アンドロイドやロボットが人間に奉仕し、人間は快楽にのみ生きる未来都市。人は死なず何度でも生命を復活され、外見や性別までも自由に変え、砂漠の中の巨大ドームの中でのみ生活する。奔放に生きる青年期・ジャング達は、破壊・狂乱をつづけるが、都市はそれをも包み込み、平穏に管理を続け、ただ人を生かしていく。
『バイティング・ザ・サン』とは、「太陽にかみつけ」(←たぶん)。この場合「太陽」とは、主人公達が暮らす「都市」の規律とか方針、とかをさすのかしらん。それに違和感を感じつつ、ジャングとしての習慣を全うする、主人公・カズマ(女性タイプ)。自殺を繰り返し、体の更新期間限度前に新しい体を手に入れたり、<サークル>という閉じられた人間関係の中で<結婚>(結婚しなければ体の関係を持つことは出来ない)したり、破壊活動をしたり、ドラッグに酔ってみたり、あらゆる放蕩を尽くす。が、満たされないし、世界に馴染むことも出来ず、孤独感は募り、様々な試みを続ける。
性別を男に替え、<結婚>をせずに友人ダナと生活する、カズマ。だが、ダナは別の都市で知り合った<大人>と、許されない同棲をしたため都市の委員会に間を引き裂かれ、傷心であった。ダナを巡って、ザーグと決闘した末、殺してしまう。もちろん、ザーグはすぐに<リンボ>(再生機関)に送られ、新しい体を得て復活するが、<殺人>という、恐るべき罪を委員会は重大視し、<人格消滅>か<砂漠への追放>かを選べと言われる。
そこでカズマは、委員会のアンドロイド達や都市の住民達の予想を裏切り、砂漠への追放を選び、女性体に戻り、都市を出て行く。最低限の生活と生命は保障されるが、体が衰え死亡するまで他者との接触は一切禁止されたその地で、カズマは緑の楽園を作ることを決意し、活動を始める。その活動を見た都市の住民達が訪れ、仲間になる。ダナとその相手のカップル、ジャングそのものの5人組、高度な知識を持った3人の大人、以前のカズマの男性体と全く同じ姿を持つ、謎の男。12人は、砂漠の谷を緑化する。が、カズマ達を危険視した都市のアンドロイドが混じっていて、破壊工作の末に謎の男・エステンは負傷する。都市からの援助や救助はなく、エステンは半身に火傷の傷を残すこととなった。
だが、砂漠の谷は見事に緑化され、また都市を脱出した住民が仲間に加わり、カズマとダナの妊娠が分かり、人間本来の営みがこの地に生まれる。
遠い未来、人間は労働することなく、自然環境から隔離され、ロボットなどに奉仕されて生かされるだけの存在となる。それに違和感を持つものが、都市を脱出し、人間本来の営みを取り戻す。
割とある、ストーリーです。ですが、タニス・リー独自の世界設定、登場人物たちの複雑な人格、などが絡まりあって、非常に味わい深い物語が編み上げられています。なんせ、巻頭に「用語解説」があるぐらいですから。
従来のタニス・リーにあった「ダークな耽美」は少々押さえ気味になっていますが、その分理不尽さのない、明快なストーリー展開があり、非常に読みやすかったです。ダークさは少なめでしたが、優雅な耽美は存在していて、満足できました。
~~ココから先は、感想と言うよりは、水無月・Rの無駄な深読みです。~~
人間は弱い。だから快楽に流されるままに、ただ生きてしまう。でも、それだけでは、満たされない。だから、庇護してくれる都市を脱出し、自分達の力だけで生きようとする。うん、そうだ。
もしかすると、都市はそこまで期待しているのでは。人間を保護することを最優先するプログラム。だが、保護されるだけの人間の生命力は、いずれ擦り切れてしまうのでは?だから、過酷な状況の中でも自力で生きる事を自ら選び、そして実際に生きのびる、そんな生命力の強い人間を「都市」は求めて、カズマ達を砂漠に追放したのではないか。いつか絶滅する、「人間を保護する都市という使命」の命綱として。
(2007.4.8 読了)
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