『丸の内魔法少女ミラクリーナ』/村田沙耶香 ◎

丸の内魔法少女ミラクリーナ (角川文庫) [ 村田 沙耶香 ] - 楽天ブックス 『丸の内魔法少女ミラクリーナ』ってタイトルが、すごいインパクトですよね(笑)。シゴデキ(仕事のできる)なアラサー丸の内OLが魔法少女って、年齢的にどうなのよ?とか、そういうことはどうでもいいのですよ。村田沙耶香さんの描く、軽やかな中にもなにか不穏なものも感じる4つの短編、面白かったです! 36歳になる茅ヶ崎リナは、〈魔法のコンパクトで変身する「魔法少女ミラクリーナ」〉という設定で仕事の難題も軽やかに乗り越える、丸の内OL。小学校からの親友・レイコがモラハラ彼氏に別れを切り出したら、何故かそのモラハラ男と東京駅で魔法少女ごっこ(パトロール)をする事になってしまう。・・・結局、モラハラ男はレイコから〈偽の魔法少女〉だと判定され追いやられ、一時期ミラクリーナをやめてしまっていたリナに新しいコンパクトがレイコから渡される。 タイトルで魔法少女ファンタジーかと思いきや、現実の話だった表題作。モラハラ男とパトロールしてる流れで、パトロールがモラハラ男の欲求不満解消になっていくのが気分悪くて、(この話、どうなっちゃうの・・・)と不安でしたが、レイコの目が覚めてぶちのめして関係終了、ってことになってホントに良かったですよ。そして自分の中で〈ファンタジーな設定〉を作る処世術って、アリかもしれないと思いました。自分にエンジンかけられる設定、私も持ちたいな~なんてね。 表題作「魔法少女ミラクリーナ」と初恋の男の子を監禁する「秘密の…

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『了巷説百物語』/京極夏彦 ◎

了巷説百物語(7) [ 京極 夏彦 ] - 楽天ブックス いやぁ・・・、今回も、「鈍器な製本」でしたねぇ、京極夏彦さん。毎度ながら〈巷説百物語 シリーズ〉の分厚さ・重さに驚愕。そして、図書館の返却期限ギリギリ(次の予約待ちの人がいるので延長できない)に休日返上で残り1/3をなんとか読み切ったという・・・。そんな駆け足の読書で、やはりこのシリーズの重厚さには大変苦戦しました。次々出てくる化け物遣いたち、歴史に実在する重要人物たち、江戸末期に起こった様々な事件。『了巷説百物語』というタイトル通り、このシリーズが終わるにふさわしい〈大仕掛け〉の物語でした。 総州の狐釣り・稲荷藤兵衛(とうかとうべえ)は、看板は掲げぬながらも「どんな嘘も見抜く〈洞観屋(とうかんや)〉」の稼業も持っている。そんな藤兵衛にある日〈依頼主は老中首座水野越前守〉である、という洞観の依頼が入る。水野の改革を邪魔立てする〈化け物を操り人心を誑かす者共〉をあぶり出して欲しい、というのである。依頼を受け江戸に入り、黒部の猿・源助と猫絵のお玉という2人を仲間にし、調べを進めた藤兵衛の前に現れたのは、〈御行の又市の一味〉たちであった・・・。又市一味を水野に指し、一旦はその洞観仕事も終わったかと見えたが。少々の時を経て藤兵衛は、今や江戸一いや日の本一の両替商である福乃屋から「店や寮に現れる化け物をどうにかして欲しい」という依頼を受ける。化け物は人為であると既に中野の晴明神社の憑き物落とし・中禅寺が見抜いているのだが、相変わらず化け物は出没す…

