『プロジェクト・ヘイル・メアリー』(上・下)/アンディー・ウィアー 小野田和子訳 ◎

 ちょうど時間があったとはいえ、怒涛の勢いで読了してしまいました。とりあえず〈事前情報ナシで読むのがいい〉ということだけが事前情報の状態で読み始め、ぐいぐい惹き込まれました!スゴイです、『プロジェクト・ヘイル・メアリー』!!ガッツリSFの上下巻、堪能いたしました!!著者アンディー・ウィアーさんの物語の構成や文章ニュアンスももちろん凄いんですが、小野田和子さんの翻訳も素晴らしかった。わかりやすく軽快な文体で、本当に楽しめましたね~! 記憶が曖昧なまま、見知らぬ場所でただ一人目覚めた男は、少しずつ自分がそこにいる状況を思い出していく。中学校の科学教師だったその男・グレースは、太陽エネルギーの急激減少に関する巨大プロジェクトに参加することになる。見知らぬ場所は、宇宙船〈ヘイル・メアリー号〉。彼は、地球を救うための片道ミッションに参加していたのである。宇宙船及びラボを操作しながら少しずつ戻る記憶、驚くべき遭遇、困難なミッションを乗り越え、絶望から希望の折り返し地点を曲がった先で、発生した事象。グレースの取った行動と、再び明るさを取り戻し希望も見えたラスト・・・素晴らしかったです! いいやぁ・・・、本当に大掛かりなSFでした。物理学・化学・気象学・生物学・宇宙工学・・・様々な理系分野の知識がバンバンと繰り広げられ、超絶文系人間な私には難しいディティールも多かったのですが、それでも楽しめました!詳しい理系知識があったら、もっと楽しめたんでしょうねぇ・・・。実は我が家の次男(大学3年)が理系くんなんですが、…

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『トリカゴ』/辻堂ゆめ ◯

無戸籍者という存在については、ニュースなどで少し知っていた程度だったのですが、本書『トリカゴ』を読んで、彼らの直面する様々な障害を知って、胸が痛くなりました。辻堂ゆめさんは、初読みです。読みやすく、とても引き込まれる物語でした。 刑事の里穂子が拘束した殺人未遂の容疑者・ハナは、無戸籍者であった。容疑認否・証拠不十分で釈放されたハナの行方を見届けようとした里穂子は、彼女が所属する無戸籍者コミュニティ『ユートピア』の存在を知る。里穂子はハナとコミュニテイのリーダーであるその兄・リョウが、かつて日本中を騒がせた虐待「鳥籠事件」の被害者ではないかと憶測し、本庁の未解決事件担当の羽山と共に、ユートピア・鳥籠事件・その後に起きた事件被害児の誘拐の調査を始める。頑なに調査を拒否するリョウ、15人ものコミュニティメンバーそれぞれの事情と感情、少しずつ明らかになる「鳥籠事件被害児の誘拐」の真相、ハナとリョウの正体、無戸籍者に対する日本のサポート体制の弱さ・・・、様々なエピソードが絡み合い、色々と考えさせられました。 無戸籍者が通常の生活を送れるようになる手続きには、いくつもの障害があるし、役所の担当者ですら勘違いをしていることもある。作中の無戸籍者支援をする都議会議員・園村のような人が実際にいたとしても、すべての人まで手が回るわけではない。戸籍は難しくとも、住民票なら取れると言っても、無戸籍で生きてきた人々がそこまでたどり着くのはかなり困難なことだと思います。そして、住民票が取れて健康保険や子供の義務教育が受け…

