『偽恋愛小説家、最後の嘘』/森晶麿 ◯

偽恋愛小説家、最後の嘘【電子書籍】[ 森晶麿 ] - 楽天Kobo電子書籍ストア 美貌の恋愛小説家・夢宮宇多(本人は〈偽恋愛小説家〉と自称)とその担当編集者・月子。前作『俗・偽恋愛小説家』のラストで微妙な関係に進展があったはずだったのに、以来お互いその件には触れず、相変わらずの曖昧な関係が続いている2人。そんななか、月子が担当する恋愛小説家・星寛人が「最高傑作が書けた」とSNSで発表する。出版権を争う各社が編集者を送り込んでいくさなか、星が真夏なのに凍死体として発見される。タイトル『偽恋愛小説家、最後の嘘』の「嘘」とは何か?本作は、森晶麿さんの描く偽恋愛小説家シリーズの完結編・・・になるのかしら?? いやぁ、相変わらず、夢センセがメンドクサイ上に、口が悪い(笑)。おとぎ話への造詣が深く、「世の中に通っている、その物語のふわふわした甘い砂糖がけの部分を引っ剥がして真実に迫る」という手段は、今までの2作同様です。とんでもない美貌に毒舌の拍車がかかり、編集者である月子を翻弄しながら、物語に挟まれる夢センセの新しい原稿で月子にも読者にも推理を促すんだけど・・・私は全然わかってなかったです。ていうかね~、どうも私と夢センセの相性はあまり良くないようで(笑)、二人の関係が曖昧過ぎてイライラしちゃうんですよね~。担当編集者と作家というビジネスな間柄で恋愛関係をはっきりさせるのは、なかなか難しいんでしょうけど。 『雪の女王』は、子供の頃に絵本を読んだことがえったような、なかったような・・・という感じで、メイ…

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『いいからしばらく黙ってろ!』/竹宮ゆゆこ ◯

いいからしばらく黙ってろ! (角川文庫) [ 竹宮 ゆゆこ ] - 楽天ブックス 卒業式の飲み会で、研究室の仲間から「アンタの不幸は甘っちょろすぎる」的なことを言われてトイレで泣いた龍岡富士は、聞き覚えのある気がする小劇団のチラシを見て、衝動的に公演を見に行くことに。そこでトラブルに巻き込まれた富士の運命は、一転する。竹宮ゆゆこさんの『いいからしばらく黙ってろ!』は、気弱な一般人の富士が、キャラの濃い劇団員たちとともに、バーバリアン・スキルという小劇団を立て直す物語。 大学演劇サークルから立ち上げられた小劇団って、星の数ほどあるけど、存続させるための活動費・熱意・スタッフの充実そしてもちろん観客が集まる実力など、様々な条件が必要である。そして、だいたい、とんでもなくキャラが濃くて演劇に対する熱量がすごいんだけど通常人としては、かなり常識をはずれるというかぶっ飛んだ人が多い。本作で富士が所属することになった「バーバリアン・スキル」も、演劇に対する熱量はとんでもないけど、常軌を逸してしまってる主催・南野を中心に、公演に向けての情熱はすごいけど、財政運営に関しては全く配慮がない連中の中にぶち込まれた富士が常識人らしさを発揮して・・・という展開だと思ってたんだけど、これがまた違ったのよ(笑)。 たしかに、富士は上下6歳差ずつの二組の双子に挟まれた真ん中っ子で、両親から兄弟間の調整役を背負わされ、自由気ままに生きる互いに争い合う双子たちに振り回されつつも、「ピンチになればなるほど張り切る」という性質を…

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『ハンチバック』/市川沙央 ◯

ハンチバック [ 市川 沙央 ] - 楽天ブックス 著者である市川沙央さんご本人が「先天性ミオパチー」という筋疾患を患っておられ、人工呼吸器と車椅子を常用されていること。同じ病状を持った主人公・井沢釈華の日々を鮮烈に描く『ハンチバック』は、芥川賞受賞作であること。授賞式で「読書バリアフリーの推進」を訴えたことは、記憶に新しい。 実を言うと、あまりにも話題になったこと、テーマが先天性かつ進行性で治癒できない遺伝子病あること、著者ご本人の病状のインパクトなど、「これは、読んでも感想が難しすぎるわ・・・」と、腰が引けていたのですよね。ですが、「紙の本が好き」という健常者のエモ感覚発言を吹き飛ばすような内容だと聞き、読んでみようという気になりました。 そんな事を言いつつ、私はどちらかと言うとエモ発言派です。電子書籍を否定する気は、全く有りませんが。今年の春、ほぼ初めて〈電子書籍での読書〉をしたのですが、「読むのに支障はないが、確認のための流し読みがしにくい」とか「左右の厚みの差で、読書の進行度を意識してたのか~」とか、直感的な点でちょっと使いづらいと感じてしまったんですよね。あと、今のところ(私が利用できる)図書館で借りられるのは紙の本のみであることも、読みたい本が多すぎる私にとって経済的に「紙の本」がありがたい、って面もあったりして。でも、文中で釈華が言う「健常性を満たすことを要求する読書文化のマチズモ」には薄々気付いていて、釈華の言葉に頭をぶん殴られた気がします。わかっていたけど、もっと切実に求…

