『天使〈闇の西洋絵画史(6)〉』/山田五郎 ◯

You Tube「山田五郎 オトナの教養講座」で、絵画鑑賞初心者の私にもわかりやすく面白い絵画解説をしている、山田五郎さん。本書『天使〈闇の西洋絵画史(6)〉』は、全10冊からなる〈闇の西洋絵画史〉シリーズの6冊目。〈闇の西洋絵画史〉と銘打ったこのシリーズですが、後半5冊の装丁は白。〈白の闇〉ということだそうですよ。シリーズ1冊目の〈悪魔〉と対になる本書、私が今まで「天使」だと思っていた存在を詳しく解説されていて、非常に勉強になりました。 天使とキューピッドが違うなんて、五郎さんのYou Tube見るまで、知りませんでした。キューピッドは、ギリシャ神話ではエロスでローマ神話ではクピドあるいはアモル、区別は場面(ヴィーナスと一緒にいる)や持物(弓矢)で見分けるんだそうです。これからは、天使はエンジェルで弓矢は持ってない、ってことで判断できるようになりました。生きていく上で役に立つ知識ではないんですが、教養として覚えておきたいと思います(笑)。 あと、ミカエル・ガブリエル・ウリエル・ラファエルって、大天使だから偉いのかと思ってたら、違うんですね~。天使の階級が9段階あるうちの、下から2番めだったなんて!地上派遣部隊の指揮官ということで、人間とのやり取りや神意の遂行を行うから、人間からしたら身近で絵画や物語によく出てくるので、個別の名前まで浸透してるんですねぇ。いやいや、知らなかったですよ~。 「上級天使」「聖母と天使」「キリストと天使」「人と天使」「奏楽の天使」の5章に渡って、様々な天使の絵画が…

続きを読む

『「山田五郎 オトナの教養講座」世界一やばい西洋絵画の見方入門 』/山田五郎 ◎

You Tube「山田五郎 オトナの教養講座」で、毎回楽しい絵画解説を視聴してます。絵画鑑賞初心者で教養のかなり足りてないワタクシでも楽しくわかりやすい内容、山田五郎さんのニヤニヤしちゃうようなセンスのいい言葉選び、非常にレベルの高い動画なんですよね。その動画の2021年アップ分を書籍にした本書『「山田五郎 オトナの教養講座」世界一やばい西洋絵画の見方入門』。動画はもちろんいいんですけど、自分のペースで鑑賞できるという意味で、本書もすごく楽しめました!! 最初に「早わかり西洋美術史年表」とか、ルネサンスとか印象主義とかの各芸術流派(風潮?)の「ざっくり人物相関図」があり、美術(芸術)の素養がない私にも西洋美術の全体像がわかりやすくて、とても助かりました。ていうか、バロック絵画界のカラヴァッジョ、影響を与えたり逃走を支援されたり、中心に居すぎ(笑)。まあ、非常に無茶苦茶な人生送った人だからなぁ・・というのも、五郎さんのYou Tubeで知りましたよ。傷害・公務執行妨害・家賃滞納から侮辱罪、果ては殺人。とんでもねぇな・・・。 たくさん紹介されてる中でも、やっぱり一番好きなのはボスですねぇ(笑)。《快楽の園》の地獄の帝王が、頭にお鍋を被ってごきげんに人間を丸呑みしてるの、本当に可愛いよ(笑)。地獄なのに、ゆるふわな怪物がウロウロしてて、なんだか微笑ましい。色合いもポップで楽しそう。《快楽の園》はキリスト教三連祭壇画なんだけど、それを閉じたときの扉に描かれている単色の「天地創造図」も、シンプルで幽玄な…

続きを読む

『休館日の彼女たち』/八木詠美 ◎

冷凍食品倉庫で働くホリウチリカのアルバイトは、博物館のヴィーナス像の話し相手。恐る恐る新しい職場を訪れたリカを、ヴィーナスは「ホーラと呼んでいいかしら?」と迎え入れる。台座の上で美しくS字に身をくねらせた姿勢のまま、表情筋だけを動かしながら。新聞の書評を見て「これは面白そう!」と読むことを決めた、八木詠美さんの『休館日の彼女たち』。ワクワクドキドキするような直接的な面白さではなく、大理石のヴィーナスと人とは少し違うリカの交流がゆったりと流れていく様子が、しみじみと面白かったです。 リカは、「他人の目には見えない黄色いレインコート」を常に着ている。多分、そのレインコートは「他者から自分を守るための鎧」なんだろうなと思いました。リカの外界への恐怖心によっては、厚みを増したり、丈が長くなったり。心理的なものでもあるにも関わらず、夏場はその下に汗疹ができるし、首まで引き上げられたファスナーで息苦しくなったりすらするような、〈リカの生き辛さ〉を表すもの。リカのアパートの隣の部屋に住む男の子には、誰しもが似たようなものを程度の差はかなりあるけれど身につけているのが見えるという。思わず、私は何を身に着けているだろうか・・と気になりましたね。そんなに〈生き辛さ〉は感じてないけど、ありのままの自分を世界に晒せるとは、到底思えないし。あまり分厚い鎧ではないといいな、身軽だけど急所はガードしてくれるものだといいな、なんて思ってしまいました。 何千年も生きて(?)きたヴィーナスとリカの、品のいい温かい交流。冷凍食品倉…

