あの【バチスタ・スキャンダル】から遡ること約20年・・・。
1988年、バブル景気に日本中が踊らされていたころ。東城大学医学部付属病院に、嵐のきっかけとなる講師が赴任してきた。小天狗とも阿修羅とも呼ばれ、高い外科技術を持つその男・後の院長となる高階である。これは、高階を指導医(オーベン)とする1年目研修医(ネーベン)・世良の経験した、東城大付属病院に吹き荒れた嵐の物語。
現在の医療界の問題の萌芽は、すでに、この頃から見られていたという・・・。
『チーム・バチスタの栄光』を始めとする東城大学医学部付属病院および白鳥&田口シリーズの、海堂尊さんの描く、過去の物語です。バチスタシリーズでは老獪だった高階院長が、結構熱血です。黒崎教授がまだ助教授で、藤原看護師が手術室の婦長で、千里眼眠り猫・猫田が主任で、ハヤブサ・花房が新人看護師。うぉぉ~。そりゃ~そうだ、約20年前だもの。しかも、期待は外すことなく、速水&島津&田口のトリオは研修中の学部生としてちょっとだけですが、出てきますよ。残念だったのは白鳥が出てこなかったことですが、ここで白鳥が出てきたら、出来過ぎだもんね。あ、でもナイチンゲール・水落冴子の歌がちょっとだけ出てきましたね、「ラプソディ」。
バチスタシリーズでは結構笑い処があったのですが、今回はシリアスですな~。視点が新人医師の世良だからでしょうか、それとも舞台が生死に常に直面する外科だからでしょうか。すごく手術シーンが多く、がん細胞摘出とか血液噴出とか新兵器「スナイプAZ1988」とか、・・・とにかく「おお~、医療界小説だ!」って感じです。手術器具の名前もいっぱい出てきましたねぇ。ペアンとか把針器とか。どっちも知らなかったですよ。でも、素人でも分かる(分かった気になれる?)手術描写で、全然OKでしたね。
タイトルの『ブラックペアン1988』は、佐伯外科教室のトップ・佐伯教授の特注医療器具・ブラックペアンから来ています。なぜ、佐伯教授はブラックペアンを使うのか。闇を吸い込むかのような、ひっそりとした黒さを放ち、物語の中心部にたたずむ、ブラックペアン。
緊急性の高い修羅場に手腕を発揮する、天才的技術を持つ医師・渡海。スナイプと高い技術で次々と手術をこなしていく、高階。二人の間で揺れながら、新人医師のホープとして成長してゆく、世良。佐伯の院長選出馬。他大学との意地や体面の張り合い。渡海の父と佐伯の確執。17年ぶりに現れた、患者。ブラックペアン。様々な要素が絡み合い、緊張の度合いが高まる中、時期を得てその企みは発動した。
佐伯と渡海の父の事件の真実。隠蔽される事実と、患者の命を救うペアン。
すべては、保身ではなく、患者を救うために。
うう~、全然書けない。何と言ったらいいのか・・・。海堂さんの物語は、医療従事者としての苦悩を描き出していますよね、本当に。その問題の深さは、私なぞ到底関わりえない世界で、こうして物語として描かれてるからこそ、その存在に気が付く事が出来る。
渡海が、佐伯外科教室の獅子身中の虫となり、佐伯に牙を剥いたその時、真実が明らかになります。残されたぺアンの理由。佐伯が手術の最後に必ずブラックぺアンを使うわけ。そして、ブラックぺアンが内包する、佐伯の矜持と悔恨。医療への深い思いが、非常に強く迫ってきました。
出来れば、渡海の行方も知りたいし、今後の世良の成長、田口センセたち3人の新人時代も知りたい。海堂さん、書いてくれないかな~。
あ、そうそう。田口センセのトラウマ(?!)は、ここにあったんですねぇ(笑)。でも、そのお陰で愚痴外来担当になり、白鳥とともに八面六臂の大活躍、東城大付属病院に欠かせない存在になったのですから、素晴らしいことで・・・。いや、私だって噴出する血液を浴びたら、トラウマになるよ!その後の3人3様のレポート、笑わせていただきました。世良先生もアタマ抱えるわな・・・(^_^;)。
(2008.03.02 読了)
この記事へのコメント
じゅずじ
みんな若い時代はあるんだと(笑
患者を救うため、と言いながら、患者に説明してなかったのはどうしてかな?
