『塗仏の宴 ~宴の支度~』/京極夏彦 ◎

文庫版 塗仏の宴 宴の支度 (講談社文庫) [ 京極 夏彦 ] - 楽天ブックス とある依頼により、関口が伊豆山中の「存在を消された村」をさがす物語から、『塗仏の宴 ~宴の支度~』は始まる。それぞれに語り手の違う6つの短編が描かれ、合間に「関口が手を下したのかもしれない事件」について、関口が警察に追及されるシーンが差し挟まれていく。京極夏彦さんの〈百鬼夜行 シリーズ〉の6作目は、なんと上下巻構成です。今までのシリーズ登場人物たちがそれぞれの短編で役割を果たし、不可解な事件・怪しげな組織などの謎をあとに残しつつ語られる本作、たぶんこれらの謎を解き明かして憑物を落とす続編『塗仏の宴 ~宴の始末~』。前編だけではわからないことだらけ、続きがとても気になります! 「ぬっぺっぽう」「うわん」「ひょうすべ」「わいら」「しょうけら」「おとろし」と妖怪の名を連ね、それぞれになぞらえた事件が起こって、語り手たちは右往左往する。途中、ちょっとだけ京極堂の語りが入ったりはするけれど、基本的には事件には関わってはいないので、憑物は落ちず、事態は解決に至っていません。これら6つの怪異は、どのような形で収束して、どのような「理(ことわり)」の光を当てられて、〈怪異なんてものは、ない〉と明らかにされるのか。 存在を隠された村、新興宗教、自己啓発団体、謎の占い師、古武術気功団体、漢方薬局の道場、催眠術、薬売り、風水術、神社に祀られている神の相違、様々な薀蓄の種は蒔かれ、芽を出しつつあります。これがどのように絡み合い、一つに…

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『平安ガールフレンズ』/酒井順子 ◎(エッセイ)

平安ガールフレンズ (角川文庫) [ 酒井 順子 ] - 楽天ブックス 平安女流文学の代表格といえば、紫式部の『源氏物語』と清少納言の『枕草子』。彼女らに加えて、藤原道綱母・菅原孝標女・和泉式部を「友達を紹介する」かのようにつづった本作、『平安ガールフレンズ』。酒井順子さんのおかげで、私も彼女たちにより親しみが持てるようになりました。ありがとう! 高校時代に『枕草子』を読み、自慢しいのいけ好かない女と苦手意識を持っていた清少納言に対して評価が変わったのは、そこから数十年ののちに読んだ小説から。そのあと、酒井さんの『枕草子REMIX』で「そうそう!敬愛する定子様のサロンを盛り上げるためだったのよね!」と盛り上がりったものです。そんな清少納言をはじめとして、まじめで内にこもっちゃう紫式部・耐え忍ぶ藤原道綱母・元祖オタク気質な菅原孝標女・恋多き和泉式部の5人の人生を丁寧に紹介。なんとなくは知っていても、それぞれ細かくエピソードが紹介されるたびに「え~、知らなかった!!」「私も似たような感覚ある~」「こんな時代でも、やっぱりそうなのよねぇ」と共感の嵐でした。 知らなかったのは、孝標女が30歳過ぎても結婚もせず、実家ニートをしてたことですねぇ。勧められて宮仕えをしてみても、あまり積極的でない彼女には耐えられず、実家引きこもりにUターン(その後、結婚はしたようですが)。そんなところも、オタク気質なのかなぁなんて、ちょっと笑っちゃいました。なんせ彼女は、少女時代に「物語を読みたくて、等身大の薬師仏を作って…

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『時を歩く ~書き下ろし時間SFアンソロジー~』/東京創元社編集部編 (アンソロジー)〇

時を歩く 書き下ろし時間SFアンソロジー【電子書籍】[ 松崎有理 ] - 楽天Kobo電子書籍ストア 水無月・Rは、超絶文系人間である。そのくせ、書評で科学が進んだ未来の物語に文学的情緒を感じると、SFの「サイエンス」な部分についていけないのに、ついつい手を出してしまうのでございますよ。もてぬ者の憧れ、というものもあるかもしれません(笑)。本作『時を歩く ~書き下ろし時間SFアンソロジー~』も、書評に惹かれて手に取った一冊です。・・・難しかった~(笑)。創元SF短編賞の受賞者である著者たちによる、様々な時間SFを、堪能しました。・・・うん、理解はしきれてないです。 「未来への脱獄」/松崎有理 刑務所で、タイムマシンを作る2人の虜囚。成功?したの?「終景累ヶ辻」/空木春宵 繰り返すタイムリープの中で、少しずつ己を昇華する方向に近づいていく。「時は矢のように」/八島游舷 人間の意識活動の停止という危機に向け、人体の精神と運動能力の加速をすることになるが。「ABC巡礼」/石川宗生 セミ・フィクションの旅行記の聖地巡礼を続ける人々。いくつもの流派が派生し・・・。「ぴぴぴ・ぴっぴぴ」/久永実木彦タイムトラベルが可能になった世界。未来の事故を防ぐために現代から派遣される者がやったことは。「ゴーストキャンディカテゴリー」/高島雄哉VR世界で火星に引越しし、とあるプロジェクトを請け負った者の30億年。「Too Short Notice」/門田充宏 死亡が決定した男。体感時間を引き延ばした最後に彼が願ったこと。…

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