『成瀬は信じた道をいく』/宮島未奈 ◎

成瀬は信じた道をいく [ 宮島 未奈 ] - 楽天ブックス 前作『成瀬は天下を取りにいく』で、私の心をガッツリ掴んだ、真っ直ぐに我が道を貫く少女・成瀬。そんな成瀬の大学入学前後の約1年間を描いた本作『成瀬は信じた道をいく』は非常に魅力的で、読んでいてとても楽しかったです。奇想天外というか、予測不能というか、ホントになんでも前向きに取り組んで、なんというか・・非常に清々しいです。宮島未奈さん、成瀬は素晴らしいキャラクターに育っていますね!ありがとうございます! 本作でも、成瀬に憧れる小学生女子、成瀬父、成瀬のバイト先のスーパーにクレームを入れるお客、成瀬と一緒にびわ湖大津観光大使を務める女の子、そして成瀬の幼馴染・島崎の目線で、成瀬が成し遂げていく様々な出来事が語られていくのですが。・・・みんな、成瀬に感化され魅了されてるなぁ、でもそれは成瀬が真っ直ぐだからなんですよね。 前作の時にも書きましたが、成瀬って本当に思いついたことはなんでも真剣に取り組む。だから、周りはついついそれを応援というか力を貸したくなってしまうし、自分の本心とも向き合って「自分ももっと頑張ってみよう!」って前向きに頑張れてしまう。押しつけがましさは一切なくて、周りの本気を引き出してしまえる魅力が、成瀬にはあるんですよねぇ。 5章ある中で一番好きなのは、本作の集大成といってもいい「探さないでください」なんですが、その前の4章および前作を踏まえてオールキャストで成瀬を追いかける構成なので、別格なんですよね。まあ、タイトルどお…

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『真夜中のたずねびと』/恒川光太郎 ◎

真夜中のたずねびと (新潮文庫) [ 恒川 光太郎 ] - 楽天ブックス 恒川光太郎さんの作品にはいつも、〈見たことがないのに、郷愁を覚える〉世界が広がっています。淋しくて、切なくて、あたたかくて、〈振り返れば、ここではないどこかに吸い込まれてしまう〉かのような感覚を、そっと呼び起こすような。本作『真夜中のたずねびと』も、真夜中の闇にひっそりと佇む5つの物語に、喉の奥が凍るような怖ろしさとほのかな安心感が共存していたように、感じました。 「ずっと昔、あなたと二人で」しゃべれない少女は、占い師の老婆から使命を受ける。「母の肖像」長く音信不通だった母が、探偵を雇って自分を探した理由。「やがて夕暮れが夜に」弟が殺人を犯し、一家離散。姉のもとに〈憎しみ〉を名乗るものが接触してくる。「さまよえる絵描きが、森へ」一人旅の途中で出会った男から、告白文が届く。「真夜中の秘密」とある女と知り合い、彼女の秘密に触れる。再度現れた彼女は、失踪した。 少しだけ重なり合う登場人物、人探し、人の中にわだかまる闇。同じ世界の中で、関わりあう人たち。誰もが、後ろめたい思いを抱えている。希望と失望は背中合わせに存在し、生と死の境界は曖昧になる。それでも、生きることを決めた人たちには、切り開くべき道が見えてくるのでしょう。それは、救いなのか贖罪なのか、後悔なのか願望なのか。登場人物たちが決めることでもあり、読者である私たちがそれぞれに感じ取ることなのかなと思いました。 その観点から考えると、私には「どの物語にも、多少なりとも…

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『七十四秒の旋律と孤独』/久永実木彦 ◎

七十四秒の旋律と孤独 (創元日本SF叢書) [ 久永 実木彦 ] - 楽天ブックス 壮大で、切なくて、でも温かくて、とても素敵な物語でした。宇宙空間でのワープの際、人間には認識できない七十四秒間が発生するという。それを狙って襲い掛かる宇宙海賊に対抗する手段として宇宙船に搭載された人工知性ロボット「マ・フ」たちの、長い長い歴史の物語。久永実木彦さんの描く、彼らの『七十四秒の旋律と孤独』は、美しい旋律と機械同士の過酷な戦いと、そして長い時間の果てに再会したマ・フと人間の互いへの複雑な思いと記憶と創作される歴史の織りなす、見事な物語でした。 最初の章の「七十四秒の旋律と孤独」で、とある宇宙船に搭載された朱鷺型ロボット・紅葉の日々が描かれる。ワープの際の襲撃を防ぐことが彼の仕事だが、幸いにしてそのような事態は起こったことがなかった。だが、とうとうある日襲撃を受け、七十四秒間の死闘を繰り広げ、乗組員と船を守った末に、彼の機能はシャットダウンする。彼の最後の望みは、船に搭乗していたメアリー・ローズの深く澄んだ海王星のブルーの瞳に、自身を映すことであった・・・。乗組員の飼い猫に焦がれ、最後にその目の前で力尽きた紅葉。でも、彼の願いはきっと叶えられたのだろうと思います。そして、彼がそれを純粋に願うことが、機械であるマ・フに与えられる救いであったと思います。機械であっても、心を持ち、求め願い、与えられ救われる。そんな優しい世界が描かれていました。 それに続く「マ・フ クロニクル」の五つの短編。人間が姿を消し、…

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『老人ホテル』/原田ひ香 ○

老人ホテル [ 原田ひ香 ] - 楽天ブックス 原田ひ香さんの作品は、〈お金〉についての物語が多いですね。私がそういう作品に興味があるから、ってのもありますが。長期滞在の老人がたくさんいるビジネスホテル、そこで働く天使(えんじぇる)という名の若い女性が、老人たちから様々なことを学んで底辺生活から抜け出す…という物語。『老人ホテル』というタイトルと、表紙の背中に羽が生えたメイドさん風の女性のイラストから勝手に、素直で純粋な若い女性が、老人たちの知識を学び実践して成長する物語かと思っていましたが、主人公・天使が老人たちとかかわりを持ち始めるまでが結構長かったです(笑)。 TVの人気大家族番組の末っ子だった日村天使(えんじぇる)は、高校を中退し家を出て、その日暮らしに近い生活をしていた。ある日、水商売をしていた頃に出会ったビルオーナー・綾小路光子を見かけ後をつけると、光子が住んでいるらしいホテルには「清掃員募集」の貼り紙があり、天使は光子と再会するためにその職に就くことにする。 生活保護家庭(不正受給か、かなりきわどい計画的な受給)で育ち、なんとなくの生活を続けてきた天使が、光子から〈お金の稼ぎ方〉を学ぶまでが・・・長かったです。ちょっと間延びしてる感も・・・。 まあ、何とか光子とかかわりが持てるようになってからは、話は進みますが。ラストに、光子が息を引き取った後、光子が残したお金を天使が全部ではないにしろ抜き取ったのは・・・どう捉えたらいいのか、わからないんですよねぇ。盗みは悪いことだ!と断罪…

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