『財布は踊る』/原田ひ香 ◯
原田ひ香さんは、『三千円の使いかた』や『一橋桐子(76)の犯罪日記』で、身近な〈お金の話〉を軽めの物語にしてくれる作家さん、というイメージがあります。本作『財布は踊る』も、様々な登場人物たちと〈お金〉の問題が読みやすく描かれていて、興味深かったです。
全体を通して、1話目の節約主婦が節約の末に手に入れたヴィトンの財布(イニシャル入り)が、様々な事情でその後の各話の登場人物たちの間を渡っていくという関連があって、ナルホドなぁ、面白い構成だなぁと感心しました。全編を通じてセミナー講師の善財夏美(本名は蛇川茉美)が登場するのですが(名前だけ出てくる章も)、彼女もまた〈お金について詳しい人〉ではなく、成長していくのが良かったですね。彼女が関わることで、それぞれの章の登場人物たちが少しずつ変わったりするけど、メイン主人公というわけではありません。5章それぞれ、ヴィトンの財布が彼らの手に渡り、お金に困って(あるいはトラブルに見舞われて)手放し、本人たちが気が付かないところでそれぞれが関わり合ったりし、そして最後の章で1話目の女性(不動産投資家に成長)の元に現れる、という群像劇・・とも違うけど、面白く読めました。
1話目の節約主婦・みずほが夫のリボ払いの不始末の処理の為メルカリで手放し、2話目の情報商材(マルチ商法)男・文男はそれを購入した末に盗まれ、3話目の株式トレード男・野田は盗んだあとに駅構内でそれを捨て、4話目のセミナー講師・善財が鉄道忘れ物市でゲット、5話目の奨学金返済中コンビ・麻衣子&彩にセミナ…