『魔王』/伊坂幸太郎 ◎

このまま、流されるまま、ファシズムに染まるのではないか。力強く大衆を惹きつけ、自らの描くレールに乗せ、コントロールしようとする力。それに気付き、対抗しようとする主人公・安藤。安藤には、とある能力が発現しているのだが・・・。
私、今年は伊坂幸太郎作品の年になりそうな予感がします。
伊坂さん、本屋大賞とりましたしね!読んでいきますよ~!

今回の『魔王』は、『ゴールデンスランバー』を読んだ時に、本読みブロガーの皆さんが「話の雰囲気が似てる」「是非『魔王』も読んで」と教えてくださったので、急いで読んだものです。

政治や国そのものに不信感を持っていた、人々。力強い流れに、安易に流されていく大衆。その流れは演出されている。流されるのは楽で、簡単だ。
でも、考えろ考えろマクガイバー。
~~でたらめでもいいから、自分の考えを信じて、対決していけば。そうすりゃ世界は変わる~~ (本文より引用)

宮沢賢治の詩や物語を使って国民を煽り、断言口調で聴衆を魅了する政治家。ファシズムに流れ、自らの思考を停止させ、安易にそれについていく国民。選択肢を巧妙にコントロールされた、憲法第9条改正の是否を問う国民投票。
恐ろしいですね。この作品が発表された頃って、例の「自民党をぶっ壊す」とか言ってた人が首相になってませんでしたっけ?結局自民党はぶっ壊れず、多少の改革はあっても日本の全体像は変わらなかったですけど。あのころの内閣支持率はとんでもなかったはず。闇雲にただ、姿がいい、言葉が明快で勢いがあるからいい、と支持されていなかったか。
大衆は、勢いのあるものに流される。与えられた(しかも偏りのある)情報を自分の思考と思い込む。
安易な国民は、誘導できる。

タイトルの「魔王」はシューベルトの「魔王」で、「お父さんお父さん、魔王がそこにいるよ」とおびえる子供に、父親は「魔王なんていない、あれは風だあれは枯れ木だ」と言い続け、結局子供は魔王に命を奪われてしまう・・・というような歌曲だったと思います。魔王はそこにいるのに、見たくないから見ない。気がついた時には大切なものは奪われてしまった後なのだ、そんな警告を孕んでいるのでしょうか。
流されてはいけない、自ら考えて、危険に目をつぶらないで・・・。このまま、安易に流れて、大切なものを失ってはいけない・・・そう感じました。だからといって、何か行動できるというわけではないのですが。危機感を持って、大勢に迎合するのではなく、自分で考えを持たねばと。

安藤の「腹話術」の能力、バーのマスターの「脳溢血」の能力。安藤弟・潤也の「選択式なら必ず勝つ」能力。使える範囲が狭いささやかな能力だけれど、使い方によっては大きな影響力を持つ。安藤は、ファシズムを生み出そうとする政治家・犬養を阻止しようとしてその力を使うし、マスターは犬養を守るために犬養を害しようとする人間を排除するために使う。
そして、潤也は「大きな流れに勝つためにはお金がいる」と、競馬で10頭以内のレースに賭け、大金を手に入れている。(結局金が力、というのはちょっと残念だなぁ…でも実際、事実ではある)

安藤兄弟の、お互いを信頼し合ってる感じが、すごく良かったですねぇ。兄はとても頭がよくて、すごく良く思考を凝らして対処しようとし、弟の方は直観を頼りに真実に近づき、それをひっくり返そうとする。
『重力ピエロ』の兄弟もそんな感じで、最強コンビなんですよね。こういうの、いいですよね~。

ちなみに。
安藤の死を見守った‘千葉‘は、『死神の精度』の死神じゃないですかね?調査が仕事、とか音楽の話のときだけ生き生きするとか・・・。この部分は、ちょっと嬉しかった。案外、安らかに死に逝くことができたのも、千葉が見守ってたからじゃないでしょうか。

(2008.04.24 読了)

魔王
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著者:伊坂幸太郎出版社:講談社サイズ:単行本ページ数:285p発行年月:2005年10月この著者の新


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この記事へのコメント

  • やぎっちょ

    水無月・Rさんこんばんは♪
    ゴールデンスランバーに似ているという声があったのですね。以前雑誌で伊坂さんが「今の政治がどーのこーの」とインタビュー受けているのをチラ見しました。やぎっちょ基本的に他の職業の人が別の職業を云々するのが嫌いなので、それで人間としての伊坂さんは少し引き気味に。。。でも、伊坂さんは政治に関して物申したいことがあって、それが作品に出ているのかもしれませんね。

    ところでやぎっちょ最新記事で水無月・Rさんのことちょっと書きました。。。チェックしてみてください。。
    2008年04月25日 00:24
  • エビノート

    水無月・Rさん、こんばんは。
    『魔王』はメッセージ性の強い作品でしたね~。この中に描かれる世界、現実味があって怖かったし、考えさせられました。流されるのって怖いですね。
    安藤兄弟の関係にホッとできました。伊坂さんの描く兄弟って、お互いに信頼しあっていて読んでいると良いなぁ~と思えてきます。『重力ピエロ』の兄弟ともども好きでした。
    2008年04月25日 19:58
  • 水無月・R

