殺人事件にしか、‘本当‘を感じられない僕は、クラスメートの‘森野夜‘の周囲にうごめく犯罪を観察する。
乙一の『GOTH~リストカット事件』は、「僕」と「夜」の犯罪観察の物語のような感じだけれど、本当に観察しているのはほぼ「僕」である。「夜」はその生い立ちのせいか、生来のものなのか、犯罪を引き寄せてしまう、妙な引力があるらしい。それを、僕はただ、観察する。手出しはしない。真正面から救おうとはしない。少しだけ手を貸すが、それも「愛情ではなく執着(多分犯罪観察のため)」から。
「僕」や「夜」の冷静な犯罪観察は、私的には信じられないが、もしかしたらこういう「殺人事件にしか真実味を感じられない」という病理もあるのかな?という気持ちになるほどの、リアリティのある文章。起こる事件はグロテスクでおぞましいのだが、2人の視線を通すと、さらっと私の中に入ってきた。そして、だんだんと毒が回る・・・、そんな読後感であった。
本当に恐ろしい小説、というのはこういうものかもしれない。
(2007.1.10 読了)
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- GOTH(夜の章・僕の章)
- Excerpt: 乙一 2005 角川文庫 気持ち悪い~~~。 私がミステリを読まなくしたのは、
- Weblog: 香桑の読書室
- Tracked: 2008-09-21 23:50
この記事へのコメント
香桑
えぐいものやぐろいものを求める、好きこのむ人もいるんですよね。
この小説に、ぐっと引き寄せられる人もいるんだろうなぁとは、思いました。
多数派ではないかもしれませんが、きっと。
主人公にいらつくより、化学教師や警察官のへたれっぷりに、お尻を蹴飛ばしてやりたいぐらい、いらっとしてしまいました。(^^;
水無月・R
「僕」の感覚には共感できないものの、案外に簡単に犯罪観察が自分の中に入ってくる感じが、怖ろしかったです。ホント。
確かに、犯罪者たちの方が駄目駄目ですね(^_^;)。