『日の名残り』/カズオ・イシグロ ◎

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『日の名残り』は、水無月・Rに自省することを思い出させた、と言ってよい。

あるとき、新聞の書評に『わたしを離さないで』が、掲載されていた。「不思議なムードを持つ作品」という書評に心惹かれたが、すぐには予約せず(水無月・Rは購入派ではなく、図書館から借りてくる派である)、時間がたった頃、また別の書評(今度は新聞ではなかったように思う)で『日の名残り』を知った。『わたしを離さないで』も良さそうだが、『日の名残り』の方がもっと、水無月・Rの好みにあいそうだ、とこちらを先に読むことにした。

伝統的な英国執事が「執事の品格」(品格、一時期流行った言葉ですね・・・)とは、と考慮しながら、かつての仕事仲間(メイド頭)を訪ねる旅に出る。執事やメイドが屋敷を切り回していた、よき時代を振り返りながら。多くの仕事をこなし、家中を管理する執事は、1日を振り返ることの出来る夕刻、その時間や雰囲気を、素晴らしく思う。
執事が置かれている現在は、英国の伝統的な屋敷を米国人が買い取り、出来るだけ合理的に運営しようとしていて、中々思うように仕事が運ばない。
かつて、執事とは屋敷内の全てを取り仕切り、主人のために屋敷内を整え、賓客をもてなし、さりげない極上のサーヴィスを提供していた。が、時代が変わり、執事を持たない紳士も増えてきたのだ。だが自分は、新しい米国人の主人の心に沿った仕え方が出来るのではないか・・・。

執事の品格がイコール主婦としての心得になるかといえば、そうではない。更に言えば、水無月・Rはあまり模範的な主婦ではないし、そうなろうとも思っていない。
が、『日の名残り』を読んで「執事の提供する心地よさ」を多少なりとも、提供できるようになりたい、品位を保った言動をしたい、と自省したのである。描かれる言葉や表現の美しさ、登場人物たちの正しい心の持ちよう、どれをとっても胸を打たれるものがあった。

(2006.10.16 読了)

日の名残り
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ハヤカワepi文庫 著者:カズオ・イシグロ

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この記事へのコメント

  • 紫陽花

    こんにちは、水無月・Rさん。ご無沙汰しています。
    久し振りにコメントさせていただきたいと思います。

    最近、かつて熱中して読んだ、カズオ・イシグロさんの小説を再び、読み返しています。
    今回レビューされています「日の名残り」は、本当に小説らしい小説で、大好きな作品ですね。

    スティーヴンスがコーンウォールへ車で旅行しながら、ダーリントン・ホールが華やかなりし頃の出来事を回想するだけの物語なのですが、とても美しい作品ですね。良い小説とは、こういった作品のことを言うのかもしれませんね。

    スティーヴンスの執事としての誇り、執事に大切な品格の話なども興味深いですし、気さくにジョークを飛ばす新しい主人に戸惑い、もしやジョークを言うことも執事として求められているのも仕事なのかと真剣に考えてしまうスティーヴンスの姿が、微笑ましくも楽しいですね。

    ここには、慇懃でもったいぶっていて、少々頑固な古き良き英国の執事の姿が浮かび上がってきます。
    20数年前、ダーリントン・ホールに来客が多かった時期の回想では、第二次世界大戦前から戦時中に行われた会議のことも大きく語られます。

    世界的に重要な人物たちを招いた晩餐での、スティーヴンスの仕事振りはお見事。
    慌しい中で冷静沈着に全てを取り仕切り、そのプロ意識は、父親の死さえ看取ることを彼に許さないほど。

    回想ながらも、その緊迫感や、見事に仕事をやり遂げたスティーヴンスの高揚感が十分伝わってきます。
    そして、一番面白かったのは、スティーヴンスとミス・ケントンのやりとり。

    最初はことごとく意見が対立し、冷ややかなやり取りをする2人ですが、かっかしている2人の姿も可愛いですね。

    美しい田園風景が続いたドライブ、そして最後の夕暮れの中の桟橋の場面に、スティーヴンスの今までの人生が凝縮されて重ね合わせられているようです。

    最高の執事を目指し、プロであることを自分に厳しく求めすぎたあまり、結局人生における大切なものを失ってしまったスティーヴンス。

    老境に入り、些細なミスを犯すようになったスティーヴンスは、おそらく今の自分の姿を父親の姿とダブらせていたことでしょうね。
    今や孫もいるミス・ケントンに対して、自分はあとは老いるだけだということも------。

    もちろんスティーヴンスの中で美化され、真実から少しズレてしまっている出来事も色々とあるのでしょうけれど、無意識のうちにそうせざるを得なかったスティーヴンス自身に、イギリスという国の斜陽も重なってきます。

    第二次世界大戦後のアメリカの台頭とイギリスの没落。ダーリントン・ホールの今の持ち主もアメリカ人。
    こうなってみると、戦前に行われた重要会議でのやりとりが皮肉です。

    そして英国では最早、本物の執事が必要とされない時代になりつつあるんですね。
    そんな中で「ジョークの技術を開発」するなどと言ってしまうスティーヴンスの姿が、切ないながらも可笑しいですし、作者の視線がとても暖かく感じられましたね。
    2023年09月30日 13:01
  • 水無月・R

    紫陽花さん、ありがとうございます(^^)。
    またいらして頂けて、嬉しいです。

    20年近く前に読んだ作品ですが、今でも「自分の仕事に誇りを持ち、誠実に心を込めて主人に、そして屋敷に仕える執事」の姿を思い起こすことが出来ます。

    紫陽花さんがおっしゃるように、英国の斜陽と米国の新興に重ねられた、穏やかで郷愁に満ちた回想と現在を顧みるときの一抹の寂しさが、丁寧に描かれていたと思います。

    カズオ・イシグロさんの作品に漂う、真摯な心持ちの美しさに触れ、「もっとこの作者の作品を読んでみたい」と思えた、とても良い作品でした。
    2023年09月30日 21:27

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