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『美月の残香』/上田早夕里 ◯

美月の残香【電子書籍】[ 上田早夕里 ] - 楽天Kobo電子書籍ストア 私が今まで読んできた上田早夕里さんの作品は、美しいSFと繊細なファンタジーの融合、或いはSF色が強いハードボイルドだったのですが、本書『美月の残香』はまた違った方向性でした。SF要素もファンタジー要素も全く無く、現代の現実的な人間関係(執着)を双子同士の夫婦を通して描く物語でした。 一卵性双生児同士で結婚した、美月・遥花姉妹と真也・雄也たち。ある日姉の美月が失踪し、その夫である真也は、妻の香りがないと眠れなくなる。双子なのだから体の香りもにているだろう、美月のオーダーした香水を身につけてくれと頼まれた遥花は、義兄の執着に翻弄されるようになる。 私は双子ではないので、彼女らの「同一視されることへの葛藤」や「一緒にいたいという感覚(執着)」は、よくわかりません。それと、美月の失踪後の真也の執着ぶりにも、なんとなく違和感が。その違和感は、私の情の薄さのせいなのかもしれませんが。 美月の失踪の理由がミステリーになるのかと思いきやそうではなく、一卵性双生児は別人格なのに同一視することの危険性の話でもなく、ただひたすらに「遥花がつければ、香水をつけた美月の香りになるように調整された香水」を遥花につけさせようと執着する真也、それを拒みつつも迷う遥花、という構図を延々と描いた末に、美月の遺体が発見されるというラストを迎える。多分、連続殺人に巻き込まれた美月だけど、それに関して解決は描かれず、運悪く事件にあってしまっただけ・・みたいな…

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『図書館のお夜食』/原田ひ香 △

図書館のお夜食 (一般書 428) [ 原田 ひ香 ] - 楽天ブックス 亡くなった作家の蔵書だけを収蔵していて夜の間だけ開館している図書館、そこで働く人々にはそれぞれに事情がある。併設されるカフェで提供されるまかないは、書籍の中に出てくるお料理。心惹かれる設定のはずだったのですが・・・原田ひ香さん、ごめんなさい。『夜の図書館』、ちょっと物足りなかったです・・・。 新たにその図書館の職員になった樋口乙葉をはじめ、元は書店員や図書館員、古書店員などで、それぞれ事情あってその職を離れる人をオーナーはスカウトしてくる。オーナーは姿を見せず、面接なども画像オフにしボイスチェンジャーを使用したズーム、元警察官の〈図書館探偵〉を雇っていたり、図書館であるビル以外にも倉庫を持っていたり、図書館の裏に寮があったりと、入館料や寄付では賄えないだろう運営費用の出所は謎。 各章で、ちょっとした事件が起こり、職員たちの努力や推理で問題が解決し、まかないで美味しいご飯が出てきて・・・なんだけど、なんか上手く噛み合ってないんですよねぇ。タイトルになってる割には、まかないの描写があっさりしてるし、それが事件解決の糸口になってるわけでもない。起こる事件も、上手く解決してスッキリって感じじゃないし・・・。職員たちそれぞれの事情も、あまり深く掘り下げられるわけでもなく、今ひとつよくわからない。 そうこうするうちに、図書館内で蔵書印のない書籍が発見され、調査と推理の末に一人の利用者が「自分の書籍を置いた」と白状する。その老女は…

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『プラチナハーケン 1980』/海堂尊 ◯

プラチナハーケン1980 [ 海堂 尊 ] - 楽天ブックス 『ブラックペアン 1988』で、〈オペ室の悪魔〉と呼ばれ佐伯外科教室の獅子身中の虫として牙を剥き、そして真実を知ることになった〈渡海征司郎〉という男の、若き日々を描く『プラチナハーケン 1980』。佐伯教授と渡海の父の間にあった出来事はなんとなく覚えてたものの、詳細が抜け落ちている状態で読んでしまいました。本作は、海堂尊さんの〈桜宮サーガ シリーズ〉の原点となる作品だと思われます。 東城大学医学部病院の総合外科学教室(佐伯外科)に燦然と君臨する、佐伯教授。その佐伯に重用される、無役の3年目医師・渡海。渡海は桜宮病院へアルバイトに行った際に、厳院長から様々な手術技法を叩き込まれ、元々素質がある上に経験値を積んで手術巧者となっていた。海外学会での天城との出会い、高階との軽い関わり、厳院長の息子・城崎との交流、へぇ~こんなところでつながるんだ~と感心。父の急死、高まる佐伯への不信、佐伯外科の分科に端を発する内紛と混乱、医療界の変化、そして渡海の失意と決意。 もちろん、昔の話なので田口センセたちは出てきません。ただ、垣谷先生が新人医師で猫田も新人看護師だったり、藤原看護師が渡海と同い年だと判明したり、黒崎教授がまだ講師だったり、東城大学医学部病院の歴史を感じる物語でしたね。 渡海の大胆で素早い手術の描写や、佐伯教授の院内政治の権謀術数や教室統治・・・、大学病院って大変だなぁ・・・なんて、アタマ悪そうな感想がつい、出てきてしまいます。桜宮…

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