『Spring』/恩田陸 ◎

spring (単行本) [ 恩田 陸 ] - 楽天ブックス 恩田陸さんの描く、芸術の世界の物語って、本当にすごい。『蜜蜂と遠雷』のピアノコンクール、そして本書『Spring』のバレエ、どちらも真摯にその芸術に身を捧げた人たちの創り出す舞台を描くその物語が、芸術に素養のない私の胸にも響き渡った気がします。バレエという芸術を愛し、バレエにも愛され、努力でチャンスをつかみ取り、舞台を作り上げようという仲間に恵まれ、自分の中の〈踊り〉を極めに極めて昇華していった、主人公・萬春(よろずはる)。その名に、一万もの春を持っている彼の、『Spring』。 実を言えば、実際のバレエの舞台を見たことがありません。TVやYouTubeなどの画面越しに部分的に見たことがあるだけで、バレエの用語や歴史などは今までの読書経験でちょっと知ってる程度だったので、読み始めは「物語についていけるかなぁ・・・」と、少々不安でした。でも、春について語る、3人の彼への畏敬の念や温かい感情につられて、〈すごいのに愛おしい〉という思い入れがどんどん高まって、物語に惹き込まれました。バレエの技巧描写もすごいのですが、場面場面に関わる登場人物たちの感情の動きがとても豊かに描かれていて、ニュアンスを感じられた気がします。もちろん、バレエに詳しい方は、もっともっと楽しめるのでしょうけれど。 春のバレエ団のワークショップ参加時からの友人でバレエ学校同期になる深津、春の教養の土台を提供し春の最初のファンである叔父、幼馴染でヨーロッパで音楽活動をし…

続きを読む

『文豪の死に様』/門賀美央子 〇

文豪の死に様【電子書籍】[ 門賀美央子 ] - 楽天Kobo電子書籍ストア 表紙のインパクトが、すごすぎる(笑)。小舟の舳先に座った芥川龍之介。裏表紙に向かうと、その小舟を操っているのはガリガリの河童。その背景には岡本かの子を描いた漫画。そして表紙に戻れば、白い文字で『文豪の死に様』。そりゃ、〈文豪〉たちがどんな死に様だったか、気にならずにはいられませんて。著者門賀美央子さんが選び抜いた、近代文学の〈文豪〉たちの死に様(つまりは生き様)、なかなか興味深かったです。 選ばれしは、樋口一葉・二葉亭四迷・森鴎外・有島武郎・芥川龍之介・梶井基次郎・小林多喜二・岡本かの子・林芙美子・永井荷風。それぞれ、どんな作品を物し、どのような生涯を経てきたかを描き、晩年や死因に関して言及。各人にサブタイトルでどういう死に様だったかを、一言で言い表しているのですが、簡潔にして極めて印象的、そしてツッコミ処がきちんとある。著者の略歴に大阪府生まれとありましたが、なるほどオチへの持って生き方が自然で解釈の仕方も人間味がありますなぁ。 それぞれの死に様一つ一つに私の感想を加えていっても、冗長になるだけですので、いくつかだけ。巻末の京極夏彦さんとの対談でも取り上げられていた「梶井基次郎の『檸檬』への違和感」、私も感じてました。教科書で読んだと思うのですが、「なんで本屋の棚差し荒らして檸檬置いてきたことが、こんなに「素晴らしいこと」みたいに取り上げられてるのさ」「確かに積み重なった画集の上に異色のレモンがぽつんと乗ってたら、…

続きを読む

『シャーロック・ホームズの凱旋』/森見登美彦 ◎

シャーロック・ホームズの凱旋 (単行本) [ 森見登美彦 ] - 楽天ブックス いやはや、森見登美彦さんらしい作品でしたなぁ!!迷走する登場人物たち、パラレルワールドが入れ子細工、ハラハラする展開からの大団円、なんかもうホントに楽しかったです!ヴィクトリア朝京都でワトソンが『シャーロック・ホームズの凱旋』を描いたこの物語、非常に良かったです!! 京都がヴィクトリア朝でシャーロック・ホームズがスランプで、っていう始まり方からして「え、ちょっと待って、なになに、どゆこと??」なのに、何故か自然に京都の町に女王陛下や辻馬車やガス灯が溶け込んで描かれていくのが、すごいですよね(笑)。さすがモリミー。 ヴィクトリア朝京都のシャーロック・ホームズは、「赤毛連盟」事件の失敗で、以前から感じていた躓きが明確になり、スランプに陥ってしまう。それによって、ホームズの活躍を雑誌連載をしていたワトソンも、休載を余儀なくされる。全くスランプから脱出できないホームズの下宿(寺町通221B)に、同じくスランプのモリアーティ教授が越してきて、更に向かいには最近探偵として名声を挙げつつあるアイリーン・アドラーが事務所を構える。ホームズはアイリーンとの対決で気力を取り戻すかと思いきや、なすすべなく洛西ハールストン館の竹林に庵を結んで隠棲しようとしたり、モリアーティ教授の失踪にショックを受けたり、引き受けた事件をすべてアイリーンに丸投げして自分は下働きに徹した末に、引退を宣言。更に、再度ハールストン館の謎に取り組んだ末に、失踪。…

続きを読む

『書楼弔堂 ~霜夜~』/京極夏彦 ◎

書楼弔堂 霜夜 [ 京極 夏彦 ] - 楽天ブックス 先の年末から、京極夏彦さんの作品を結構読んでいます。職場の休憩室で、〈なんかいつも分厚い本読んでるヘンな人〉が定着してきたワタクシでございますよ(笑)。で、今回は〈書楼弔堂 シリーズ〉の最終巻『書楼弔堂 ~霜夜~』にの世界にどっぷりと浸らせていただきました。確かに分厚かったですけどね、厚さは3.5cm・頁数は511頁、大したことなかった・・・?・・・うん、たぶん感覚が狂ってるな(笑)。 前作『書楼弔堂 ~待宵~』から5年の時を経て。新しき活字書体考案に取り組む青年・甲野が会社の代表・高遠に依頼され、弔堂を訪れようとして道に迷うところから、物語は始まる。坂の途中の茶屋の主人・鶴田は「自分は行ったことがないが行き着ける」と説明し、実際甲野は弔堂に辿り着く。夏目漱石や岡倉天心をはじめとするあの時代の著名人たちと出会い、彼らへの選本を横で聞き、下宿仲間の伯父の形見である錦絵を買い取ってもらったり、自分の郷里での仕事(版画の彫師)に思いを馳せたりしながら、日々を過ごしているのだが、彼には郷里に何かしらのわだかまりがあるようである。 甲野の会社の代表である高遠は、1作目『書楼弔堂 ~破暁~』の案内人・高遠ですねぇ。破暁のラストで姿を消した彼が、さりげなく「印刷造本改良會」なる会社の代表として、〈書物〉に関わる人物として登場。この『~霜夜~』がこのシリーズの最終巻であるという前情報は知っていたのですが、たぶん弔堂での経験に触発されて印刷造本の改良を目指…

続きを読む