『老いとお金』/群ようこ ◯(エッセイ)

老いとお金 (角川文庫) [ 群 ようこ ] - 楽天ブックス タイトル『老いとお金』のインパクトがあまりにも強く、書名を知った途端に図書館に予約を入れた本です。群ようこさん群さんの作品は、エッセイも物語もどちらもいくつか読んでいますが、軽い文章で読みやすくて好きですね。自分の身に起こったことを、当時の怒りは上手く薄めながらもしっかりと書き記してくれているのは参考になりましたし、なるほどなぁと関心もしました。 群さん、実家のお母さんと弟さんにたかられて大きな家を一軒建てたのに、その家の鍵を渡してもらえないとか、建てる際の約束を破られたりとか、けっこう酷い目にあっていたんですねぇ。もちろん、弟さん側にも言い分はあるんでしょうが、それにしても弟&母親がケチくさい。「長者番付」に載ったのを嗅ぎつけられて・・という経緯の段階で、警戒して然るべきだったのかも知れませんが、身内となるとなかなか関係を断ち切ることも出来ず、情もあるし・・・ということで、こんな事になってしまったんでしょうね。まあ、私にはそんな大金はないので、こんなことにはならないと思いますが、気をつけなくちゃな~なんて思いました。身内のトラブルは、面倒くさい・・・。 その家のトラブル話が半分ぐらいを占めていたのですが、それ以外は「老後に向けてお金を貯めるより、今の自分を機嫌良く過ごせるようにするため、お金を使う」という話や、作家という職業柄、体と依頼が続く限りは書き続けて収入が得られるという点で、老後を割と楽観されてるようでしたね。 その…

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『禍』/小田雅久仁 ◯

禍 [ 小田 雅久仁 ] - 楽天ブックス 7つの物語、どれもが「あちら側」に堕ちてしまう物語。残念ながら戻ってくることは出来ず、「あちら側で幸せに暮らしました」的なぬるい結末なものは、一つもない。小田雅久仁さんによるこの作品、表紙の描かれる黒くくすんだ(まるで手垢で汚れているかのような色合い・・・)身体の各部位が絡み合ってタイトル『禍』の文字を形成している様子が本当にぴったりで、不気味で悍ましかったです。正直、読後感は良くないです(笑)。 なんせ、7編ともにラストまで来ても救いはほとんどなく、物語の後の世界は絶望的なんだろうな・・という感じがして、読んでいて世界に引き込まれていた身としては、「うえぇぇ・・・」となってしまうのですよ。あちら側に堕ちて、あちら側の法則に則って幸せを感じていたとしても、その先の発展というか広がりが感じられない。まあ。「こちら側」の尺度で測るからかも知れないんですが、幸せのどん詰まりがチラチラと見えているような気がするんですよねぇ。だったら、個々で生きて、嫌なこともあるけど個々でちょっとした喜びとかを感じてるほうがいいんじゃないかって、思っちゃうのですよ。 それと、以前読んだ『残月記』に比べると、ちょっとインパクトが弱いかな~と。短編集だからかも、知れませんが。『残月記』に感じられた、郷愁や哀愁のようなものはあまり感じられなかったです。まあ、私の好みの問題です。そういった情緒的なものに偏らない物語を好む方には、こちらの作品のほうが良い評価が得られるかも知れません。…

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『驚異と怪異 ~想像界の生きものたち~』/国立民俗博学物館(編者:山中由里子) ◯(図録)

驚異と怪異: 想像界の生きものたち - 国立民族学博物館 基本的には物語読みのワタクシですが、書評で見かけて「面白そうかな?」と図書館に予約を入れてみました。国立民族学博物館の山中由里子さんという方が編者となって、2019年の国立民族学博物館での特別展示の際の図録として出したものです。気軽に予約して、受け取りに行ってビックリ。A4サイズ厚さ2センチ強、定価2700円+税、オールカラーではないけれど半分以上がカラーページで、コラムもたくさん。『驚異と怪異 ~想像界の生きものたち~』、思っていた以上のボリュームでした。 世界中の驚異を表現した美術品を、惜しみなく数多く取り上げていますねぇ・・・。年代もかなり古いものから、近現代のものだけでなく、ゲーム「ファイナルファンタジーXV」のクリーチャー造形に至るまで、とにかく幅広い。もちろん、地域もヨーロッパ・北米・アジア・アフリカ・中南米・オセアニア・日本・・・と、余す所なく網羅。 じっくり目を通そうと思ったら、とてつもなく時間がかかる上に情報量が多くて、私の残念な記憶キャパをオーバーしちゃいました(笑)。数多くある中で、気に入った分野は〈幻獣ミイラ〉の項目ですね。実在しない生物のミイラや骨格を作り、保管し、時には展示し曰くを語り・・・。制作者は、これらを作る際にどんなふうに造形を工夫し、来歴や解説を創造したのかと考えると、ワクワクしてしまいます。想像力をフルに使って、「それっぽい」古色蒼然さやおどろおどろしさを盛り込んで・・・。もしかしたら、作ってい…