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『マイクロスパイ・アンサンブル』/伊坂幸太郎 ◯

本作『マイクロスパイ・アンサンブル』は猪苗代で行われた音楽フェスの手土産用に描かれた短編を集めた1冊だ、という情報だけは入っている状態で、読みました。伊坂幸太郎さんらしい、軽妙な会話とスピード感ある展開、エピソード同士の意外な繋がり方、非常に楽しめました。 ただ・・・・とにかくやたら歌の歌詞が太字で物語に入ってくるのだけど、残念ながら全然知らない曲なので、今ひとつ世界観への共鳴がなくて。「たぶん、フェスのテーマ曲なのかな~」と思っていると、どうも曲の数も多いような。基本的に「あとがき」は物語を読了してから読むようにしてるんですが、どうにも訳が分からず我慢ならなくなって「あとがき」に目を通してやっと、「Theピーズ」「TOMOVSKY」というアーティストの楽曲を使用していたことを知りました。・・・すみません、どっちも知りません。J-POPというか音楽全般に疎いので、メジャーなアーティストなのかどうかもわかりません・・・。ファンの方、ごめんなさい。 物語は、「失恋の男」と「任務の男」の、全く違う2つのパートが交互に語られていきます。失恋の男・松嶋は、失恋の後社会人になり、会社員として色々な出来事に出会っていく。任務の男は、どうも現実世界とはちょっと違う世界線で、スパイとして活動している。最初はエージェント・ハルト視点だったけれど、途中からハルトが任務中に偶然いじめから救出した少年(訓練を受けて彼もスパイになる)に切り替わる。 読むうちに、スパイたちの世界は虫を改造して乗り物にするような、「ナ…

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『27000冊ガーデン』/大崎梢 ◎

公立高校の図書室司書の駒子が、図書室に持ち込まれる様々な謎を書籍納入書店の針谷とともに解いていく、大崎梢さん得意の書籍関連業界ミステリー。タイトルの『27000冊ガーデン』は、高校図書室の平均的な蔵書数が2万7千冊であることから、つけられたもの。27000冊もある書籍が美しい庭園のように広がる図書室、思春期の高校生たちが本との良いめぐり逢いをして欲しいと、私も願っています。 といいつつ、私は高校時代はあまり学校図書館室を利用してなかったです。中学までは学校図書室で借りてきた小説を読んだり、読書部に入ったりしてたんですが、高校の図書室に行ってびっくり。「小説じゃなくて、勉強の本ばっかり!!」と。学校の図書室を利用するのは、レポートなどの調べ物があるときだけになり、小説類は通学途中にある公立図書館のほうが充実していたので、そちらを利用してばかりいました。あと、この物語のようにアットホームな雰囲気じゃなかったんですよね、学校図書室。30年以上前のことだから、時代かなぁ(笑)。そういう意味では、駒子のいる戸代原高校の生徒たちが羨ましかったですね。 大崎さんは今までも、本屋・出版社・図書館(本バス・移動図書館)などを描いてきたけど、今度の舞台は公立高校の図書室。深刻な謎もあるものの、解き明かされたあとはほのぼのと心温まる心地になれました。基本的に悪い人や悪辣な犯罪はでてこないので、安心して読める短編集でしたね。まあ、ちょっと〈優しい世界〉がすぎるかな~、読書好きが必ずしもいい人ばっかりではないし、謎に関…

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『ボタニカ』/朝井まかて △

前回読んだ同じ著者の朝井まかてさんの『類』と同じく、「実在の人物を非常に詳しく描き、その功績や周りの人物たちとの関わりを丁寧に記した物語ではあるものの、〈私の個人的な趣向として合わない〉」物語でした・・・残念。牧野富太郎といえば、2023年のNHK朝ドラの主人公で非常にタイムリーであるし、我が高知(少女期3年半住んでいただけ(笑))の誇る、偉人でもあります。だが・・・、だがしかし、ここまで〈ダメな人〉だったとは、知らなかったですよ。結構ショックです。幕末・明治・大正・昭和の植物研究を牽引し、多大な業績を残した牧野富太郎博士を描く『ボタニカ』、私的に好みではなかっただけで、物語としてそして実在の人物の姿を伝えるものとしては、素晴らしかったんだと思います。 読み初めの頃は、「そうながよ、高知は「坂本龍馬」「板垣退助」だけじゃないがよ、「牧野富太郎」も高知県(土佐)の誇る偉人ながよ!」と、意気揚々と読んでたんですよ・・・。旧制中学も「学ぶものなし」と自主退学、佐川村での植物学研究に勤しみ家業にもつかず、採集と研究の日々に明け暮れている様子も、「まぁ~、ボンボンだし、仕方ないなぁ。お金があってそれを学問に使えて、日本の知識教養の発展につながるなら、素晴らしいことだな~」なんてのんきに読めてたんですけどね~。従姉妹の猶を嫁に取り、東京との行き来をし始めたあたりから「ちょっと、ワガママが過ぎんか?」という感想が頭をもたげ始めたわけですよ。そうこうするうちに、東京で一回り以上歳下のスエを妊娠させてしまい、本宅…

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