『村田エフェンディ滞土録』/梨木香歩 ◎

ブログを始めて、読むようになった作家、梨木香歩さんの作品です。流れるような美しい文章を書かれる作家さんですよね~。こういう美しい文章は、いいなぁ。読んでいて、安心感がとってもある。以前読んで、非常に感銘を受けた、『家守綺譚』 に出てくる「土耳古(トルコ)へ招聘された学者」が、主人公の村田さんな訳です。その村田さんの「土耳古日記」が本書、『村田エフェンディ滞土録』ということになりますね。

土耳古に招聘された日本人学者、村田は、英国人のディクソン夫人が営む下宿屋敷に住んでいる。その屋敷には、独逸(ドイツ)人考古学者・オットー、希臘(ギリシャ)人発掘研究家・ディミィトリス、土耳古人の屋敷下男・ムハンマド、そしてムハンマドの拾ってきた鸚鵡が暮らしている。

その屋敷は、なんとトルコ政府から払い下げられた遺跡の遺物を使って建てられており、たまに壁がぼうっと光ったり、異国の神の物を持ち込むと、屋敷中が鳴動したりするという、ちょっとした物の怪屋敷の様相を呈していたりする。そんな屋敷で村田は、同じ下宿人やディクソン夫人、ムハンマドと文化について論議を戦わせたり、お互いに知識を披露しあったり、連れ立って出かけたりして、生活している。飼われている鸚鵡と来たら、絶妙なタイミングで「失敗だ!」とか「おお、友よ!」とか、更にラテン語まで叫んだりする。

村田は、土耳古の革命に暗躍する婦人達の不思議な計画に織り込まれる。夫人達は土耳古の革命を支持する日本の高官に連絡を取りたいが、監視の目を潜ることが出来ず、エジプトから土耳古を経由して日本に帰る学者・清水を霊媒の力をもって手繰り寄せ、高官への連絡を依頼する。

突然日本に呼び戻された村田は、住むところを見つけるまで、学生時代の友人・綿貫が管理している友人の実家へ身を寄せる。そこで、死んだはずの友人・高堂に、土耳古から持ち帰った火竜の玉を渡す・・・。

後日、土耳古での革命を新聞で、革命の際のディミィトリスの死やムハンマドとオットーの戦死をディクソン夫人の手紙で知り、そして夫人から送られてきた鸚鵡の「友よ」の叫びに、村田はなす術もなく、うずくまる。
そして、物語はこの言葉で、締めくくられる。
~~私の スタンブール
   私の 青春の日々
   これは私の 芯なる物語~~ (本文より引用)

う~~ん、あらすじだけで長々と書いてしまった。いかんいかん。
霊媒の力をもって張り巡らされる不思議な計画、遥か遠い土耳古から村田の手を経て高堂の元へたどり着く「赤竜」、不思議な物語でしたねぇ。因果応報、じゃなくて、何て言うんでしょうか、こういうの。巡り巡って、あるべき場所へ物や人や物語が収まっていくと言う、非常に緻密な物語です。しかも、幻想的。神や歴史、文化や人々の持つ情熱が、タペストリに織り込まれるかのように、描かれていて、著者の筆力と物語の構成力に、とても感心しました。・・・いや、感心しましたなんていうのは、不遜だな
うん、素直に、すごい!素晴らしい!!と言おう。

最後に出てきた「火竜の玉」は、『家守綺譚』で、高堂が探していた竜宮?の姫の玉であろうと思われます。ちょっとだけ出てきた綿貫征四郎氏、よいですよねぇ。相変らず、脂気が抜けてる感じがして。『家守綺譚』の後も、きっと犬のゴローや池の端のサルスベリと、妖気溢るる高堂家で、淡々と暮らしてたんだろうな~、とついつい微苦笑。

トルコという国は、東西文化のぶつかり合う場所で、100年以上も前にそんな場所で、色々な国の青年達がそれぞれの思いを胸に力強く生きて、そして離れていっても、忘れる事の出来ない思い出を胸に刻んでいたのだ、と何だか浅薄な自分が、情けないというか、悲しいというか・・・真摯に生きる青年達の物語、とても素晴らしかったと思います。

(2007.6.12 読了)