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『黒鳥の湖』/宇佐美まこと ◯

黒鳥の湖 (祥伝社文庫) [ 宇佐美まこと ] - 楽天ブックス 悪い因果が絡み合いすぎてて、どっと疲れました・・・。イヤミスという感じではなく、少しずつ崩れていく主人公の「幸せの土台の脆さ」がこれでもかと畳み掛けてくる展開が、息苦しかったですねぇ。言ってしまえば、因果応報。安易に走ったが故の、不幸。宇佐美まことさんの作品は今まで読んだことがなかったのですが、なかなかにズッシリ来るものがありましたね。『黒鳥の湖』というタイトルから想像していた、「白鳥の群れの中の唯一の黒鳥の疎外感」ではなく「誰もが黒鳥であった」という物語に、げっそりしてしまいました。 伯父から引き継いだ財産を元に起業して規模拡大し、大手企業へと成長させた、財前彰太。美しい妻と一人娘、社長を務める会社は人材に恵まれ成長している。順風満帆なはずの彼の心をざわつかせるのは、巷を騒がせている「肌身フェチの殺人者」の犯行。調査事務所に勤務していた時代に、とある老人の依頼で探していた誘拐犯の犯行が、それにそっくりなのだ。そして、彰太にはその老人の執念を利用して、自分の伯父を誘拐犯に仕立て上げ殺させた、という誰にも言えない過去があった。あのときの本当の犯人が、時を経てまた同じ犯罪を犯しているのではないか・・・。 18年前の伯父の殺人に関して、たまたま犯人が捕まらなかったから良かったものの、素人の老人が殺人を犯したら簡単に捕まりそうだと思うんですが、そんな雑な計画に賭けるのは、あまりにリスクが高いんじゃないでしょうかね・・・。その点に関して…

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『華竜の宮』(上・下)/上田早夕里 ◎

華竜の宮(上) (ハヤカワ文庫) [ 上田早夕里 ] - 楽天ブックス華竜の宮(下) (ハヤカワ文庫) [ 上田早夕里 ] - 楽天ブックス 上田早夕里さんの、〈オーシャン・クロニクル〉シリーズ。260メートルもの海面上昇が起き、人類が生活できる陸上が激減した世界。少ない陸地と人工海上都市で暮らす「陸上民」と、海上で暮らせるよう、身体改造(遺伝子改造)して作られた「海上民」。群島と化した各国がいくつも集まる汎地域同士が、政治的に争う。タイトル『華竜の宮』が意味するものは、上巻ラストで明らかにされるのですが、いやあ・・・とても面白い作品でした!!このシリーズは、設定がかなりしっかりしていて、SFのサイエンスな部分にはちょっとついていけてない超絶文系人間のワタクシではありますが、それでも楽しんで読めました!すごい!! 海洋公館の外交官・青澄とアシスタント知性体・マキ、とある海上民の船団の長・ツキソメとその魚舟・ユズリハ、海上民から汎アジア政府の高官となったツェン議員、その弟で海上警備隊の隊長・タイフォンとそのアシスタント知性体・燦と魚舟・月牙・・・、様々な立場の登場人物(魚舟も海上民の双子である以上、人物扱いでいいのではと思っています)が、トラブルや政略の攻防の中、いかにしてよりよく生きるかを模索し、厳しく困難の多発する日々を乗り越えていく様子が、複雑にそして丁寧に描かれていきます。 あまりに色々なことが起き、それぞれが駆け引きをし、誰もが納得するような落としどころがない事態をなんとか収めても、…

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