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『学園キノ6』/時雨沢恵一 ○

学園キノ 6 - トップカルチャーnetクラブそういえば、久しく〈キノの旅 シリーズ〉の『学園キノ』を読んでないな~と思ったら、なんと2012年に読んで以来の、かなりのご無沙汰でございました。そして、図書館で受け取った本書『学園キノ6』の表紙をボケーっと見ながら「なんか、違和感???」ってアタマにクエスチョンマークが浮かびました。そう、表紙にいるのは「木乃」ではなく「キノ」なのです。どうしてなの、時雨沢恵一さん!! その謎は、本編が終了してから描かれる、特別エピソードで明らかになります。とりあえず、本編は後回しにして、このエピソードからレビューしていきましょうか。 木乃がふと気づくと、二輪車エルメスに乗っていて、出で立ちは『キノの旅』のキノのスタイル。だけど自我は、「木乃=謎の美少女ガンファイターライダー・キノ」のまま。食べるものを探して走行中に、型の古いバギーを運転している静先輩と遭遇するのですが、その出で立ちはシズ様であり、助手席には真っ白な喋るサモエド・陸(中身は犬山わんわん陸太郎)。お互い「コレは夢なんだ」と思いつつ、とある国に到着。国の女王の肖像画には、茶子先生。食べ物を求めて国の中を進んでいた木乃は、さくらという少女と知り合い、彼女の案内で美味しい食事をあちこちで大量に食べ、いろいろな人を見かけ、とてもいい気分で過ごすのだけど、「夢から起きようと思う」とさくらに別れを告げる・・・ 最初は、このエピソードなんだろ?と思ってたんですが、木乃が見かけた人々は、『キノの旅』に登場した…

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『火星ダーク・バラード』/上田早夕里 ◯

火星ダーク・バラード (ハルキ文庫) [ 上田早夕里 ] - 楽天ブックス 〈オーシャン・クロニクル シリーズ〉を始めとする上田早夕里さんの作品の世界観は、美しいSFと繊細なファンタジーに彩られているものだと思ってたら、本作『火星ダーク・バラード』はかなりハードボイルドでしたね。火星の警察官・水島を主人公に、遺伝子操作で生まれた強い共感能力を持つ〈プログレッシヴ〉の少女・アデリーンを巡る攻防戦が繰り広げられ、後半は特にアデリーンのサイキック能力の暴走からコントロール、タフではあるけれど普通の人間の水島が追い詰められていく様子、息詰まるような展開でした。 火星の渓谷に天蓋をかぶせ、その中を人間に適応した環境に作り変えることで居住を可能にし、天蓋と天蓋をチューブ交通網で繋いで行き来可能にしたという、壮大な都市計画が進み、次は木星へ人類進出・・という過程で、身体能力と知能が高く、共感力が高いことで互いに争うようなこともしない人類=〈プログレッシヴ〉が密かに産み出されていた。能力は高いものの、コントロールがまだ不安定だったアデリーンが引き起こした列車事故、その列車で護送していた凶暴な殺人犯を取り逃した上に、同僚殺害の疑惑をかけれた水島は、真実を探し当てるために個人捜査を突き進める中で、バディに裏切られ、死亡した同僚の恋人・ユ・ギヒョンに捕まったあと彼に情報を託して逃亡、その後プログレッシヴの存在を隠しておきたい研究組織(バックには火星政府)に急かされた警察に捕まってしまう。拷問のような取り調べの最中、…

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『七人怪談』/三津田信三 編(アンソロジー) 〇

七人怪談 [ 三津田 信三 ] - 楽天ブックス水無月・R的〈土着民俗系ホラーミステリー〉の最高峰と思っている三津田信三さんが編者となって、それぞれの著者に見合ったお題を提示して「最も怖いと思う怪談を書いてください」と依頼して、仕上がった本書『七人怪談』。おなじみの作家さんもいれば、名前は知ってるけど読んだことない方、名前も全く知らなかった方、色々でした。そして、まだまだ暑い8月の末を、見事に〈怪談の祭典〉に変えてくれました。やっぱり夏はホラーですよね~(笑)。 「サヤさん」/澤村伊智 霊能者怪談嘘の投稿だったのに、その霊能者を知っている人々が続々と現れる。「貝田川」/加門七海 実話系怪談実話じゃなくていいのだ。かつて訪れた神社の近辺の写真。年月を経てその画像は・・・。「燃頭のいた町」/名梁和泉 異界系怪談小学生の頃に流行った地域での怪異の噂。大人になって紛れ込んだ場所。「旅の武士」/菊地秀行 時代劇怪談旅を続ける武士。彼の行跡には幾つもの死が。藩に戻り、不可思議な形で、復讐を遂げる。「魔々」/霧島ケイ 民俗学怪談亡くなった祖母の家に仮住まいした私が、壁に隠された屋根裏に見付けてしまったもの。「会社奇譚」/福澤徹三 会社系怪談著者本人の、職務遍歴。全部怪談に繋がるって・・・。「何も無い家」/三津田信三 建物系怪談三津田さんじゃない作家が、実家を訪れた際に体験したこと。 それぞれ味わいが違う怪談でした。やっぱり澤村さんは、怖いよね(笑)。「作り話」→「都市伝説化」→「実在?悪ノリ?」→「作り話の…

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