    やぎっちょさん、ありがとうございます。
    コントロールする方も、唯々諾々としてされる方も、魔王なのだと思います。恐いですよね。
    でも、それじゃいけない、「考えろ考えろ!マクガイバー!」だ、と伊坂さんは言いたいのだと思います。

    えぇ?!やぎっちょさんの記事に私のことが・・・?!
    どっひ~、なんだろう・・・(汗)。後ほど伺わせていただきます~。
    2008年04月25日 21:26
  • 水無月・R

    エビノートさん、ありがとうございます。
    安藤兄弟の絆は、なんかいいですよね。だんだんと満ちてくる「群集心理」に、一筋の光を当ててくれました。
    きっと、潤也は勝ってくれます。軽々とではなく、苦渋に満ちた戦いの果てかも知れませんが。だって、兄貴がついているから。
    2008年04月25日 21:32
  • june

    「ゴールデンスランバー」を読んだ時、「魔王」を思い出して、「考えなかったからセキュリティポッドなんておかれちゃうんだよー」と思ったのでした。
    小説とはいえ、考えないってことは本当に恐ろしいことかもしれないとひしひしと感じました。
    この時は、腹話術なんてしょぼい力と弟がいるだけでしたが「ゴールデンスランバー」では逃げるだけとはいえ、たくさんの人の信頼や協力があったのがうれしかったんです。「魔王」の続編出るみたいですよね。弟がどんな戦いをするのか、どんな世界になっているのか、楽しみです!
    2008年04月26日 00:07
  • ERI

    こんばんは♪とんと、更新をさぼってた私のことを、忘れずにいてくださってありがとうございました。水無月・Rさんのレビューを読んで、今これを読んだら、また違う感想がでてくるのかも・・と思いました。なかなか再読って難しいんですけどねえ。時間がなくて・・。
    ほんとは、本って再読するのがいいとい思うんですけど。「でも、考えろ考えろマクガイバー。」この呪文は、やっぱりそうだと、今も思います。今だからこそ、余計に思うのかな・・。
    2008年04月26日 01:59
  • すずな

    こんにちは。
    周りに流されず、自分で感じて、考えて、行動する。それがどれだけ大切なことか、難しいことなのか。そんなことを考えさせられた作品でした。
    そういうところ、「ゴールデンスランバー」と似てますね。
    2008年04月26日 13:31
  • 水無月・R

    >juneさん。
    伊坂さんはこの『魔王』で「考えずに流されること」への危機感を、『ゴールデンスランバー』で「流されてしまった結果、コントロールされる」恐怖を描いたように思います。
    続編では、どんな戦いが描かれるのか、この先の世界はどうなるのか、非常に気になりますね。

    >ERIさん。
    私もよく「考えるのメンドくさい」と投げてしまうことがあります。
    些細なことならそれでいいとしても、やはり大事なところでは「考えろ考えろマクガイバー」を忘れないようにしたいです。

    >すずなさん。
    大きな力にコントロールされる方が、楽。でも、本当にそれでいいのか?
    『魔王』でも『ゴールデンスランバー』でも、自分で考えることで自分を救う、ということを改めて気付かされました。
    2008年04月26日 23:53
  • 藍色

    水無月・Rさん、こんばんは。
    記事を読ませていただいて、改めて『魔王』ってすごい作品だったなぁって思いました。
    自分で考え、行動する事を提起する作品でしたね。
    安藤と弟の潤也くん、そして詩織ちゃんの信頼感が素敵でした。
    2008年04月27日 03:19
  • 水無月・R

    藍色さん、ありがとうございます(^^)。
    『魔王』は、恐ろしい作品だと思います。
    自ら考えることを捨て、安易に流されることに疑問を持たないことが、こんなに危険なのだ、と伊坂さんは教えてくれたのだと思います。
    薄々その危険を感じてはいても、「考える」ことを放棄してしまいがちな、その危険への警告、しかと心得なくてはいけないのだと感じました。
    安藤兄弟、詩織ちゃんの絆は、いいですね~。人と人の間には信頼があってこそ、ですよね!
    2008年04月27日 22:17
  • 空蝉

    遅くなりましたがトラバとコメント返させていただきます♪伊坂さん、きっと小泉嫌いですよね(笑)私もですが。『魔王』は漫画にもなっていて、これがなかなか面白いです。原作とは又違ってるけど、別物として読めますよ。
    2008年04月29日 21:31
  • 水無月・R

    空蝉さん、ありがとうございます(^^)。
    ええ、きっとそうですよね。わたしも嫌いです、小泉元首相。あの人の「感動した!」にはすっごくイライラさせられました。
    マンガの『魔王』、気になってはいるんですが、さすがに青年誌なので…(^_^;)。
    2008年04月29日 22:31
  • たかこ

    こんにちは。
    モダンタイムスに続きますよね~。逆から読んだので、魔王を読んでこういうことだったのか~と話の結びつきが楽しかったです。
    それにしても、考えろ!ですよね。流されることの怖さを感じました。
    2009年07月17日 09:28
  • 水無月・R

    たかこさん、ありがとうございます(^^)。
    大勢に流されることの怖ろしさ、ひしひしと伝わってきましたね~。
    きちんと、自分の考えを持たなくては・・・と思いました。
    2009年07月17日 22:37

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