『美童〈闇の西洋絵画史(7)〉』/山田五郎 ◯

You Tube「山田五郎 オトナの教養講座」で、絵画鑑賞初心者の私にもわかりやすく面白い絵画解説をしている、山田五郎さん。本書『美童〈闇の西洋絵画史(7)〉』は、全10冊からなる〈闇の西洋絵画史〉シリーズの7冊目。シリーズ前半の『魔性〈闇の西洋絵画史(2)〉』と対になる本作では、これでもかというくらい美しい少年・青年の絵画が紹介されるのですが・・・。 大変残念なことに、ワタクシに〈美童を愛でる感性〉が足りませんでした(笑)。つややかな白皙の顔貌にかかる柔らかな髪、見る者を誘うかのような眼差し、己の肉体の美をさり気なく誇張するポーズ、好きな人にはたまらないのでしょうが、私的には「へぇ・・・」で終わっちゃうという。 特に、成熟しきらない裸体の少年を見てしまうと「いやアンタ、寒かろう?」と毛布をかけてやりたくなってしまい、「私、オカンかよ・・・」と自らにツッコミを入れてしまいました。いやだって、ホント寒そうなんだもん。背景を暗くして体の白さを強調しようとしてるんだけど、それがまあ寒々としてるんですよねぇ。それと、〈美少年と死〉というテーマが鑑賞者をそそるんでしょうか、刹那的な美しさではあるものの、やっぱり寒いんですわ(笑)。 究極に寒そう(笑)なのが、ジャン・デルヴィルの《オルフェウスの死》。まあ、もう死んでますからねぇ。竪琴に乗せられて川を流れながら、歌う生首・・・。青い川面に灰色がかった顔色の美青年の首は、アカンて。見てるこっちが、凍えそう。 もちろん、着衣の美童もたくさんいるのですが、ど…

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『あの本は読まれているか』/ラーラ・プレスコット ◯

・・・海外作品って、登場人物の名前がカタカナで覚えにくいんだよなぁ(笑)。更に、本作『あの本は読まれているか』は、登場人物の数が多い上に、ソビエト側の人物の名前が馴染みがなくて覚えにくい。そんな部分で、非常に苦戦しました(笑)。しかも、私『ドクトル・ジバゴ』を読んだことないし、映画も見たことない・・・それでも、問題なく読めましたが。本作がデビュー作にして、出版契約金200万ドル(約2億円)というラーラ・スコットさん。あの時代かの国々の市井に生きる人々の様子が丁寧に描かれ、彼らが時代や体制や社会的偏見に翻弄されるさまを読んでいると、息が苦しくなりそうでした。 米ソ冷戦中、アメリカCIAの女性タイピストたちはあらゆる作戦の背後にありながら、地位は低かった。その中には、「特別な任務」に着く者がいることもあった。ソビエトでは、著名な作家・パステルナークを支え続ける女性・オリガが、強制収容所に収監・解放されてもなお、彼の作品を国内で出版するために奔走する。パステルナークが原稿を海外出版社に渡したことから、彼やオリガたちへの弾圧が度を強めていく。一つの物語がソビエトの体制を揺るがす武器としてCIAに選ばれ、その作戦のために奔走した人々を描く。 第2次世界対戦中アメリカの諜報機関で活躍した女性であっても、平時ともなればタイピストとして地位の低さに甘んじなければならなかったこと。そのタイピストですら、職があるだけマシであったこと。また、ソビエト共産主義社会にあっては、国家の意思に逸れるものを管理するために関係…

