異界とつながる『夜市』では、なんでも手に入る。が、何かを買わないと、そこから出られない。
少年時代、弟と2人でそこに迷い込んだが買う金を持たず、弟を売って「野球の才能」を買い、逃れた男が再び「夜市」に入り、自分を売って弟を買うというが・・・。
かの昔弟を買った「人買い」が、男を騙し、偽の少年を売りつけようとする。が、それを看破し、「夜市の定め」により、「人買い」の罪を宣言した老人。実は、その老人こそが、かつて「夜市」で売られた「弟」であり、「夜市の中でいきる」ために「若さを売り」、老人の姿になっていたのであった。
異界と現実世界をつなぐ場所、誰でも入れるわけではない「夜市」。売り子は異形の、異界の者たち。何かを買わない限り、夜は明けず、出ることは出来ない。
その設定が、とても面白い。読んでいて、とてもゾクゾクした(怖さというより、スゴイ!という感心で)。
日本ホラー小説大賞受賞作品だと銘打ってあったが、どちらかというとホラーというよりは、ファンタジー。この文章の美しさ、非常に幻想的な物語だ。
もう1篇の「風の古道」は、日本を縦横に走るが、普通は目にすることも出来ず、はいることもできないという「古道」へ紛れ込んでしまった「僕」が、再び古道にり、古道で死んだ友達を蘇生させるために、「古道」生まれの若者と旅に出るという物語。「古道生まれの若者」と殺人者との攻防、「古道で生まれたものは出られない」「古道で死んだものは古道のもの」などの掟、そして「古道生まれの若者と殺人者の意外な関係」と、複雑にストーリーが絡み合う。
そこはかとなく、日本の美を感じさせる、物語構成と、意外なラストが素晴らしかった。
「夜市」も「風の古道」も、水無月・Rの好みにぴったり合いました。そこはかとない日本の美を湛えた美しい文章って、スバラシイ。
(こんなに読んで感激してるのに、どうして「美しい文章」を書けないんだろう・・・トホホ)
(2006.12.17 読了)
この記事へのコメント
藍色
ごめんなさい。うかがうのが遅くなりました(汗)。
想像を超えたストーリー展開に驚愕でした。
ホラー小説大賞受賞作ですが、ホラーというより、日本古来の伝承を小説としてよみがえらせたファンタジーっていう気がしました。
二作目の「雷の季節の終わりに」も面白かったですよ。よろしかったら。
水無月・R
「あなたのすぐ後ろに異界の口が開いていますよ」とか言われたら、腰を抜かしてしまいそうなぐらい、読んでて異界の気配を感じていました。
恒川さんの描く、美しくもさびしい情景が、染みいるようない、いい作品でしたね。
『雷の季節の終わりに』のお勧め、ありがとうございます!
是非読んでみますね(^^)。
やぎっちょ
本が響くのに感想がうまく(美しく)書けない。この本ってなんだかそんな感じでしたよね。静かにオリジナリティが立っているからでしょうか。。。
続けて読破していきます★
水無月・R
恒川さんは、ホントにいいですよ~。
きっと恒川さんには、異界とこちらの世界の境目が見えてるんだと思います。
そこを、いつのまにか踏み越えてしまう読者・・・。うっわ~、怖いですよ・・・。
すずな
作品から漂う怪しく美しい雰囲気に包まれ、どっぷりと浸りながらの読書になりました。ホラーというよりファンタジーという印象でしたね~。
他の作品も読まなくちゃ!と思いました。
水無月・R
忍び寄る美しい闇の世界、いいですよねぇ~。
私、恒川さんの作品、ホントに大好きです。
いつもの萌え叫び(笑)は出ませんが、ひたひたと忍び寄る異界に、対入り込んでしまいそうで、怖いのに、読みたい!のです。
yori
確かに思いっきり和で美な感じでしたね! シンプルであることは、こんなにも美しいのかと、読んだ時、感じたことを思い出しました。
水無月・R
侘び寂というか、陰翳のある雰囲気が、とても素敵でしたね。
これがデビュー作なのだから、恒川さんとは、ホントにすごい作家さんです。