「提供者」を介護する有能な介護人・キャシーは、過去を思い起こす。キャシーも「提供者」の養育施設・ヘールシャムの出身である。
「芸術能力へ偏重した教育」「提供」「親」「介護人」「猶予」など、あいまいに語られる、キャシーの思い出。
カズオ・イシグロさんが、外国人作家ではなく、在英日本人作家(著作は英語)だからでしょうか、なんだか非常に響くものがあります。何だろう、表現が難しいんですが、この国の昔からずっと積み重ねてきた文化の奥底をそっと揺り起こされ、でもそれは表面に出てこなくてまた水底に沈殿していくかのような・・・。(←何言ってるか分かりにくぅ!)
以前、『日の名残り』で、非常に抑えの利いた静かな文章を堪能したのですが、今回の『わたしを離さないで』も、感情的になることなく、恐ろしい事実が最初の方から仄めかされているのに、それでも淡々と真実を明らかにしてゆくキャシーの語り口が非常に印象的でした。
物語は、3部で構成されている。
第一部は、キャシーのヘールシャムでの思い出。親友ルースとトミー、保護官達との関係、たまに作品を引き取っていく謎の「マダム」。ヘールシャムから出ることはできない。毎週の健康診断。自分たちヘルシャームの生徒たちは、どんな目的でここに集められているのか。年齢を追うごとに、そっと段階を踏んで教えられていく「使命」。それは、生体間移植の提供者となることであった。
第二部は、ヘールシャムを卒業し、「コテージ」という施設で他の養育施設出身者とともに、外界とつながりながら共同生活を始めた、キャシーの思い出。ルースとトミーも一緒に生活する。コテージでの生活は、次の段階「介護人」の前の一休みといった様相。ルースの「親」ではないかという人物を見に、ノーフォークへ行ったり、「真に愛する者同士は提供を猶予される」といううわさに振り回されたりする。
第三部は、コテージをも卒業し介護人になったキャシーが、早くも提供者となっていたルースの介護人となる。親友だったルースと少しずつズレていってしまった日々を振り返り、お互いに取り戻そうとしたり、突き放し合ったり。トミーを訪ねて座礁船を見に行ったりする。ルースの遺言で、キャシーはトミーの介護人になる。ルースが教えてくれた「マダム」の住所を訪ねあの提供猶予の噂を確かめに行く。そこで、知らされたヘールシャムの真実。トミーは4回目の提供の末、死亡する。キャシーは介護人を辞める決意をする。
うわっ、相変わらずあらすじ長~いっ!
しかも「わたしを離さないで」のカセットの話が入ってないし。タイトルなのに・・・。
難しいんですよね、取り込み方が。何気なく挿入されているエピソードが伏線で、更にそこからまた謎が現れ、キャシーたちの共感や対立、いろんな出来事が雁字搦めになりながらも、勢いではなく静かなさざ波が広がるように、物語に沁み込んでいくという、ああ~表現がうまく出来ないっ!
最後の方で、キャシーとトミーが「マダム」を訪ね、エミリ先生から「ヘールシャムの成り立ちの真実」を教えられたシーンでは、非常に息苦しさを感じました。「生体間移植のためのクローン」が、平然と認められる世の中、クローンに人権をとヘールシャムを設立させはしても、クローンの提供を否定できなかったヘールシャム関係者たち、そしてあるがままにそれを受け入れるしかなかった、キャシーたち。声高にクローンの悲劇を叫ぼうにも、真実は幾重にも隠され、段々になし崩しに納得させられる、システム。
現代では倫理的にありえないことですが、でももし一歩間違ったら、生き続けたいと望む欲から起こってしまいかねない事態。きちんと考えてみると、すごく怖い作品でした。
(2007.10.29 読了)
この記事へのコメント
エビノート
『日の名残り』の書評も読ませていただきましたが、こちらもとっても良さそうですね♪
図書館で探して見たいと思います!!
水無月・R
私もこの作品と『日の名残り』しか読んでないんで、胸を張れるわけではないんですが、いい作家さんだと思います。
他の作品にも取り掛かりたいなぁ・・・(笑)。