お?今まで水無月・Rが読んできた、昭和初期文学的桜庭一樹じゃないですね。ちょっとちがうな・・・。それも悪くないけど。
今日、図書館で借りてきたんですよ、『少女には向かない職業』。で、午後、一気に読み切っちゃったんです。ハイスピードで展開する、少女たちの殺人。どうしようもなく、自分を守るために、殺人を決行する葵と静香。読み始めたら止まらなくて、意外なラストまで、休むことなく読了。
~~中学1年生の1年間で、あたし、大西葵十三歳は、人をふたり殺した。~~ (本文より引用)
突然の告白で始まる、物語。えぇぇ~?!ホントか、抽象的な意味じゃなくて?と驚きながら、ぐいぐい物語に惹き込まれていった。
これは、相当引力のある作品だわ。
ぶっちゃけたストーリーとしては、主人公・茜がアル中で仕事もしない義理の父を殺し、その現場に立ち会った静香と、第2の殺人を犯す。ってことなんですが、ラストが意外。静香が「少女には向かない」≪殺人者≫という職業に耐え切れず、あっさりと、自首してしまうのだ。う~~~ん。微妙に、違和感を感じる。でも、≪殺人者≫に耐えられない少女だから、物語になったとも言えるかな。
第1の殺人は、完全犯罪。殺人というよりは、死ぬかもしれない状況を作っておいて、死にゆく義父を見殺しにした、って感じ。第2の殺人は、静香が生き残るための、闘い。
ストーリーのあちこちに現れる、島の中学生であるという閉塞感。何かから逃げ出したいのに、どうしたらいいかも分からず、仮面をかぶって過ごす日常。・・・痛いなぁ、ホント。確かに、中学生の頃って、こういう閉塞感にさいなまれてたかも。そこから抜け出すための、殺人。
ただね、殺人って、そんなにアッサリとやっちゃっていいものなんでしょうか、という非現実感があって、ちょっとなじめませんでした。第2の殺人なんて、根拠は静香の語る虚実入り混じりの動機だったし。どこまでが本当でどこからが虚なのか。分からないまま、殺人へと駆り立てられる、葵は、~~友達の期待に応えたかった。~~ (本文より引用)と、衝動に駆られて。
友達づきあいに、違和感を覚えていた、葵。そこへ現れた、孤高の黒髪美少女・静香。二人は、段々に近づいていく。そして、第1の殺人。2人は共犯者となる。第2の殺人は、2回計画される。
1回目は「冷凍マグロで撲殺」という、ある意味シュールな笑いの有る計画だった。残念ながらそれは実行できなかったけど。途中で挿し込まれる~~〈鍋にだし醤油と水を入れる。〉~~(中略)~~〈マグロを鍋で煮てしまう。〉~~ (本文より引用) には、思わず「それはちょっと計画的というかなんというか…どうなんだろう」とツッコミを入れずにはいられなかった…。
2回目は、閉園した巨大迷路に死体を放置という時点で「死臭ですぐにばれるんじゃないの?」というツッコミを入れてしまったし。
結局、2度目の殺人が、成就したにもかかわらず、自首。う~~ん、なんかなぁ。とは言え、すぐにバレるだろうし、隠し通すのも≪少女には向かない職業≫とは違ってきちゃうし。
殺人に関しては、ちょっと疑問を感じますが、2人の少女の関係の逆転が素晴らしかった、と思います。最初は殺人示唆をする静香の方が上位だったのに、第2の殺人の実行段階になって、葵は自分は特別なんだ!とバトルアックスを振り回し、静香を助けようとする。
お互いが特別なんだ、友達のために極限まで凄絶な≪闘い≫をすることができる。少女ゆえの拙さで殺人を犯してしまった、2人。
う・・・イタイなぁ。けど、こんなに純粋なのは、美しいな、って思うのである。
数年後の、2人の後日譚が読みたいな、と思いました。というか、もしかしたら、この物語は13歳の葵ではなく、当時を振り返る葵の語る物語なのかも。何となく冒頭の1文からそんな気がしてきました。
この物語の後、2人の少女はどうなるんだろう。「ひとごろし」として、罪をつぐなった後、2人はどんな大人になって、生きていくのだろう。心に翳を持って。
読み終わって、非常にあとを引く作品でした。
(2007.08.29 読了)
この記事へのコメント
すずな
冒頭の告白にはちょっとビックリでしたよね。「え?それってホントに!?」って私も思いました。
その後の二人の物語を読んでみたいですね。
水無月・R
TB&コメント、ありがとうございます。
桜庭さんの描く世界は、ホントに引力があって、読んでいて惹き込まれますよね。
いい作家さんと出会えたな~とホクホクしております♪
miyukichi
ラスト、お気に召さない方が多いみたいですね。
私は読んでて苦しかったので、かなりホッとしたというか、救いに感じたんですが。
桜庭さんの他の作品も読んでみたいです^^
http://blog.goo.ne.jp/miyukichi_special
水無月・R
TB&コメント、ありがとうございます。
なんだか、自分の中学時代の生き苦しさを思い出してしまった作品でした。と言っても、茜や静香のように殺したい人物がいたわけではなかったんですけどね。
2人の少女の壮絶な≪闘い≫。
幼いが故に、決行してしまった殺人。
桜庭さんの引力が、強力に現れた作品だったと思います。
香桑
冒頭を読んだら、嫌でも引きずり込まれてしまいました。
なかなか大人の手が主人公たちには届かなくて、もどかしい思いでした。口にされない声を、どれだけ大人は無視しているのだろう。どれだけ、子どもは押し殺しているのだろう、と悲しい気持ちになったので、ラストにほっとした1人です。
水無月・R
逃げられない現状を打ち壊そうと、犯してしまう「ひとごろし」。
彼女たちの痛いほどの絶望が、苦しかったですね。
ここまで来たら、最後までダークに行こうよと思った私ですが、確かに大人に救いを求めることができた(罪を犯した後だけど)、という意味ではほっと出来た気もします。