーで、イラストや写真も豊富。進化、自然淘汰、色々な過程を経てきた動物たちの今の姿を推理説明するんですが、絶滅してしまった生物の紹介もたくさんあって、私はそっちのほうが興味深かったですな(笑)。割りと〈絶滅理由は不明〉なのが多かったですけど。 ホッキョクグマの毛は実は透明であるとか、亀の甲羅は肋骨だとか、シマウマの白黒は虫よけだとか、割と知ってる内容もありましたが、金魚には胃がないとか、ハイエナのメスには偽陰茎が付いてるとかは、知らなかったですね。いやホント、いきものって複雑怪奇だわ~。 あと、恐竜がヒトのように進化したら・・・という「ディノサウロイド(恐竜のトロオドンが祖先)」の想像図には、笑…

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『類』/朝井まかて △

偉大過ぎる父・森鴎外、その才能を受け継ぎ華やかに己を表現していった兄姉(於菟・茉莉・杏奴)、自分は「不肖の息子」であると思い知らされる日々。森鴎外の末子・『類』の生涯を描いた本作。森茉莉(まり)は読んだことはないけれど独特の美学に基づく文章で有名なのは知っていたし、兄の於菟(おと=オットー)が高名な医学博士であることや、次姉の杏奴(あんぬ)も画業や文筆著作で知られている事も知っていたけれど、類に関しては名前ぐらいしか知らなかったので、著者の朝井まかてさんがどのようにその生涯を描いたのか、興味深く読みました。 ただねぇ・・・読んでいて、歯がゆいのですよ。すぐ上の姉・杏奴が非常に上手く才能を開花させていくため、余計に報われない感が顕著。そして、〈お貴族様〉なんですよねぇ。父・鴎外が残してくれた財産があるため、働かずとも生きていける経済基盤があって、おかげで絵画を有名画家に師事したり、巴里へ姉・杏奴とともに留学したり。なんとも羨ましい、とはいえ貧窮による必死さがないため今一つ芸術を極めるに至らない、中途半端な状態。 戦後の混乱で財産を失ったり、父についての文章を書くもなかなか世に認められなかったり、家族を赤裸々に描いて姉達から絶交されたり、美術も文筆も芽が出ず、妻子を持って生活に苦しむ日々がこれでもかと描かれていくのですが、まぁ・・・なんというか読んでて辛かった。勉学に興味が持てず、中学を退学するに至るという、たぶん学習障害的な少年が、では芸術の才に恵まれ人生を切り開けるのかと思いきや次姉の方が先に…

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