続きを読む

『もう別れてもいいですか』/垣谷美雨 ◎

垣谷美雨さんの作品って、身につまされすぎて、胃が痛くなるんですよ、読んでて。まあ『もう別れてもいいですか』なんて、タイトルからして「うわぁ・・・」ってなっちゃう。私も身に覚えがある状況が次々出てきて、胃も胸も痛かったです。それでも、私よりはちょっと上だけどほぼ同年代の主人公・澄子が、どうやってその状況を乗り切っていくのか、自分自身を納得させていくのか、気になって気になって、かなりすごい勢いで読んでしまいました。 もうすぐ定年(その後5年ぐらいは嘱託で働いてほしい)の夫は男尊女卑が酷く、妻を都合のいい下女としか考えていない。キャバクラ通いをし、キャッシングに手を出したことすらある。澄子だってフルタイムのパートで働いているのに見下して、家事も近所付き合いもしないどころか、休日はソファに転がってちょっと手の届かない場所(でも同じ部屋の中)のTVのリモコンすら、取れと呼びつける始末。そんな夫が嫌いで嫌いで、一緒にいるだけで動悸がして閉所恐怖症のような症状が出る澄子。だけど、離婚したら経済的に生活していけない、世間体の悪い噂が流れる・・・と躊躇している。 うわぁ・・・。確かに、ウチの夫は、そこまで酷くはない。でも、本人は「自分は男尊女卑なんかしない、リベラルな人間だ」と思ってるみたいだけど、私が頼まなきゃ家事もしないし、近所付き合いだってしない。私に興味もないし、家事と育児と面倒事を片付ける人材だと当たり前のように思ってる気がする。・・・私も、離婚したほうがいいのかしら(笑)。う~ん、いや、まだそこまで…

続きを読む

『鉄鼠の檻』/京極夏彦 ◎

「分冊版だと、予約冊数の上限に引っかかるから、愛蔵版1冊で予約しよう~っと♪」なんて、よく考えずに図書館の貸出予約を入れた私が、馬鹿でした・・・。受け取りに行って、カウンターの職員さんが持ってきた本を見て、「箱?!」と、膝から崩れ落ちそうになりました。厚さ6.5cm、重量1.2kg、ページ数にして1344ページ。そりゃね、京極夏彦さんの作品は、〈読む鈍器〉とか〈神をも恐れぬ製本〉とか言われてますよ?にしたって、こりゃないわ(笑)。いや、目の前にあるんだけど。もっと凄いのもあるのかもしれませんが、今まで私が出会ってきた本の中では、最高レベルの製本でした。〈百鬼夜行シリーズ〉の4作目、『鉄鼠の檻』。製本も最高レベルでしたが、もちろん内容のレベルの高さも半端なかったです!!(※図書館で借りてきたのは愛蔵版ですが、楽天でもアマゾンでも検索して出てこないため、このレビューでの書影は文庫版にしました) 読んでも、読んでも、進んだ気がしない(笑)。何日かかったんだろう・・・確実に、半月以上かかってるよ・・・。それでも最後の数日は、ストーリーが気になって気になって、私まで〈檻〉に閉じ込められたように、むさぼり読んでいました。 箱根山中、どの寺社系統にも所属しない、謎の寺院・明慧寺。取材に向かった中禅寺敦子(京極堂の妹)とカストリ記者の鳥口は、その明慧寺の近くにある旅館・仙石楼で『姑獲鳥の夏』に登場した医者・久遠寺と再会する。仙石楼には明慧寺の僧侶・小坂了念に取引で呼ばれた古物商・今川も、滞在していた。仙石楼で…

続きを読む

『蟲』/坂東眞砂子 ◯

読み始めはそんなに怖くないと思っていたのだけど、読み進め、読了し、レビュー書こうと思い起こすと、じわじわと恐怖と嫌悪が押し寄せてきますよ、坂東眞砂子さん!!まあね、タイトルが『蟲』ですよ。〈虫〉が3つも集まって出来上がる漢字、〈蟲〉。普通の昆虫じゃなくて、〈この世のものならざる存在〉的なイメージありますよね・・・。やっぱり坂東さんの〈土着民俗学系ホラー〉は、怖い! 夫が拾ってきた、奇妙な石の器。その日から夫の様子がおかしい。石が置かれた場所のそばの電気機器が、次々と故障していく。妊娠を機に退職しためぐみは、亡くなっている祖母の「ムシガオキタ」の呟きを幻聴し、だんだんと身の回りに起きる不可思議な現象に翻弄されていく。屋内庭園の橘の木の前で佇む夫から、巨大な虫が這いずり出てくるのを幻視しためぐみは、昏倒し、流産してしまう。石に刻まれた「常世蟲」の文字と、「虫送り」の夢、祖母のルーツ。夫だけではなく、自分の身にも蟲がいる事に気づいためぐみは、虫送りをせねばと橘の木に向かうが・・・。 ・・・いや、もう手遅れだし。我が身に火を付け虫送りをしようとしためぐみの体から出てきた巨大な蛹は、あっさりと羽化して、巨大な蛾となる。蛾は、その場に居た人々にいくつもの卵を託し、飛び立っていった。しかも、人々は「虫送りをするのだ」と言って、めぐみの体に火をつける。ここで、一つ疑問。めぐみの体には、常世神である巨大蛾以外の虫も居たというのだろうか・・・?常世神信仰では、虫を崇めていたのではなかったのか?めぐみの祖母のルーツ…

続きを読む