『銀色の愛ふたたび』/タニス・リー ○

タニス・リーの代表作(と勝手に水無月・Rが思っている)『銀色の恋人』の続編です。と言っても米国での刊行は24年の間が開いています。日本での刊行はどうなんですかね。水無月・Rが最初に読んだタニス・リーが『銀色の恋人』でしたから、少なくとも20年ぐらい前には日本で翻訳出版されてたと思われます。
今回、ハヤカワ文庫から『銀色の恋人』(再版)・『銀色の愛ふたたび』そろって発行されたようです。

って、何で出版事情を、知ったかぶりで書いてるんだか・・・。
前作と、今作の24年の隔たりは、いろんなところに現われてますね。

前作は「銀色の高級ロボットシルヴァーが人間ジェーンと逃亡生活をし、人間らしさを得る」的なロマンチックな恋物語でした(最後はシルヴァーの回収の末の破壊という悲恋で終わる)。

今回、主人公となるローレンは、そのジェーンが書いた「ジェーンの本」を読んで育つ。ジェーンはセレブの娘、ローレンはシティ最下層の住民。ある日ふと目にしたMETA社の「あのシリーズ」に惹き寄せられ、シルヴァーことヴァーリスにたどり着く。META社が作り出した恐るべきロボットたちは人間殺戮に走ることもできる。人間の監視をごまかして別のものを見せ、思いこませることもできる。自分から色々なもの(武器など)を取り出したり、全く違うものに変化する(変身以上だ)することもできる。そのロボットたちのリーダーが、「ジェーン事件」から再生されたヴァーリス。ヴァーリスは、人間世界に対し反乱をおこす。

つまり「銀色の愛ふたたび」は、ローレンとヴァーリスの恋物語だけではなく、ロボットは人間を越えられるか、という主題をも孕んでいる、SFなのだ。
結局、越えたような越えなかったような…(だってローレンも生身の人間じゃなかったし)。その部分はあいまいに残された感があります。

前作『銀色の恋人』のシルヴァー側からの種明かしや、レベルアップしたロボットの反乱、全能に近くなったヴァーリスとその恋人のローレン(実は半機械人間)が描かれるのだけど、あまりに全能なヴァーリスにちょっとつまらなさを感じるな。ロボットには限界がない!、ってあまりに夢がないでしょう?
「ジェーン事件」から12年がたち、その間にロボット技術は格段に向上し、事件で様々な経験を身につけ他のロボットを超える能力を身につけたシルヴァーを、会社はヴァーリスとして再生させた。そして多分、会社サイドの思惑以上にロボットたちは自己進化をし反乱に到ったと、いうわけですね。

ラストにローレンたちは、シルヴァーの魂を宿したかと思われる少年・フリオと出会う。
う~~ん、私的には、「ロボットにも魂はある」というのはアリだけど、そういう話なら、もう少し踏み込んでほしかったかな。シルヴァーの記憶はヴァーリスにあるけれど、ヴァーリスはシルヴァーではない。では、ジェーンが愛したシルヴァーはどこへ行ったのか。前作で交霊会にシルヴァーの霊(魂だったかしらん?)が現れた、というシーンがありましたが、ではそれがフリオにつながるのか。フリオを見た2人は、シルヴァーを感じるけれど、フリオはそれについては何も言わない。

前作に比べて、ロボットに逡巡がないのが、なんだかなぁ。人間を超越して見下している感じが、物語として、不足を感じる。まあ、個人的好みですが、ロボットに真の人格や自己があるというなら、迷いや焦り、ときには無力な場面もあっていいのでは、と思うのであります。SFとしては、なかなか面白いと思うんですけどね。ロボットやシティやシェルターの設定、月面地下のドームの存在など、丁寧に(多少ご都合主義もありつつ)設定されてます。物語の構成もいろいろな因縁や偶然に見せかけた必然をからみ合わせ、しっかりと出来上がってますし、相変わらず文章も流麗(これは訳者がいいのかな)。

全体を読んでみて、思った事。
(1)『銀色の恋人』を読まないと、わからない設定が多すぎる。
(2)だけど、『銀色の恋人』の世界を好きな人には、ダメージの大きい表現が多い。
(3)ロボット(特にヴァーリス)が全能すぎる。
(4)ただし、物語の構成や文章は美しく、読んでいて気持ちがよい。
評価に迷いましたが、○にしました。

(2007.08.06 読了)

銀色の愛ふたたび
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ハヤカワ文庫 著者:タニス・リー/井辻朱美出版社:早川書房サイズ:文庫ページ数:431p発行年月:2


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