『望月の烏』/阿部智里 ◯

望月の烏 [ 阿部 智里 ] - 楽天ブックス 阿部智里さんの〈八咫烏世界〉シリーズの第2部4冊目となる本作、『望月の烏』。このシリーズの一番最初も〈后選び〉だったな・・・、再び后選びが描かれるのかと思うと、複雑な気持ちになりますね。シリーズ第1作『烏に単は似合わない』の時代とは、隔世の感があります。きらびやかに競い合いながら、それぞれに成長していく〈后候補〉の姫君たちの個性の美しさ・強さにとても心惹かれた物語でしたが、本作では同じ后選びながら、メインは若き金烏・凪彦の成長と挫折、落女・澄生と博陸候・雪斎(雪哉)の対立。シリーズを読み続けている読者はもう知っている、〈いずれ必ず起きる山内の崩壊〉に対して、どうしていくことが正解なのか・・・。 真赭の薄と澄尾の娘・澄生は、落女(女としての籍を捨てて官吏となった女性)となり、美貌と対応の絶妙さをもって宮中の官吏たちを魅了している。東西南北の重要貴族家から一人ずつ后候補を集めて、后選びをする〈登殿の儀〉。南家からは蛍(皇后内定)、東家からは山吹(側室内定)、北家からは鶴が音(羽母=乳母内定)、西家からは桂の花(立場なし)が選出され、桜花宮で暮らし始めるのだが・・・。 桜花宮での行事の際、目に止まった澄生を召し出した金烏・凪彦は、彼女から「博陸侯・雪斎から上がってくる報告は、宮烏にとって都合よく捻じ曲げられたものである」と聞き、彼女を通して庶民がどう扱われているかを知ることになる。もちろん、雪斎の息のかかった側近たちからの話も聞き、「金烏としてどうあ…

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『殉教〈闇の西洋絵画史(10)〉』/山田五郎 ◯

殉教 (アルケミスト双書 闇の西洋絵画史〈10〉) [ 山田 五郎 ] - 楽天ブックス You Tube「山田五郎 オトナの教養講座」で、絵画鑑賞初心者の私にもわかりやすく面白い絵画解説をしている山田五郎さん。本書『殉教〈闇の西洋絵画史(10)〉』は、全10冊からなる〈闇の西洋絵画史〉シリーズの、堂々最後の10冊目です。シリーズ前半の『横死〈闇の西洋絵画史(5)〉』と対になる、本作。〈横死〉は「非業の死」であり、〈殉教〉は「キリスト教における教義のために甘んじて受け入れる死」であるとすると、明確な対であるというよりは対比なのかしら。 キリスト教にあまり思い入れがないため、本書に取り上げられる絵画に関して今ひとつ関心が持てなかったことを、先に告白しておきます・・・。ごめんなさい、五郎さん・・・。でも、西洋美術の理解には、キリスト教の知識があったほうがより深まるので、ざっくりと読み流しつつも「いろんな拷問方法でなくなった聖人は、その方法に関わる出来事の守護聖人になったりするのね」ということを理解したりはしました。 しかし、殉教というテーマのみで、これだけの数の絵画が取り上げられる(多分これは主要なものであって、もっとたくさんあるんだろうと思います)のですから、「殉教図」から「信じるもののためであれば、苦痛にも耐えられる」ことを教えられた人々がたくさんいた、ということなんでしょうね。逆さ十字、火炙り、煮え湯責め、矢衾、斬首、かなりリアルに描かれるそれらの殉教図。結構エグいんですが・・・。 シリ…

