『ナ・バ・テア』/森博嗣 ◎

~~僕は、
   空で
   生きているわけではない。
   空の底に沈んでいる。
   ここで生きているんだ。~~   (本文より引用)
前作『スカイ・クロラ』と同様、〈キルドレ〉であるパイロットの「僕」が主人公。空にいる時だけ笑うことが出来る。地上にいる時は息苦しい。

しかし、「僕」が草薙水素(スイト)だとは、途中まで気がつきませんでした。だって、女性だと思わなかったんですもん。
そう、この『ナ・バ・テア』は、『スカイ・クロラ』よりも前の物語です。草薙がパイロットだった時代の物語。
草薙は、冷静な判断力と高い戦闘技術によって、空中戦を「ダンス」する。
草薙は、空にいるときだけが、自分の存在を確かに感じられる。ずっと自由でいられる空にいたい。地上は、嫌だ。地上を這いずりまわる自分に、嫌気がさす。

やはり、状況説明はほとんどありません。「戦争」の目的はどこにあるのか?普通の人間「大人」と〈キルドレ〉の関係は?〈キルドレ〉達の感情。戦争請負会社の中の大人と子供(キルドレ)の、微妙な人間関係。
その中で、いくつか見えてきたこと。〈キルドレ〉は普通の子供達と一緒に学校に通う。〈キルドレ〉は妊娠が可能。〈キルドレ〉の胎児は生命力が強い。
けれど、やはり世界が見えてこない。分厚いガラス越しの歪んだ世界を感じる。それは〈キルドレ〉達の現実感のなさに拍車をかけている。

僕・草薙水素はとある基地に配属される。そこには「ティーチャ」と呼ばれる伝説的な戦闘能力をもつエースがいた。草薙もティーチャに憧れを抱いていた。ティーチャは〈キルドレ〉ではなく、珍しい普通の「大人」のパイロット。何度か一緒のミッションをこなし、ティーチャに憧れる(恋慕)女性パイロット・比嘉澤の死に立ち会い、衝撃を受ける、草薙。草薙はティーチャと一夜の関係を持つ。
いつしかティーチャを抜き、エースとしての地位を確立し、本部からは「〈キルドレ〉女性初の指揮官」への道を打診される、草薙。

その草薙に訪れた、一つの事件 ~妊娠~
彼女は堕胎を希望するが、ティーチャが堕胎後の子供を人工子宮で養育することを希望し、医師もその方法を選択する。「子供」のまま妊娠し子供を産むという矛盾。その子供への責任はティーチャが負うという。会社を辞め、飛行機に乗ることをあきらめてまで?草薙と子供の関係は切り離されるはずだが、心情的にそれでよいのかどうか、草薙は思いなやむ。
しかし、ティーチャと草薙は戦場で再会する。敵対するパイロットとして・・・。

ティーチャ(機体に黒猫を描いている敵)は『スカイ・クロラ』にも出てきました。あと、メカニックの笹倉も。それと、草薙が「殺した」という男は、栗田という名前じゃなかったかしらん。

〈キルドレ〉は、どこへ行くのだろう。ただひたすら、研ぎ澄ました戦闘技術で、敵を撃墜する日々。やらなければやられる世界なのに、なぜ彼らはそれを楽しむかのように空を飛ぶのか。リアリティの欠如した、影の薄い、不安定な存在。浮遊感。
読めば読むほど、不安をそそる設定なのに、読まずにはいられない。前作に比べても、全く謎(世界観)は解けないし、前作とこの作品の間の物語がどうなるかも予測がつかない。
が、惹かれてしまう。
続巻に、大いに期待を持っています。

『スカイ・クロラ』の表紙は雲の上の青空だったけれど、『ナ・バ・テア』では夕焼けに染まり立ち塞がるかのように盛り上がる雲が表紙になっています。今回は何となく、草薙の心情(子供を宿しそれを切り離したことへの逡巡)を映し出してるような気がします。(スカイ・クロラはカンナミの突き抜けるような空への憧憬かな?)


ナ・バ・テア
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著者:森博嗣出版社:中央公論新社サイズ:単行本ページ数:317p発行年月:2004年06月この著者の


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