なんて、こともちょっと頭によぎりましたけど、スピーディで楽しめました。
渡海、世良、この個性ある二人の「次」も見てみたいですね。
すずな
若かりし頃の彼らの物語に、ちょっとウキウキしながら読みました。
ブラックペアンの意味は衝撃的というか、医者の矜持を強く感じました。海堂さんの”想い”みたいなものが伝わってきましたよね。
田口達もちらっと垣間見れて嬉しかったですね~。
エビノート
水無月・R
そう、あの老獪な人もキチキチ厳しい人も・・・若いころはあったのですね・・・。なんだか親近感を覚えます。東城大学付属病院の壮大な歴史(裏も表も)、全部知りたくなりました!
>すずなさん、ありがとうございます。
ブラックぺアン、その意味は本当に、衝撃的でした。医者であり小説かである海堂さんだからこそ書ける、臨場感あふれる物語に惹き込まれるばかりですね。
>エビノートさん、ありがとうございます。
人の命にかかわる医療現場だからこそ、問題点は山積み。皆が真摯に取り組むからこそ、この物語は切実に訴えかけてくる。
本当に、胸打たれるとは、このことですね。
モチロン、バチスタシリーズの皆さんのあまりの「らしさ」に微苦笑を隠せなかった私であります(^_^;)。
雪芽
登場人物も重なる部分があるしと、いままでの流れを予想していたら違っていましたね。
医療の理想と現実にみる葛藤がよりシリアスに、世良を通しての成長ドラマは青春の苦味が、お馴染の面々が随所に顔を覗かせるオマケポイントもあり、いろんな角度から楽しんで読めました。
渡海と世良、ふたりのその後が気になります。
水無月・R
シリアスな流れの中で、ぴょこっと出てくる3人組が、非常にイイ味出してましたね~。
勿論、そのシリアスな部分の深淵は、考え込まされることが多いですね。海堂さんの筆力・構成力には、本当に脱帽です。
それぞれの、その後の物語がとても気になりますね!
藍色
新人医師世良が主人公だったせいか、奮闘し成長していく過程がドラマチックで新鮮でした。
今後のシリーズにつながる人物たちの過去も楽しめましたね。
次がとっても楽しみです。
水無月・R
世良の成長は、高階だけでも渡海だけでも、このレベルには達せなかったでしょうね。そういう2人のいろいろな面を吸収して、とてもよいお医者さんになったのではないでしょうか。
だからこそ是非、世良の今後の物語を読みたいですよネ♪
空蝉
水無月・R
お気になさらず~♪
TBやコメントして頂けるだけで、とっても嬉しいんです!
おお、一人暮らしをはじめられて1ヶ月!
いろいろお忙しいことでしょう。私も引っ越し直後は、病院探しや安いスーパー探しに奔走したものです(←後半は、ビンボー主婦魂だって…)。
june
お馴染みの面々の20年前の姿にニヤリとしたり驚いたりという楽しみもあったし、
新人研修医世良の医師としての成長だとか、淡い恋心だとかもさわやかでよかったです。
医療現場の医療をめぐる葛藤も読み応えありました。
世良先生と渡海先生、シリーズのどこかで再び登場してくれるといいなって思ってます。
水無月・R
どの時代にも、最先端の現場には様々な葛藤があり、苦しい選択の中から、ベスト或いはベターなものを選ぶという事が、本当に大変なことなのだなぁと伝わってくる、すごい作品でした。
世良と渡海の2人は、東城大付属病院の医療への真摯な姿勢を引き継いでくれるといいなと思います。それぞれ、舞台は別の場所へ移ったとしても・・・。