『翼を広げたプリンセス』/タニス・リー ○

「ウルフタワーシリーズ」最終巻、『翼を広げたプリンセス』。今まで水無月・Rが読んできたタニス・リーのダークファンタジーとはちょっと傾向の違う、ジュヴナイル向けのファンタジーである。

生まれ育った<ハウス&ガーデン>を脱出し、荒地の旅を経て<シティ>にたどり着き、<ウルフ・タワー>の「掟」を破壊して<シティ>を脱出した、『ウルフ・タワーの掟』
移住の民「ハルタ」のリーダーとの結婚式の朝誘拐され、<ライズ>に送り込まれ、<ライズ>でウスタレスにまつわる謎を知り、また<ライズ>を脱出した、『ライズ 星の継ぎ人たち』
「ハルタ」を探し当てるが、誤解され追われて元リーダーを探す旅に出て、様々な干渉にあいながらも<ウインター>へたどり着き、恋人の「ハルタ」の元リーダー・アルグルとも再会し、自分の母と噂される「トワイライト・スター」にめぐり合い、事の真相を知る(クライディは結局プリンセスではなかった)、『二人のクライディス』

そして、本巻『翼を広げたプリンセス』に至るわけですが。全然、ダークさがない~~。いや、ジュヴナイル向けなんだから、あまりダークじゃいけないのでしょうが、爽やか過ぎる・・・。

本巻では主人公・クライディが、恋人・アルグルと出会いの地<ぺシャムバ>で結婚し、<ハウス&ガーデン>の友人を救出に行くと、<ハウス&ガーデン>では元奴隷仲間・デングウィの主導により革命が起こっていて、王族と奴隷が入れ替わっていた。クライディの歓迎パーティーでデングウィが王族の落胤あることが暴露され、居たたまれなくなったデングウィを連れて、<ハウス&ガーデン>を脱出。

そのまま「空の便り」に導かれ、<ウルフ・タワー>の支配者・イロネルの私邸へと向かい、そこで<シティ>のネミアンとムーン・シルク、<ライズ>のヴェン、<ウインター>のウインターとヌガルボと再会する。そこでヴェンとアルグルの母「ウスタレス(ジーラ)」の生存が明かされ、クライディ・アルグル・デングウィ・ヴェン・ウインター・ヌガルボの6人でウスタレスの暮らす<サマー>へ行くよう指示を受ける。

<サマー>の近くの海上で6人の乗った「インウェイ」が墜落し、ウスタレスの遣わした「オールド・マザー・シャーク」に収容され、<サマー>にたどり着くが、6人はバラバラにされ、ウスタレスの元になかなかたどり着けない。
一番にウスタレスの元に到着したクライディにクライディの持って生まれた力が強大なもので、ウスタレスすら対抗できない事が告げられる。ウスタレスは息子達と面会し、クライディはデングウィから出生の秘密(実は二人は異父姉妹)を聞き、そして仲間それぞれが、新しい歩みを始めるために<サマー>を脱出する。

え~~と。読んでて、ちょっとイライラしました。ウスタレスがあまりに、独善的で、超越した存在だから。それに対抗するクライディスが、まだ成長途中の少女、というのがあまりにも、心もとなくて。まあ、成長途中だからこそ、その潜在する力は強大にもなりえ、実際ウスタレスを越えてしまったのだけれど。

少女の成長物語であり、恋愛物語であり、どんなに策略をめぐらしても「自由」を求める者には叶わないことを描いた物語であると思う。タニス・リー的「ダークファンタジー」を求めると、物足りなさを感じる作品だが、持ち前の据わった根性で様々な試練を乗り越えるクライディの物語、爽やかな読後感は否めない。

(2007.3.22 読了)

翼を広げたプリンセス
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ウルフ・タワー 著者:タニス・リー/中村浩美出版社:産業編集センターサイズ:単行本ページ数:347p


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