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『コロナ漂流録』/海堂尊 ◯

コロナ漂流録 2022銃弾の行方 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ) [ 海堂 尊 ] - 楽天ブックス 海堂尊さんの前作『コロナ黙示録』・『コロナ狂騒録』に続く3部作の最終巻、『コロナ漂流録』。人類を、恐怖のどん底に叩き落した「Covid-19」のパンデミック。2019年の発生から、いくつもの感染拡大の波が人類を襲い、日本でも感染者数は増え続け、ワクチンが開発されれば推奨派と否定派が争い、治療薬を巡っては製薬会社の補助金詐取疑惑まで発生。今作でも、我々のいる現実世界の出来事を物語に落とし込み、キャラのたった登場人物たちが丁々発止とやり合い、2022年6月~2023年1月という短い間の出来事を、濃密に描き出しています。いやあ・・・毎度のことながら、「これ、大丈夫なの??」と心配したくなるぐらい、現実に沿った出来事や人物を批判たっぷりに描いています。 東城大学医学部付属病院。言わずと知れた、我らが〈桜宮サーガ〉シリーズの主要舞台でもあり、主要登場人物・田口センセ(今や教授)の職場でもある、この病院にある学長室(元病院長室)から、物語は始まります。愚痴外来(不定愁訴外来)室と学長室を取り替えっこしようという、高階学長の申し出に付属してきた、田口センセへの新人指導依頼。現れた新人は〈暴走ラッコ〉と命名された洲崎医師。 ・・・うわぁ、ダメだ(笑)。起こった出来事をかいつまんで書こうとしても、とにかくいろいろな事態が発生し、二つ名持ちの登場人物たちが存分に猛威をふるい、フィクションなのに現実で起…

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『マリエ』/千早茜 ◯

マリエ [ 千早 茜 ] - 楽天ブックス 千早茜さんは、曖昧に揺れ動きながらいつしか芯を見出して、そこへ踏み出していく心情を描くのが、ホントに上手いですねぇ。本作『マリエ』でも、アラフォーの主人公・まりえの、離婚~その後の生活~新しい出会いと迷い~そして心に決めた方向へ踏み出していく様子がつぶさに描かれていました。 ただねぇ・・・、まりえは恵まれてると思うんですよ。本人がちゃんと掴んできたものの結果だから、ずるいということではないんですが。責任はついて回るものの役職にも着いていて、都心で余裕を持って一人で生活できるだけの収入があり、7歳年下の男性と出会って微妙な関係を恋人関係にすることのできる魅力(容姿だけじゃないけど)があり、年齢の離れた話し相手がいたり、婚活をはじめる勇気や思い切りがある・・そんな女性だからこそ、こんなふうに〈オトナの女〉な物語になるというか。アラフィフでしがないパート労働者でただのオバハンな私の、ヒガミかもしれませんけど(笑)。 「恋愛がしたい」という夫と2年掛けて離婚を決心して、新たに生活を始めたまりえ。コロナ禍も波がありつつも少しずつ落ち着きを見せ始めたころ知り合った由井くんとは、自宅で小麦粉料理を教える仲だけど、彼は曖昧な行為を見せながらもそれ以上の関係に踏み込んでくる様子もない。別れた夫から「積み立てていたお金を分けるのを忘れていた」と返されたお金を使ってしまおうと「結婚相談所」に登録して、〈作った自分〉で出会いを繰り返し、由井くんと恋人関係になり、結婚相談所…

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『ペーパー・リリイ』/佐原ひかり ◎

ペーパー・リリイ [ 佐原 ひかり ] - 楽天ブックス 面白かった!!結婚詐欺師のこども・高校生の杏と、その結婚詐欺師に騙された女・キヨエの、ロードノベル。そんな設定からして、面白くないわけがないのですよ。しかも杏は自他ともに認める美少女、キヨエの方はちょっとも野暮ったさがあるものの育ちが良くてお人好し、そんな二人がポンポン言い合いながら旅を続け、途中車を失っても目的地にたどり着くんだから、達成感もありますしね。やってくれますな、佐原ひかりさん!!なかなかに、爽快でしたよ『ペーパー・リリイ』。 表紙イラストの杏とキヨエで、ずっとイメージしながら読んでました。猫っぽいツリ目の二人が手を繋いで、颯爽と駆け抜けながら、いくつものアクシデントに出会う。カッコいい!目的地の〈幻の百合〉が、異界に咲いていたっていうのも、すごく良かったですね。ずっとリアルな旅を続けて来た彼女たちが、ふと現実から逸れてやっと目的にめぐり逢い、そして解散する。そして、家に戻った杏は、詐欺師の叔父・京ちゃんから「キヨエって誰?」と言われるのだ。ひょえぇぇぇ!!!マジか、そこにそんな大逆転(笑)要素があったなんて!エモいとか言ってらんない(笑)。 キヨエこと本名トモコ、騙した額は300万じゃなくて100万、『貰えるもんは貰っとけ』。いやいや、親に大事にされすぎてて野暮ったくて、結婚詐欺師に騙されちゃうようなもっさりした女だと思ってたら、案外としたたかでした(笑)。最後に杏が「いつかどこかで再会したら、トモコと、呼びかける」とい…

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