村田エフェンディ滞土録
楽天ブックス
著者:梨木香歩出版社:角川書店/角川グループパブリッサイズ:単行本ページ数:220p発行年月:200


楽天市場 by ウェブリブログ

この記事へのコメント

  • やぎっちょ

    水無月・Rさんこんばんは~♪
    お話がつながっているなんて、誰かに教えてもらわないとわかりませんよね~。
    >最後に出てきた「火竜の玉」は、『家守綺譚』で、高堂が探していた竜宮?の姫の玉であろうと思われます。
    え!そうなの!?
    え、え、え~~~。全然見逃してました。。。ガーン!!
    こういうのいつもよく見逃すんですけど。。。(笑)
    2007年06月13日 01:18
  • 水無月・R

    やぎっちょさん、コメントありがとうございます!
    たまに、妙なところに気がついちゃったりするんですよ、てへ(*^_^*)。普段は抜けまくりなんですが。
    ・・・実は、今回のもうろ覚えだったのですが、多分、そんなエピソードがあったはずです(笑)。
    2007年06月13日 21:19
  • ERI

    こんばんは♪TBさせて頂きましたが反映されてますでしょうか?
    この「家守綺譚」とのさりげないリンクの仕方が、また凄いですよね・・。ほんと、いつも深く考えさせられます。
    2007年06月14日 01:49
  • 水無月・R

    ERIさん、コメント&TBありがとうございます。
    梨木さんの作品、これからもっと読みたいなぁ~、と思いました。物語の運び方や文章の美しさが、とっても好きです♪
    2007年06月14日 22:29
  • たかこ

    こんにちは。
    とても素敵なお話でしたね。
    梨木さんの、神とか見えないものを書く力ってスゴイな、と感じました。
    最後は悲しい部分もあるものの、家守とつながってびっくりとか…。
    梨木ワールド、たっぷり楽しみました。
    2009年10月08日 14:22
  • 苗坊

    こんばんわ。
    カキコありがとうございました^^
    素敵な作品でした~。
    梨木さんの書かれる独特の世界観が大好きです。
    リンクは私も驚きました。
    「家守綺譚」を後に読んだので、すぐにこの作品とリンクしていると分かりました。
    ただ、留学での異文化の関わりが描かれているのかと思ったら、とても悲しい結末で驚きました。
    切なくて、悲しかったです。
    2009年10月08日 23:47
  • 水無月・R

    苗坊さん、ありがとうございます(^^)。
    梨木さんの作品に流れる、繊細な美しさは、とても素敵ですよね。
    私としては、切ないんですが、でも現代の青年たちにはない、芯の強さを感じて、すがすがしい思いもしました。
    2009年10月09日 23:34
  • 水無月・R

    たかこさん、ありがとうございます&ごめんなさい!!
    コメントいただいてたのに、お返事できてませんでした・・・!
    梨木さんの描く、美しい世界が、すばらしかったですね。
    2009年10月10日 22:15

この記事へのトラックバック

  • 「村田エフェンディ滞士録」 梨木香歩
  • Excerpt: 羅馬硝子、醤油、馬、キツネ、宗教、革命、響くエザン、眠れぬ一夜、漆喰の壁、黒曜石の瞳。異国の地にて想うこと。異国の地だからこそ想うこと。そして、帰国した地にて胸に過ぎること。時は1899年。トルコの首..
  • Weblog: 読書とジャンプ
  • Tracked: 2007-07-07 22:22
  • 村田エフェンディ滞土録
  • Excerpt: 梨木香穂 2007 角川文庫 否応なく、時代も距離も隔たった、戦争の世紀の初頭
  • Weblog: 香桑の読書室
  • Tracked: 2007-11-18 01:22
  • 村田エフェンディ滞土録 / 梨木香歩
  • Excerpt: 今からだいたい100年前、トルコに考古学の研究のため派遣された村田さんの話。エフェンディというのは、学問を修めた人に対する敬称で、村田先生といった感じかな。 実は漢字が多すぎて、途中挫折しそうになっ..
  • Weblog: たかこの記憶領域
  • Tracked: 2009-10-08 14:15
  • 村田エフェンディ滞土録 梨木香歩
  • Excerpt: 村田エフェンディ滞土録 土耳古文化研究のため、招聘された村田は土耳古で、英国人のディクソン夫人や考古学者である独逸人のオットー。 発掘研究者のギリシャ人のディミトリス。 土耳古人のムハンマド。 そし..
  • Weblog: 苗坊の徒然日記
  • Tracked: 2009-10-08 22:42