三十年に1度、1つの町から人が全て消失する。そこで生活していた人々は、自分達が失われることを知りつつ、「町」の影響下にあるため、助けを求めることも、阻止することも出来ない。そうやって、消滅は繰り返されてきた。失われた人々を惜しみ嘆くことは、「余滅」を引き起こすとして、忌避されている。
そんな「町」と対抗する組織「消滅管理局」。「町」は意思を持って、人々を引き込もうとする。
ホラーと言うほどでもないけど、ミステリーだとも断言出来ず、ファンタジーな気もするけど、どうなんだろう・・・。ここ数年の読書の中で「作者さんの設定ノートが読みたい本 No.1」な作品です。水無月・R的に。三崎亜記サン、設定ノート見せてください~!
最初は日本国内の話かと思ったら、西域・居留地(香港のこと?)・古奏器・東部列強・強化誘引剤など、現在の日本にはありえない形容がどんどん出てくる。居留地内の南玉壁は九龍を思わせるが。
作品内でちょっとだけ出てきた「あの戦争」。そして、国内の町のあちこちに存在する高射砲塔。「自己同一障害」の治療法としての「分離」。そして『失われた町』に対する、人々の「穢れ」意識(この穢れ意識については、何となく日本人の嫌な面を感じなくもないですね)。
いや~、難しかった。なんと言ったらいいのか判らないけど、難しい・・・。途中で出てくる、専門用語(造語と思われる)や、音楽(音)の記述、宗教あるいは民族秘な習慣。このあたりに、ちょっと理解がついていけなかったです。
結局、物語の中で「消滅」を阻止することは出来なかった。阻止するために、人体実験を繰り返し、感情を抑制しても「町」に汚染され、それでも、研究や対策を続ける人々の、ひたすらな物語。有能であるが故に、消滅に対しての耐性があるが故に、苦しみや悩みや痛みを引きずりつつ、それでも消滅を防ごうとする、人々の努力。それが報われる日は来るのだろうか。
文章は美しく、物語の構造もシッカリしてます。だけど、ちょっと一気に詰め込みすぎたかなぁ~と。そんな気がしますね。現実世界と違う設定をもうちょっと詳しく説明してくれたら、もっと読み込めるんじゃないか。この物語のボリュームでは語りきれない、背景が描かれていたら。だけど、これ以上設定について文章を連ねると、『失われた町』という物語は、求心力を失って、失速してしまいそうでもあるし。難しいところです。
なんと、三崎作品の〈この国〉の地図を独自に作成された方がいらっしゃいます!
三崎作品を、より楽しめること、間違いなし♪本当に素晴らしいですよ!是非ご覧ください!!
ただし、たくさんの作品を網羅して作成された地図のため、本作だけでなく他作品のネタバレになる可能性があります。その旨、お気をつけくださいませ。
トドの部屋、Todo23さんの 三崎亜記の「この国」(地図&考察メモ)
(2007.0709 読了)
7/10追記。 昨日からモヤモヤしてたこと、一つ気がつきました。この物語の中で、「人」は既に精神体であると言う前提があると、「分離」や「町の意識にとらわれること」「音に強く反応すること」などが、案外受け入れやすくなりますね。ただ、そうすると矛盾する面もあり・・・うう・・・難しい・・・。
この記事へのコメント
ERI
もっと、理不尽に徹したら、もっと不気味かもしれない。例えばカフカの「城」のように・・。
水無月・R
おお~、カフカの『城』!
って、実は評判だけで、読んだ事ないんですけど、カフカと言うとあの理屈じゃない怖さ・・・、案外通じそうですね、確かに。
雪芽
900枚の長編なのに、それでも説明されない部分がたくさんありましたね。
設定ノート読んでみたいなぁ、ほんと。
エピソードごとのタイトルだとか、印象深い言葉もあって、この美しさは好みです。
水無月・R
TB&コメント、ありがとうございます。
印象的な表現がたくさんある、深みのある作品でしたね~。
私、三崎亜紀さんは『バスジャック』が面白かったです。スピード感がありながら緻密な展開で。
『となり町戦争』より良かった・・・と個人的に思ってます♪
たかこ
ホント、設定ノートが見たい作家さん1番ですね♪
これもこの世界に浸って楽しんで読めたんですが、ちょっと難しかったです。音とか分離とか精神的なものとかちょっとてんこ盛り過ぎた感じはします。
でも、気になる率1番です(^-^)/
水無月・R
そうなんですよねぇ!語られない部分が非常に意味深で。
三崎さんの作品はいつも、〈設定ノートが読みたい〉を合言葉のように掲げてます、私(T_T)。
でも、物語としての美しさは、本当に素晴らしいです。
香桑
不可思議な要素が出てくれば来るほど、見たことがない景色を眺めるようなわくわく感を持って読みました。
居留地の様子は九龍のようだし、西域に開かれた港町は神戸や門司や横浜を思い浮かべてみたり。
様々なお茶も味見してみたくなったり。音楽は是非とも聞いてみたいなぁ。
想像の余地が残されているところに、物語の豊饒さを感じつつ、この「失われた町」という重たさに胸がふさぐ読書となりました。
水無月・R
本当に、美しくて悲しくて切なくて、どこかにありそうで、胸が苦しくなるような、それでいて読むことはやめられない…というのが、今でも忘れられません。
そして、あの震災ののちの〈消失するものへの思い〉というテーマは、私たちにいろいろなことを考えさせますね。
失うこと、喪うこと。忘れたいこと、忘れられなこと。それでも、生きていくことを。