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『殺戮の狂詩曲』/中山七里 ◯

〈悪辣弁護士・御子柴礼司〉シリーズの第6作目『殺戮の狂詩曲』は、老人介護施設の介護職員による大量殺人によって幕を開ける。・・・これは、かなりショッキング。数年前に起きた、障害者施設の職員による同様の事件を思い起こさせる。そんな殺人容疑者の国選弁護人を引き受けたのは、かつて〈死体配達人〉として日本中を震撼させ、医療少年院を出た後に弁護士となった、御子柴礼司であった。中山七里さんのこのシリーズをずっと読んできましたが、今回ほど「なぜ御子柴がこの件の弁護を引き受けたのか」「それは御子柴にとってどんな意味やメリットがあるのか」がわからない作品は、初めてでした。 容疑者・忍野は、自分が行った行為に対し「生産性のない老人を始末することは国益であり、厄介払いしたい家族にとっての救いのはずだ、それは絶対に理解される」と豪語する。計画的な犯行、冷徹に老人たちを殺していくさま、捕まった後も一切の後悔なく自己の論理を振りかざし、精神鑑定による責任能力にも問題はないと判断された忍野。御子柴は、被害者の家族を訪問し被害者の人となりを聞き集め、誰にも明かさず裁判の流れを有利な方向へ変えるための情報を手探りしながら集める。裁判が開始され、9人の被害者の家族による「被害者参加人の質問」が繰り広げられ、忍野の犯行の残虐さ、それに対する被害者家族の感情、裁判員や裁判官にますます強い印象を与えていく。 書籍の2/3を過ぎても、公判前整理手続きすら始まらない。やっと公判そのものが始まったのは、残すところ60ページ弱。読んでいる限り、…

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『処女連祷』/有吉佐和子 ◯

終戦直後の若い女性たちの生き辛さが描かれるけれど、この生き辛さはもしかすると昭和・平成・令和と時代を経て、程度と形を変えながらも現在の女性を蝕んでいるかも知れない・・・なんて感じてしまいました。ブログを始める前に、有吉佐和子さんの作品はいくつか読んだことがありますが、作品のレビューを書くのは初めてですね。『処女連祷』、時代を感じる内容でありながら、現代の私にも鮮烈な痛みを与える物語でした。 女子大学の英文科を卒業した7人が、それぞれの道を進みながら、結婚や処女性、自分たちが感じているステータスと他人(年長者や男たち)から見られる階級のギャップや偏見に悩まされて過ごしている有様が、痛ましいのです。終戦直後で大学卒なら、彼女たちはかなり優秀でかつ家族にもそれなりに認められている、先進的な存在のはず。なのに社会に出れば、結婚しているかしていないか、恋人・婚約者がいるかいないか、美しいかそうでもないか、互いを比べ合い、羨み嫉妬し、消耗していく。 私自身の学生~OL~結婚~出産・・・という生活変化とも時代も違うし、現代でこんなに〈結婚〉でマウントを取り合っていたら白い目で見られるでしょうね。でも、何かとお互いを比べて少しでも優位に立ちたい、安心したい・・という気持ちは、すごくわかるのです。自分に自信がないから、開き直れるほど強くないから、つい〈比べる〉ことに身を任せてしまう。でも、悪意だけでなく連帯感もあるし、思いやりもある・・・そんな複雑さを持っているからこそ、彼女たちは惑うのでしょう。 でも、まさ…

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『さえづちの眼』/澤村伊智 ◎

なぜ、澤村伊智さんのホラーは、毎度のごとく〈夏に読みたかった〉ってなっちゃうんだろう(笑)。図書館へ予約入れたの、文庫版が初刊されてすぐぐらいだったんですけど。読みたい人が、たくさんいるってことですよねぇ・・・。すっかり寒くなってきた今日この頃ではありますが、この本読んでる最中の背筋の冷えは寒さじゃなくて、恐怖の方・・・なのでした。やっぱり、怪異も怖いけど、人間も怖いですねぇ。生半可な力しかない人間が手を出したら、痛い目に遭うということがよくわかってしまう本作、『さえづちの眼』。ホント、澤村さんのホラーは〈理不尽が過ぎる〉から、怖いんですよ・・・。 「母と」共同生活を送る少年少女と管理者。そこに加わった「尾綱瑛子」。比嘉真琴の介入により、事態は解決したけれど。「あの日の光は今も」子供の頃に遭遇したUFO騒動に疲弊する、中年男。彼のもとに訪れた、幼馴染とオカルトライターと料理研究家。騒動の真相は、料理研究家の語ったものだったのだろうか?「さえづちの眼」郊外の裕福な家で、不気味な現象が起こり、一人娘が失踪する。数十年が過ぎ、衰退するその家の中で90歳をゆうに過ぎた老女に、比嘉琴子が突きつけた真実とは。 どの物語についても、挙げればきりがないほどの、恐怖と理不尽が充満しています。それを語り尽くすには、私の文章力が全く足りないので、少しだけ。 「母と」の瑛子は、結局何だったのか。年代も場所も関係なく、子供がたくさんいる場所に少女の姿で現れ、その場の人々を影響力下に置く。心が穏やかになるような何かを与…

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